68話  私の大好きなコウハイ君の約束

ホテルに来るのも久しぶりだなと主蔦。


手を繋いだままエレベーターに乗ると、やけにコウハイ君の感触が伝わってくる。


私よりずっと大きくて、力強くて、暖かい手。


変な話だ。数えきれないくらいエッチとキスをしたくせに、手を繋ぐ行為に緊張感を抱くなんて。



「…………」

「…………」



それでも、私は少しだけ緊張してしまう。今からコウハイ君に抱かれると思うだけで、胸が勝手に高まってしまう。


握っている手の力が段々と強くなって、部屋の前に着いた時にはもはや、痛いくらいになっていた。


そして、部屋に入った途端に、コウハイ君の手は私の腰に回されて。


そのまま、私は乱暴に唇を奪われる。



「んむっ……!ちゅっ、ん、んん……」



ビクッとしながらもある程度予想していた私は、すぐにそのキスを受け止めて、簡単に溶けていく。


コウハイ君に塗りつぶされていく。愛おしそうに頭を撫でる感覚が私を蝕んで、私をコウハイ君のモノにしていく。


靴もまた脱いでいない状態なのに、唇はずっと触れ合っているままで。


薄目を開けて様子を確認したら、コウハイ君の瞳が未だに閉ざされているのが分かった。


そのまま、私も目をつぶって、コウハイ君の腰に両手を回して体をくっつける。


本能的な自分の行動に驚きながらも、キスがその驚きをぼやけさせる。意識ごと持って行かれる。



「んはっ……!はぁ、はあ、ふぅ……はぁあ……」

「………ふぅ、ふぅ」

「……キス、長すぎ」

「……センパイが離してくれないからじゃないですか」

「なに言ってるの……コウハイ君が押し付けてくるからでしょ」



息遣いが届く至近距離でそんな会話を交えて、私たちはどちらからともなく靴を脱いで、移動する。


ヤバい、と私は直感的に察した。


このままエッチをしたら、私の気持ちがバレてしまうかもしれない。


バカな私は今さらながらそれを感づいて、コウハイ君から離れようとする。


でも、コウハイ君は私を離してはくれず、もう一度唇をふさいできた。



「んんっ!?!?ん………ちょっ、んんっ……!」



膝に力が抜けて、そのまま床に倒れそうになるのをコウハイ君が支えてくれて。


私はそのまま、簡単にベッドに押し倒された。押し倒されるその間際にもコウハイ君はキスをやめずに、執拗に私を溶かしてきた。


胸板を叩いて唇を離そうとするけど、コウハイ君の舌が邪魔をする。


私は文字通り食べられていて、それを私は喜んでいて、もう仕方がなかった。



「んあぁ……ふぅっ、うぅっ………」

「………」

「……激しすぎ」

「……ごめんなさい」



コウハイ君は微かな笑顔のまま、私の頬についている髪を優しく耳にかけてくれる。


そんな仕草一つ一つに私の体は勝手に反応して、益々全身が熱っぽくなっていく。


私はコウハイ君が好きだ。私はコウハイ君を愛している。


でも、その事実がバレてはいけない。その事実がバレたら、両想いってことになるから。


その両想いがたどり着く先は、間違いなく恋人という関係だ。でも、私は恋人の関係を望んではいない。


私が望むのは、永遠だ。


一生じゃなきゃ、生涯一緒じゃなきゃ意味がない。コウハイ君と別れても大丈夫だと思えるほど、私は強い人間じゃない。


だから、私は震える唇を無理やり動かしながら言う。



「……エッチ、したくないって言ったらどうなるの?」

「……今回ばかりはさすがの俺も怒るかもしれません」

「じゃ、キスは?」

「キスだと、なおさら」

「……………」



ダメだ。コウハイ君は絶対に私を逃がしてくれない。


私がなにを感じているのか、なにを思っているのかも知ってるくせに、私を放っておいてくれない。


あっという間に目がうるみ始めて、どうすればいいか分からなくなる。


恋人なんて嫌だ。別れるなんて無理だ。子供みたいにそんな考えだけが頭の中を支配する。


コウハイ君は私のその表情をジッと見つめてから、私の額に短いキスを送ってくる。


それから、苦しいほど強く私を抱きしめて、言ってくれた。



「一緒にいます」

「…………っ」

「一緒にいますから、大丈夫ですよ」



………この男は、私が嫌がる言葉ばかり言う。


そうやって私に侵食して、勝手に変えて、私が知らない私にしていく。本当に悪質だ。


コウハイ君のことなんて、大嫌いだ。



「……そんなに自信あるなら、約束して」

「一生は無理ですよ、今のところは」

「……5年」

「はい?」

「5年。5年で妥協してあげるから、約束してよ。早く」

「………」



コウハイ君はゆっくりと体を離して、ベッドで押し倒されている私をジッと見つめる。


家の契約が終わった後にも、私たちは一緒にいる。その言葉は未だに生きていて、私たちを繋ぐ大切な約束となった。


でも、はっきりとした期間を設定したわけではない。その辺りがけっこう曖昧で、だから私は思い付きで5年、と数字を与えたのだ。


……願わくば、もっと一緒にいたいけど。


コウハイ君に好きって感情を隠すために、私が私を押し殺すために。


私は5、という低い数字を、口にするしかなかった。



「……今から5年でいいんですか?」

「そう、今から5年」

「…………あはっ」

「………なに?なんで笑うの?」

「思った以上に低いな、と思いまして」



えっ、とバカみたいな声を上げるも前に、コウハイ君はもう一度私を抱きしめてくる。



「……10年、くらいは………一緒にいるつもりだったので………」

「………………………………」

「………………………………だから、10年にしてください」

「…………ぁ」



あ、ああ………本当に。


なんなの、この男。本当に、なんなの………。



「……分かった」

「……はい」

「……言質取ったから」

「……はい」



どんどん私は堕ちていく。たかが10年なのに、チョロい私は完全に溶けてコウハイ君を受け入れてしまう。


10年もまだ短いのに、コウハイ君からその言葉が出た瞬間には嬉しくて嬉しくて、心臓が弾けそうになっていた。



「……好きじゃない」

「………知ってます」

「好きじゃないから、本当に……」



自分に言い聞かせて、コウハイ君にも知らしめるような言葉を何度も口にする。


好きじゃないから。嫌いだから。絶対に、好きじゃないから。


でも、私はもう知っている。


私の好きも、コウハイ君と同じだ。いくら隠しても勝手に漏れ出てしまうくらいには、私の好きもけっこう、濃い。


それを知っていながらも、コウハイ君が先に10年って言ってくれたことが。


私は、たまらなく嬉しかった。


20年以上生きてきた中で一番輝かしかった一日は、コウハイ君で幕を開けて、コウハイ君で幕を閉じた。


それがずっと続ければいいと、心からそう思った。

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