第22話 ニャンス・アポン・ア・タイム
夫婦は二人の娘を立派なレディに育てようと、毎日沢山働きました。父親は国を護るお仕事、母親は家を護るお仕事を。父親はあまり家に帰ってこられなかったのですが、代わりに休日はずっと家にいました。そしてみんなでご飯を食べ、馬車で遠くへお出かけし、忙しくも充実した毎日を送っていました。
姉妹二人は、とても仲良しでした。お揃いの髪形、色違いのドレス。妹が笑えば、姉も笑う。年齢こそ3歳ばかり違いましたが、相手が何を考えているかすぐに分かるくらい、固い絆で結ばれていました。ですがもちろん、ケンカをする時もあります。そんな時は母親が間に入り、仲直りのお手伝いをしていました。
再び手を取り合う娘たち。母親は趣味の日記をつけながら、ずっとそばで見守っていました。
まるで絵に描いたような、理想的な家族。しかし……その幸せは、長くは続きませんでした。
「ニャ……?」
「ど、どうなっちゃうんだろ……」
レイと琴音がハラハラと落ち着きをなくす中、俺は朗読を続ける。
ある日突然“革命”が起きたからです。けれど、それもそのはず。国王は自分の幸せを一番に考えるがあまり、国民が生きるのに必要な食べ物やお金まで奪っていたのです。
革命が起きる前。最初は我慢していた国民でしたが、貧しい人が増えるにつれ、反抗心をもつ人が増えていきました。すると一人の“勇者”が現われ、こう言いました。「みんなで力をあわせて国王を倒そう」と。
天の声により、革命は成功しました。……4人の家族の犠牲とともに。しかし、何故国王やその身内でもない彼らは巻き込まれてしまったのでしょう。答えは人間の心理によるもので――
「ン〜……ニャーニャ」
「あ――ヨスガ、レイちゃん飽きちゃったみたい」
「! すまん、今日はここまでにしよう。ふたりとも、清聴感謝する」
絵本の読み聞かせの真似事は、やはり俺には難しかったらしい。我に返った時には既にレイはキャットタワーに上り、ネズミの玩具で遊び始めていた。心情はまさに振られた男。自身の記憶の整理も兼ねていなければ、やるせなさにため息をついていたかもしれない。
片や琴音は熱心にペンを走らせ、やがてノートを閉じる。
「ふう……。熱が入ると多弁になるのは相変わらずなんだから」
「言われてみれば、前回の時もそうだったな。生前はどちらかというと寡黙だったのだが――」
「ん? どしたのヨスガ、レイちゃんが何か言った?」
「? 今のは琴音――」
明らかに、確かに聞こえた琴音の言葉。しかし小首を傾げる彼女に底知れぬ不気味さを覚え、咄嗟に首を振る。
「……いや、独り言だ。気にするな」
「そう? 分かった」
琴音はきょとんとしながらも、会話を切り上げた。
夕食を済ませたレイは、さっさと寝てしまった。琴音のベッドで気持ちよさそうに目を細め、俺の尻尾をタオルケットよろしく腹にかけている。かといって起こす訳にもいかないため、普段より小声で会話を始める。
「時に琴音。あの男のことはどう思っているんだ?」
「あの男……って、
「そうか」
「どうかしたの?」
「何、あの男に好意があるならば協力しようと思ってな」
「な……っ!」
動揺に声を震わせ、耳まで真っ赤に染める琴音。その様はまさしく典型的な図星仕草だった。
「な、ななななんでそうなるの! ……えっ、まさかそれも作戦のうちとか? 「ふっふっふ……小鳥遊家も我が手中に収めてやろうぞ!」みたいな」
「違う。随分と熱心に浴衣を選んでいたのだろう。見目を気にするのは、異性として意識してもらいたいからではないのかと思ってな」
「!? ああもうお母さんってば余計なことを……! わ、私は別にそういうつもりで選んだんじゃないから!」
「ふむ。俺はてっきり、愛読書の展開を再現するものかと思っていたが」
机に飾られた青年を指す。琴音の愛読書の内容は、早い話シンデレラストーリーだ。急いでいるところ曲がり角で人と衝突するのだが、その相手がなんと自分の想い人……に酷似している別人。しかし介抱をきっかけに意識しあうようになり、最終的には結婚するというものだ。
すると琴音は、合点がいったように手を打つ。
「あ〜……、そういうこと。んもーヨスガったら、いくら似てるからって“あるるん”の代わりにはしないよ。推しは推し、親切な人は親切な人。そんな理由、相手に失礼だもん」
「それもそうか。早とちりしてすまんな」
好意があるのは本当だが、恋慕の情ではないらしい。あわよくば恋のキューピッドよろしく取り計ろうかと考えていたが、勘違いに終わった。
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