お花見
61話 センパイの様子がおかしい
最近、センパイの様子がおかしい。
「……………」
「…………どうかしましたか?」
「ん?あ、ううん。違う、なんでもない」
「そうですか」
一緒に映画を見ている途中で、ジッと俺の横顔を見てきたり。
「コウハイ君、眠いの?」
「ですね……平日にあんま寝てなかったんでからね」
「じゃ、私の膝貸してあげる」
「……??」
普通に部屋に行って寝るつもりだったのに、膝枕を提案してきたり。
「そういえば、そろそろセンパイもエプロン買った方がいいじゃないですか?最近のセンパイ、よく料理作ってますし」
「……大丈夫だと思うけど」
「いや、俺のエプロンをセンパイが着てるから」
「大丈夫だけど」
エプロンのことで、意味不明な言動を取ったりと。
以前のセンパイもよく分からなかったけど、最近のセンパイはもっとよく分からない気がする。
その分からないの方向が俺の得に転がるからいいとしても、最近のセンパイは……ぐいぐい来るようになったというか、そんな状態だ。
「今日のデザートはバウムクーヘン」
「えっ、これどこで買ったんですか?」
「ほら、私たちがよく行くパン屋あるじゃない?そこで新しく出たのよ」
クールな笑みを湛えながらフォークを差し出してくるセンパイは、いつもと変わらないセンパイだった。
こうやって、食事が終わってお互いしょうもない話をしながら見つめ合うのも、別におかしなことじゃない。
なのに、今日のセンパイはやけに俺に視線を向けている気がする。
「………センパイ」
「うん?」
「正直に言ってください。なにかありましたよね?」
「えっ?なんで?」
「いや、調子狂うというか、センパイの視線が痛いというか」
ちょうどホワイトデー辺りから、センパイの表現が露骨に鳴り始めたと思う。
俺は全く気付かなかったけど、あの時にセンパイの中では、何かが変わったのかもしれない。
でも、そうだと確信しているわけじゃないから、もじもじしたまま言葉を放つと。
「……ふふっ、好きな人から向けられる視線でしょ?」
「っ………」
とんでもなく繊細なところを突っ込んできて。
俺は一瞬口ごもって、何も言えなくなってしまう。
そんな俺の反応を楽しむように、センパイはコーヒーを飲みながらバウムクーヘンを咀嚼していた。
「うん、美味しいね。また買おうかな」
「……」
「……なに?」
「俺のこと、からかってますよね?」
「コウハイ君をからかったことなんてないよ?」
「やっぱからかってるじゃないですか」
「心外だな……私がそんなにひどい女に見える?」
「センパイは優しいけど、時々酷くもなりますからね」
目を細めながらそう返すと、センパイは俺から目を逸らした後にぷふっと笑った。
「分かった、からかってごめん」
「なら、お仕置きが必要だと思いますけど」
「……しれっととんでもないこと言わないで。お仕置きなんて、そこまでの悪さはしてないでしょ?」
「最近エッチもやけに避けてるじゃないですか」
「………………………」
センパイはもう完全にそっぽをむいた状態で、答えるのを半ば拒否している。
俺ははあ、とため息をついた後に、また口を開く。
「……お仕置きまでは行かなくても、埋め合わせくらいはして欲しいんですが」
「……埋め合わせまでの悪さもしてない」
「最近、俺のことずっとからかってましたよね?スキンシップの頻度は増えたのに、エッチはずっとお預けでしたから」
「コウハイ君がそういうのに敏感なだけ。私はいつも通りだった」
「なら、いつも通りエッチもしてくれますよね?」
「………………」
センパイはけっこう間を置いた後に、少しずつ顔を赤らませて。
まるで恥ずかしがるように、首を小さく振りながら言う。
「……………やだ」
「…………………」
「エッチはダメ。キスもダメ。とにかく、ダメ」
「…………理不尽すぎるんですが」
「いつも通り私を受け入れて。私のことす………す、好きなんでしょ?」
「センパイって、相手の弱みを握って振り回すような人でしたっけ」
「……うん、そんな人だから、エッチなことは全部ダメ」
「……………」
俺はゆっくりと立ち上がって、センパイの横まで歩いていく。
そして、その前に私の動きを察知したセンパイはあわただしく立ち上がって、俺から離れようとした。
「どうして逃げるんですか?」
「やだ、エッチ反対」
「別にエッチする気はないんですけど」
「ウソ言わないで。完全にケダモノの目付きしてるくせ……きゃっ!」
でも、所詮は狭い2LDKの家。
俺は逃げようとするセンパイの手首を簡単に掴んで、壁際に押し付けた。
センパイはいっそう顔を赤くさせながら、唇をぎゅっと引き結んで俺を見上げてくる。
「は、反対って言ったじゃん……!」
「…………俺だからここまで我慢できてたんですからね?」
「っ………」
「センパイ、やっぱり最近ちょっと様子変じゃないですか?」
もう逃げられない距離まで追い詰めて、俺はセンパイに聞く。
センパイは片方の手首を握られたまま、精いっぱい俺から顔を離そうとした。
反応がおかしい。これは、俺が知っているセンパイの反応じゃない。
これじゃ、まるで……。
「……へ、変じゃない」
「………………………」
「変じゃないから……なに言ってるの」
迫られて、恥ずかしがっているようじゃないか。
あのクールなセンパイが。しれっとエッチを誘ってくるセンパイが、まるで乙女みたいに顔を赤らませて、戸惑っているなんて。
……この反応さえもセンパイの策略のうちかと想像してみたけれど、違う気がした。
耳たぶまで赤くさせて、精いっぱい俺を見ないようにして、それでも抵抗しないなんて。
もしこれが演技だったら、センパイは今すぐに劇団かなんかに入るべきだと思う。
「これ、センパイのせいですからね?」
「……コウハイ君のせいだよ」
「センパイの責任です」
「コウハイ君が悪いのに決まってんじゃん」
「……分かりました。俺が悪いことにします」
「えっ?ちょっ……!」
我慢できずにセンパイの顔を無理やりこちらに向かせた後、すぐにその唇を塞いだ。
センパイは一瞬びくっと体を跳ねさせて、すぐに蕩けそうな表情で目をつぶる。
その姿を確かめて、俺の心臓はまた痛いくらいに鳴り出す。なんなんだ、これ。
なんで、こんな反応するんですか、センパイ。
いくらなんでも、この反応はおかしいじゃないですか。
そう叫びたいの衝動をそのまま唇に乗せてキスをすると、センパイはあっという間に膝から力を抜かして、その場で崩れようとしていた。
慌ててそれを両腕で支えたら、至近距離でセンパイの息遣いが届く。
「はぁ、はぁ、ふぅ…………」
「…………っ!」
「……本当、嫌い。私の言うこと、なにも聞いてくれない……」
……前言撤回。
やっぱり、どう見ても悪いのは俺じゃなくて、センパイだ。
俺はセンパイをぎゅっと抱きしめた状態のまま、俺の部屋に向かう。
センパイは特に抵抗もせずに、俺にしなだれかかっていた。
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