第18話 雨降って仲深まる
それから俺達は夕飯に呼ばれるまで、特に会話もせず
「そういえば、ヨスガのいたとこに梅雨はなかったの?」
「無かったな。日々の寒暖差は少なく、雨は一年を通してまばらに降る。“季物”こそないが、安定した気候は健康管理がしやすかった」
「へぇ〜、日本より住みやすそう」
「どうだろうな。だが、少なくとも自然は豊かだった。日の出とともに起床し、野生生物の営みを見守り……年に一度、豊穣に感謝の祈りを捧げていた」
すると琴音は、ベッドから落ちそうなほど前のめりになる。
「っっっ〜〜何それファンタジー感半端ない! もっと聞かせて!」
「フッ……そうだな。たまには語り部に興ずるのも悪くない。だが俺は話が長いぞ?」
「どんとこい!」
「では初めに、我が愛する国の歴史を話すとしよう。スティアは日本と異なり、2つの国が隣接する大陸国家だ。それぞれ異名をもつのだが、これは国ごとに担う役割を簡明にするためであり――」
自国の素晴らしさを、舌が回る限り言葉にする。特産品や風習、料理の傾向や流行りのものに至るまで。我ながら小難しい内容だと思ったが、琴音は珍しく最後まで耳を傾けてくれた。
「――というのが、我が国のあらましだ。現時点で何か質問はあるか?」
「ハイ先生! ノートにまとめてもいいですか?」
「構わんが、何故だ?」
刹那、揺らいだ彼女の瞳。だが次の瞬間には、頬を掻きはにかんでいた。
「えへへ……実は私、結構忘れっぽいんだ。だから、覚えてるうちに全部残しておきたくって」
「……そうか。ならば以降はより丁寧に話すとしよう。くれぐれも、一言一句聞き漏らすことのないように」
「……善処します!」
「断言はしないのか……」
だがそのくらい楽に構えられたほうが、こちらとしても気負わずに済む。
◇◇◇
俺が水を飲んでいる間、琴音は宣言通りペンを走らせ、丸みを帯びた字を量産する。どうやら瞬間記憶能力は高いようで、俺の記憶を相違なく書き連ねていた。
『さながら
真剣な面持ちを横目に、暫しの間口をつぐむ。やがて彼女の集中力が尽きたところで、タイミングよく夕飯の呼び声が聞こえた。
「では、続きは気が向いた時に話すとしよう」
「え〜? 寝る前にまた聞かせてよー」
「一度に消化してはつまらないだろう。それに――楽しみが残っていたほうが、明日を待ち遠しく思えるのではないか?」
「! ……うん!」
香ばしい香りに誘われ、揃って部屋を出る。手付かずのページは、まだ存分に残っていた。
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