20話  私はコウハイ君にキスマークをつけて

2年は無理だと思います。その前に、俺たちは破綻すると思います。



「…………」

「……すぅ、すぅ」



夜、コウハイ君のベッドで私たちは仲良く横になっていた。


さすがにシングルベッドだし狭いから、横向きに寝るしかなくなる。


自然とコウハイ君の息遣いが届いて、心臓が勝手に鳴る。


私はやっぱり、私を弄ぶコウハイ君のことが嫌いだ。



「すぅ……はぁ……」



大きく息を吸って落ち着かせようとしても、全部コウハイ君の匂いで満ちていて、頭がおかしくなる。


2年は無理だと思います。その言葉を脳内でもう一度繰り返してみる。


それは、コウハイ君が言ってはいけない言葉だった。


それはつまり、コウハイ君が今まで通り生意気になるということだから。


ずっと私に、変なことをしてくるということだから。



「……バカじゃん、コウハイ君」



私のどこが好きで、そんな生意気なことしようとするの?


優しさなんて必要ないでしょ。少しは不真面目になりなよ。


好き勝手にセックスして、いいように私を扱って、惨めな気持ちにさせて。たくさん悪さをして、冷たく接して。


その方が、私にも都合がいいんだよ。その方がきっぱり切り捨てられるから、いいのに。


君は、初めて出会った時からそうだった。



『私、25』

『俺は24です』

「なら、私がセンパイだね?ふふっ、名前で呼び合う必要はないから、これからは私のことセンパイって呼びなさい?」

『……変なセンパイですね。なら、俺も名前じゃなくてコウハイでお願いします』

『うんうん、よろしく』



何もかも受け入れてくれて、私を甘やかし続ける。


ただの遊び半分にどんどん本気になって、君に侵食されて。


嫌だと首を振ってるのに勝手に入り込んできて、私の心に勝手に入り浸って。


なんで私のおもちゃなくせに、勝手に私をゆらゆらさせるの?


ムカつく。面白くない。


勝負の真っ最中なのにこんな寝顔を晒しているのも、私が隣にいるのに襲ってくれないのも、つまらない。


だから、私はコウハイの首筋に唇を寄せる。


唇をつけて、強く吸う。



「……………っ」

「…………」



コウハイ君はしばし顔をしかめても、すぐにまた夢の世界に戻った。


私はそれがもっと面白くなくて、今度は肩に唇をつける。


吸う音が激しくなって、暗い真夜中でも分かるように鮮明な跡がつく。


ボディータッチは禁止、と言っていたけど。


先に膝枕したのはそっちだから、そのルールはなかったことにしてよ。


そのまま、反対側の肩にもキスマークをつけようとしたところで―――



「……センパイ」



低めな声がすぐ隣から聞えてきて。


私はようやく口角を上げてから、目を開けているコウハイ君を見つける。



「おはよう」

「……センパイの負けです」

「なんで?」

「キスマークはルール違反じゃないですか。明らかに」

「ボディータッチだけ禁止じゃなかったっけ?」

「センパイ、ボディータッチの意味分かってないんですよね?」

「うるさい」



私は唇を尖らせながら、片手にコウハイ君の口元を覆う。



「大人しくしててよ。これはコウハイ君のせいだから」

「……………」



反抗することもできるのに、コウハイ君は私を見つめてからまたもや目をつぶる。


私はそれが同意の印だと感じ取って、私を抱きしめているコウハイ君の首筋に顔を寄せる。


キスマークが刻まれる最中だけ、背中に回された腕に力が入る。


その後に首筋に3ヵ所も跡をつけて、私は手を退いてコウハイ君の顔にキスをしていく。


頬、額、目元、唇のすぐ下。


柔らかい、というよりはごつごつしているなと感じつつ、どんどんキスを残していく。


これはコウハイ君を呪うためのキスだ。コウハイ君を支配するためのキス。


初めから己の征服欲を満たすためだけに行われる、事務的なキスだ。


直接キスはしてないから、勝負にはなんの関係もない。


だから、ルール違反じゃない。絶対に、ルール違反なんかじゃ……。



「センパイ」

「………なによ」

「センパイの負けです」

「……………………………………」



そうやって、自分を誤魔化し続けた私を躾けるように。


コウハイ君は、さっきよりきっぱりとした口調で言う。



「……キス、してないのに?」

「確かに、唇でのキスはしていませんね」

「なら、なに?キスマークつけたからダメってこと?おでこにちょっとキスしたくらいでルール違反ってこと?相手を挑発していいと言ったのは、コウハイ君で―――」

「なら、そんな目をしないでください」

「…………………………え?」



コウハイ君は、私を抱きしめている腕を解いてから言う。



「俺を挑発したいのなら、もっと楽しげにやってください」

「……………」

「今のセンパイ、ほとんど泣きそうじゃないですか」

「…………………」



………私。


泣きそうに、なってたんだ。



「負けましょうか?」

「…………いや」

「なら、勝ってもいいですか?」

「それもいや」

「理不尽なセンパイですね」

「……私の負けでいいよ」



コウハイ君の首筋にもう一度キスしてから、私は言う。



「君は一回だけ、私を言いなりにすることができるよ。その時の私に拒否権はない」

「……はい」

「だから、大事な場面で使ってね。大事な場面で」



……私は。


彼のようやく彼の服の下に手を入れながら、囁いた。



「何やってるの?」

「……センパイ」

「早く、抱いて」



涙が一滴だけ、目尻から零れ落ちるのを感じる。


私はもう片方の手でコウハイ君の頬に触れながら、伝える。



「めちゃくちゃにしてよ、早く」

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