90話 コウハイ君との子供
酔った勢いでセックスをするのはあまり好きじゃない。
感覚も鈍る感じだし、すべてが嘘っぽく見えてしまうのだ。息遣いとか、言葉とか、間をつなぐすべてのものに、現実味がないから。
でも、私はあえてコウハイ君を誘って、コウハイ君の懐の中にいる。
私を優しくベッドに下してくれたコウハイ君は、すぐに私を覆いかぶさるような態勢をとった。
「……エッチ」
「センパイのほうじゃないでうすか、それは」
「私は、コウハイ君のせいでエッチになったんだもん……」
割と、本音だった。
コウハイ君が初めての相手だから他は知らないけど、私はこんなにも性欲があるんだと感じられたのは、すべてコウハイ君のせいだった。
コウハイ君が私を狂わせる。私の人生の方向性をすべて自分に向けさせて、私を自分のものにした。
そして、コウハイ君のものになった私は、だいぶ幸せになっている。
「ちゅ~」
「……もう」
わざとらしくキスをせがむと、コウハイ君はすぐに私の唇をふさぐ。
唇同士の触れ合いが徐々に舌の絡まりに、ねっとりとした唾液交換になっていく。
キスは好きだった。頭がぼうっとして、何も考えられなくなる。
言い換えると、頭にコウハイ君がいっぱいになってしまう。
「んん……ちゅっ、ふぅ、ふう……」
「……センパイ、最近キス上手くなってませんか?」
「コウハイ君がそれを言うんだ……私に負けたことないくせに」
むすっとしながら、私は両腕を上げて万歳のポーズを取る。
「脱がせて」
「はい」
最初に戸惑っていたコウハイ君はもういない。
もう、手慣れたようにシャツを脱がせてブラのホックを外して、私を優しく抱きしめる生意気君しか残っていなかった。
惜しいなと思いつつも、服を脱がせてもらっただけでも気持ちいい。
「……そうだ、今日危険日」
「えっ」
「ゴム使う?いつものように」
「…………………」
コウハイ君は間をおいてから、ゆっくりとうなずく。
「センパイのためですから」
「…………………」
当たり前にそう言っているコウハイ君に、私はなにを言い返せばいいかわからなくなる。
こんなにも魂が通じ合って、素敵で献身的な男を他に出会えるだろうか。
やっぱり、コウハイ君は一生私のそばにいてくれなきゃ困る。いないと私は、死ぬ。
物理的な死だけが死じゃないから。欲望が消える時、愛がなくなった時も……死だから。
私は、コウハイ君とまたキスをして、ゴムをちゃんとつけたのを確認した後。
酒の勢いと見せかけて、しれっと言ってみる。
「生でしたいと言ったら、どうなるの?」
「…………」
コウハイ君はまた困った顔をしてから、急に私の頭をなで始めた。
「センパイ」
「うん」
「私は、センパイが大事です」
「知ってる」
「だから、もっとセンパイの体を大事にしたいです。今の俺達には……まだ、なんの計画もないじゃないですか」
「……うん、そうだね」
「生でしたいんですか?センパイは」
……自分で断っておいて、なんでこんな質問を投げるのかな。
目を細めつつも、私は本音を口にしてみる。
「半々、かな」
「……半々」
「うん。子供が生まれたら……コウハイ君が私の傍から離れるのが、もっと難しくなるんじゃないかなって思った」
「子供に悪いですよ、その考え方」
「知ってる。だから、半々にしたの」
コウハイ君は笑いながら、また私の頭をなで始める。
コウハイ君のコウハイになったようで面白くないけど、気持ちいい。こんなに、愛おしそうな眼差しと共に頭を撫でられるのは、大好きだ。
「センパイ」
「……うん」
「俺たちはもう家族ですから、大丈夫ですよ」
「……家族、か」
「はい。家族ですから……センパイは、怖がらなくていいんです」
「………………」
急に生でしたくなったと言ったら、どうなるんだろう。
そんなことを考えるよりも先に、入れられてしまった。快感が全身を駆け巡って、思考のヒューズが飛ぶ。
体に染み込んだアルコールでも、セックスの快感とコウハイ君の愛を薄らぐことはできない。
直感的にそう感じながら、私は旦那様に抱きついた。
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