第16話 手繰る糸
手を振る小鳥遊兄に、二階堂たちはレイも引き連れ駆け出してしまった。残されたのは、初対面の者同士。二階堂兄は花園鑑賞を再開するが、琴音は笑顔を作りながらも気まずそうに湯呑みに手を伸ばす。
「琴音」
「はっ、はい! ……って、ヨスガかびっくりした……」
「折角だ。アレとも懇意な間柄を目指してみたらどうだ?」
「えっ、でも――」
「若いうちからの人脈作りは大切だ。それに、出逢いからして運命を感じないか?」
「……わ、わかった」
深呼吸した琴音は、おもむろに立ち上がり、二階堂兄の座る椅子へと移動する。そして彼と目が合うと、勢いよくスマホを押し出した。
「あ、あの……! よかったら、
「――。これはこれは、先を越されてしまったね。僕のほうこそ、連絡先を交換してもらえるかい?」
◇◇◇
その後暫くして、二階堂たちは満足げな表情で戻ってきた。弟の敵意は引っ込み、その場にいる全員にフランクに話しかける。とかげの様子や魅力をひとしきり聞いた頃には、琴音も自然に笑うようになっていた。
茶菓子で腹を満たし、やがて漂うは解散の雰囲気。とはいえ今は陽も傾き、カラスまでもが帰宅を促す時間。
『真相を問うならば今しかない』
誰かが鶴の一声をあげる前に、琴音の腕に軽く手を乗せる。
「琴音。耳を貸してくれ」
「ん? どうしたのヨスガ。ふんふん――えっ!? それって大丈夫なの?」
「声が大きい。何としても今日知りたいんだ。……頼む」
「わ、分かった」
二階堂と小鳥遊兄が雑談をしている合間を見計らい、琴音は彼のもとに歩み寄る。
「ねえ、凜太郎くん。少しお話しない?」
「……来い」
存外
「……その。ひとつ聞きたいことがあって」
「猫モのことか?」
「うん。えっと……凜太郎くん、もしかして司会の人に何か渡した?」
「!」
小声とはいえ、いきなり核心を突くのは流石としか言えない。感心していると、弟は肩をワナワナと震わす。
「……それ聞いてどうすんだ。不正があったってみんなに――とうかに言いふらすつもりか?」
「ち、違うよ! ただ、どうしてそんなことしたのかなって。もし藤香さんが関係してるなら、何か私にもお手伝いした」
「は? 会ったばかりのヤツに言うわけないだろばーか」
笑顔は嫌悪に変わる。最後に刺すような目で琴音を睨みつけると、さっさと踵を返していった。
「……ごめんヨスガ。失敗しちゃった」
「いや、作戦は成功した」
「えっ?」
「奴が黒だと分かった上に、俺達の存在を一層強く刻むことができた。好感度を多少犠牲にしてでも得たかったものだから、安心しろ」
突然現れた兄は未知数だが、こちらに対して敵意は見られない。しかし「俺達も席に戻るぞ」と壺から離れようとすると、琴音は神妙な面持ちでしゃがみ込む。
「帰る前に、一個聞いてもいい?」
「何だ?」
「なんであの子に協力したいの?」
「ああ、それはだな。――仮説を検証するためだ」
「……仮説?」
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