11.5
背は琴音よりも、猫の手ひとつ分低いだろうか。艶やかな黒髪を肩で切り揃えた彼女は、見たこともない衣装で身を固めている。
『あれは何処かで――』
ふと、琴音の家のエントランスに飾られた“姫てまり”を思い出す。布の系統や腹に巻いた紐が、まさしくそれと同類に見えたからだ。まばたきすらロクにせず、足もとの猫とステージを見つめる彼女。遠目ながら、儚げな雰囲気と幾ばくかの不気味さを感じ取れた。
『背丈や顔つきからして、琴音と同程度の歳だろうか。……そういえば、琴音は学校の話を一切しないな』
世話になって半月ほど経つが、彼女の持ちかける話題といえば、”有名スイーツの情報”と“推しのチャームポイント”ぱかり。干渉するつもりはないものの、軽く問い掛けてみる。
「……琴音」
「ん?」
「自宅では天真爛漫だが、学校ではどう過ごしているんだ?」
「そ……それは」
言葉尻を濁しながらうつむく琴音。その態度だけで、おおよその検討はついてしまった。琴音も俺の心境を察したのか、パッと口元を歪ませて笑う。
「――ナイショ! さ、待合い室に戻ろっか」
「あ、ああ」
はぐらかされたものの、それ以上の追及ははばかられた。
◇◇◇
多少の気まずさを抱えたまま、結果発表を迎える。最後は出場者が一列に並び、上位3名がスポットライトを浴びるという計らいだった。
猫と飼い主が各々の落ち着きのなさを見せる中、猫耳男はステージの端でマイクを握る。
「こほん……。ではでは皆さんお待ちかね、結果発表をさせていただきます! まずは銅賞。こちらは――エントリーナンバー3番、みかんちゃんです! おめでとうございます!」
頭上を照らされた少女は、足もとの飼い猫の頭を撫でる。
「……! や、やったねみかん!」
「にゃ〜」
猫耳男は数回の拍手を贈ると、淡々と進行を続ける。
「続いて銀賞。こちらは――エントリーナンバー11番、アレキサンダーくんです! おめでとうございます!」
次いで頭上を照らされた少年は、興奮を露わに飼い猫を抱き上げる。
「うっっっしゃあ! 今日は猫缶グレードアップだ!」
「ンー」
敵味方関係なく鳴らされるクラップ。だがステージ上には、間もなく緊張が走った。一方で猫耳男は、不敵な笑みを浮かべ声を張る。
「そして、栄えある金賞……第22回、猫モ最優秀賞は!」
ドラムロールが鳴り、会場の人間を焦らす。選ばれる確率は1/13しかないが、自信は大いにある。
『……賞金を得るまでが、第二の生の足掛かり。食いつなぐための資金を得て、一刻も早く妻子を探さなければ』
胸を張って観衆と向き合う。……だが、スポットライトが照らしたのは。
「――エントリーナンバー8番、レイちゃんです!」
――琴音が気にかけていた少女の猫だった。
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