93話 ベッド
「ベッドはどこに置くんですか?」
「コウハイ君の部屋に決まっているでしょ。私の部屋にはエアコンがないし」
「ですよね」
週末、俺はセンパイと一緒にインテリアショップを訪ねていた。
理由は簡単だった。一緒に寝るには、どちらのベッドも小さすぎるから。
夫婦だから、一緒に寝るのが当たり前になったのだ。
「うわ、高っ……」
「だね。まあ、サイズを考えたら仕方ないけど」
「コスパ重視で行きますか、俺たちは」
「ふふっ、だと思った」
しかし、結婚をしてからは本当に支出が多くなった気がする。
指輪も買わなきゃいけなかったし、二人で一緒にデートする頻度も増えたからとにかくお金を使う場面が多すぎるのだ。
まあ、お金と引き換えてセンパイとの思い出を買ったと思うと、そこまで損だとは思わないけど。
でも、さすがに少しはケチる必要性を感じてしまう。
難しい顔をしていると、センパイが笑顔のまま俺を見上げてきた。
「すっごく悩んでいる顔」
「……6万円で行きますか」
「ふふっ、大丈夫?隣に4万円のものがいるのに?」
「長く使うやつですから、さすがに一番安いのはちょっと」
「長く使うやつか……どれくらい使うつもりなの?」
「まあ、10年ぐらいは使うんじゃないでしょうか」
「10年が経っても、私と一緒にベッドを買いに来てくれる?」
「20年が経っても、俺は一緒にいますよ」
しれっとそう返すと、センパイの目が少しだけ大きく見開かれた。
だけど、本音だった。結婚する前の約束期間は12年だったけど、結婚をしたからには……20年も、30年も、その先もずっと一緒にいたいと、俺は願っている。
周りの人たちが騒ぐ音の中、俺たちは静かにお互いを見つめ合う。
センパイは20年、という数字を嚙み締めているらしく、しばらく俯いてからまた聞いてきた。
「30年は?」
「俺はセンパイと死ぬまで一緒にいたいです」
「……………………………」
「だから、頑張りますね。俺がセンパイの不幸にならないように、できる限り」
全くの不意打ちだったのか、センパイは口までぽかんと開いている。
真っ白な肌は徐々に赤く染まって、可愛かった。
思わずぷふっと噴き出していると、センパイは目を細めて俺の手を握ってくる。
「……それって、一生傍にいてくれるってこと?」
「限りなく近い言葉ではありますけど、そうではないかもしれませんね」
「……生意気。気に食わない。バカ」
「叩かないでください……俺が悪かったんですから」
一緒にいたいですと一緒にいますには、大きな差がある。
センパイはその差をちゃんと理解していて、だからこんなにも拗ねているのだろう。
でも、俺の気持ちはちゃんと伝わったのか、センパイは俺の手をほどかないまま店員さんを呼んだ。
店員さんに一緒に説明を聞いて、お支払いをして、俺たちは店を出た。
三日後には、いよいよ毎晩のようにセンパイと一緒に眠ることができる。
「コウハイ君」
「はい」
「今日、一緒に寝たい」
「……なんでですか?」
「夜に熱いけど、私の部屋にはエアコンがないから」
「…………なら、仕方ありませんね」
「…………うん、仕方ないよ。きっと」
でも、俺が関わればすぐ短気になるセンパイは。
ベッドの到着も待たずに、あえて狭いベッドの上で一緒に眠りたいらしい。
その姿さえも最高に可愛くて、俺は幸せに打ちひしがれる。
センパイと繋いでいる手に力を入れて、俺たちは家に向かった。
二人の家へ。
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