第14話 三章 『愚者の迷宮―――アレフメイズ』



 三章『愚者の迷宮アレフメイズ



 「ま、そんな訳で俺としては一刻も早く元の世界に戻りたいわけですよ」


 デュナミスとの戦闘の後、周囲の民家は完全な無人となっていた。

 その中でまともな―――――壊れていない家を探し、罪悪感を抱きつつそこで一休みをさせてもらいながら十夜が向こうの世界での出来事を語っていた。

 十夜が語った『悪鬼』というモノについてある程度の説明を受けていた万里は挙手をすると気になっていた部分を訊ねる。


 「なるほど。しかし分かりませんな―――――その『悪鬼』と〝滅鬼怒の戒〟なるモノとどういう繋がりが? 話を聞くに関係性が見えんのですが?」


 万里の言う事は最もだ、と十夜はどこから説明して良いものかを迷った挙げ句、ポツリと話し始める。


 「まずはウチの師匠じーさんの説明から入るんだが、師匠の家系は代々『墓守はかもり』っつー役割があるんだと。さっき見たろ? あの墓場みたいな場所」


 デュナミスとの戦闘で見えた墓場のような場所。

 あれは幻覚などではなかったと言うことだ。


 「この『鬼火こくえん』は〝百鬼〟に伝わる墓送りの方法でな、この炎に包まれたら最後。まぁ簡単に言えば強制的に火葬されて墓へ埋められるって事だ」


 十夜はため息を漏らす。

 あの地獄のような日々は忘れもしない。

 というか忘れられない。

 一度ひとたび扱い方を間違えると呪いが返ってくる上に〝黒炎〟が身体を蝕み激痛が走る。

 加えて師匠からの鉄拳制裁オシオキが飛んでくるのだ。

 必死にもなる。


 「すいません神無月くん。あの『メムの森』でのスライムはその墓場へ送られたんですか?」


 少し距離を置いていた蓮花が口を挟む。

 不自然なほど離れているものだから気になって仕方がない。


 「鳴上さんや、何でそんなに離れているんで?」

 「―――――別に問題は無いのでは?」


 ギロリと睨まれた。

 どうやら蓮花はかなりご立腹のようだ。


 「俺何かしました!?」


 そんなやり取りを数回すると、一度咳払いをし十夜は話を続けた。


 「ありゃ自動防衛機能オートモードみたいなもんだ。寄生虫あっきは宿主である神無月十夜じぶんのすみかを守るだろ? それと同じよ」


 なるほど、と納得が出来た。

 十夜に憑りついているであろう〝悪鬼〟とやらも十夜いばしょを奪われるのは勘弁してほしいようだ。


 「では聞きたい事はまだありますが、最後に一つ。あの魔物デカブツの攻撃や剣で斬られたのに無事だったのは何でなんですかな?」


 十夜は少し考えていた。

 何を思ったのか十夜は黒炎を地面へと広げ始める。

 そして、

 ずるりと液体のようなモノがボトボトと溢れてきた。

 これはどう見ても、あの森で遭遇したスライムだった。


 だが、最初に見た時よりもスライムの身体はボロボロでその液状の肉体はあちこち崩れかかっていた。


 「スライムこれについては俺も棚から牡丹餅だったんだが、コイツらはどうやら打撃やら斬撃なんかの物理攻撃を吸収するみたいなんだ。まぁ俺も知ったのはオーガに攻撃を喰らった時だったけど――――まぁ簡易的な身代わりだな」


 蓮花と万里は納得した。

 道理で、

 色々と実戦中に試す度胸は凄いと感心していた。


 「その『スライム』は身代わりのような力があったんですなぁ。では十夜殿は無敵になるというわけですな」


 万里の言葉に少し困ったような表情を十夜はした。


 「まぁ、な。でも全部がそう言う訳にはいかねーみたいだぞ? 実際さっきの怪我を見ただろ? 俺があの野郎の飛ぶ斬撃を受けた時は普通に貫通した。多分威力が強過ぎたらキツイみたいだな」


 どうやらそこまで万能の力でも無いようだった。

 『メムの森』を抜ける際、十夜は単独でスライムを数十体ほど墓送りにしていた。

 それが功を奏したようだったが、どうやら強すぎる攻撃は吸収しきれなかったようだ。

 しかしスライムの防御があったおかげであの程度で済んだのだ。

 もし無ければ十夜の身体は真っ二つになっていただろう。


 「して、〝あの男〟はどうなっておるのかな?」

 「あぁ、そうだな…………そろそろ出してやるか」


 墓地の中に閉じ込めたデュナミスという男は、恐らくその中で相当怖い目に合っているはずだ。

 そろそろ出さなければ彼も精神が崩壊し兼ねない。

 十夜自身としては別に自業自得だから放っておいてもいいのだが、それだと色々と聞き出す事が出来ないかもしれないのだ。


 「では私はもう一度だけ周囲を探ってきます。それまでに呼び出すだけ呼び出しておいて下さい」


 それだけ言うと蓮花は姿を消した。

 後に残された男二人はポカンとしていると万里が呟く。


 「もしかすると蓮花殿は―――――」

 「多分苦手なんじゃない? 心霊系オバケるいが」


 不思議だった。

 大きな百足や魔物に巨大爬虫類ロードランナーのようなモノは大丈夫なのにこういうオカルトの類が苦手なのは女の子なんだなぁと感心していた。

 二人になったついでに万里はもう一度質問をする。


 「…………なぁ十夜殿? やはりあの男デュナミスに纏わり憑いていたのは―――――」

 「あぁ、この悪鬼に憑りつかれてからというモンの俺も幽霊の類を見る事が出来るようになってな。現世いきているの幽世オバケを見る事が出来るし、黒炎を使えばあの騎士の時みたいに強制的にその姿を見せる事が出来るんだと」


 人は誰しも聖人君子ではない。

 誰かに恨まれている者もいれば、生霊などと言ったモノに憑かれている者もいるのだ。

 あのデュナミスという男は相当な怨みを買っていたらしく、今回のように死霊に力を貸す事もできるのだ。


 「成程。合点がいきましたぞ―――――ではそろそろ?」


 万里の言葉に「あぁ」と十夜が返す。





 「色々と聞かせてもらおうか―――――長い序章プロローグももうきたよ」





 十夜は軽くステップを踏み彼から伸びる影がうねり始める。

 そこからは先ほどと同一人物とは思えないほど衰弱しきった第四師団副団長、デュナミスが顔を出した。

 デュナミスは力なく項垂れている。

 無理もない。

 彼が今までいた場所は

 しかも彼を恨む死者の怨念と一緒に閉じ込められていたのだ。

 精神が壊れなかったのは彼がやはり『王国騎士団』の副団長の実力を持っていたからという事もあるのだろうが、それでも彼の毛髪は相当なストレスで白く染まり、整っていた顔も見る影もなくなっていた。


 「さて、アンタに聞きたい事が山ほどあるんだが?」


 十夜は椅子に腰を掛け、項垂れるデュナミスを見下ろしていた。

 その黒い眼はどこまでも冷たく、まるで虫を見るようなそんな眼だった。


 「バケモノめッ!」


 デュナミスからは最初のような覇気は感じられない。

 だがプライドが邪魔をしているのか、憎まれ口だけは達者のようだった。


 「神無月くん。私の家に伝わる拷問術を試してみましょうか?」


 さらっと怖い事を言う蓮花を抑えるように万里が宥めている。

 どうやらこの男が怨霊と化した人々に何をしてきたかを十夜に聞かされて以来三人の内の誰よりも冷たい。


 「鳴上さんや、それはまた今度という事で――――――さて話は逸れたがまずはアンタ、俺らの事を『』って言ってたよな? あれはどういう意味だ?」


 デュナミスは答えない。

 いや、答えるつもりがないのか視線を逸らすばかりだった。

 そんな彼の態度に十夜はにっこりと微笑むと、指を鳴らす。


 「ひぃっ!!」


 同時にデュナミスの背後にはまだ彼に対して怨みがあるのか、怨霊が身体を強引にデュナミスを呪い殺そうと捕まえる。


 「わ、分かった! 分かったからコイツらを消してくれ!!」


 デュナミスの叫びを聞いて満足したのか十夜はもう一度同じように指を鳴らす。

 軽い音が響いた同時に怨霊の姿は見えなくなっていた。


 「さ、もう一度聞くが、お前が言ってた『迷い人』ってのは何なんだ? 嘘偽り無く次はちゃんと聞かせてくれるんだよな?」


 急に怨霊達の姿を見たせいか、蓮花の手には苦無が握られており、今にもこちらへ投げそうになっていたのを万里が宥めている。

 背後を気にしつつ十夜はじっと感情の無い目をデュナミスへと向ける。

 根負けしたのか、デュナミスはポツポツと語り始めた。


 「『迷い人』は、お前達のような突然異世界からこの『グランセフィーロ』へやって来た者の事だ…………。特に正式な手順を踏まずに召喚された者の事を差している」


 故に『迷い人』。

 中々ネーミングセンスはいいようだった。


 「ちょっと待て、? って事は俺ら以外にもこの世界に来た奴がいるのか?」


 デュナミスは無言で頷く。

 確かにデュナミスの言い方では自分達以外にもこちらの世界に来た者がいるような言い方だった。


 「ほう、中々興味深いですな。では拙僧からも一つ―――――この近隣の住人達はどうされたのかな? ここまで派手に暴れて全員が眠っていた、とはならんと思うが?」


 万里の質問は確認作業だった。

 住人達は?

 その答えについては三人共なんとなく知っていたが、それでも一縷の望みに期待した。


 「それなら、

 「成程、のォ」


 万里はそれ以上何も言わず手を合わせ経文を唱える。

 つまり、

 十夜達を襲いに来た者達はあの薬物によって人格を破壊された人々だった、という事の裏付けが取れたのだ。

 この王都に住む何の関係もない人が理不尽に命を奪われた。

 正直、ここまで胸糞悪い話は無いと思った。


 「では今度は私から。貴方が言っていた『魔薬』というモノについてです。あれは一体何なのですか? 人を廃人にして操ると言ってましたがそんな事が本当に可能で?」


 蓮花がこの質問をしたのには理由があった。

 周囲を調べている時に不思議な物を見つけた。

 それはこの世界にあったのが不思議だったのだが、そもそも


 「例えば、貴方は『これ』をどうして持っているのですか?」


 蓮花が投げ捨てた物がカラカラと滑るようにデュナミスの足元へと転がっていく。

 一目見た時、三人は銃だと思った。

 しかし、それは銃のような形をしておりスライドの部分にはガラスの筒が取り付けられている。

 つまりが入っていたような形をしていた。

 つまり注射器のようなものだ。

 初めは違和感は無かったのだが、ここが異世界という事と現代でも見る事が稀な物に最早それは〝異物〟でしかなかった。


 「そ、れは」

 「こんなモノ俺らがいた世界にも滅多に見れる事は無い。で? そんな稀なモンをテメェはどこで手に入れたんだ?」


 十夜の迫力に気圧され始めたのかデュナミスはしどろもどろになっている。

 そして、少しづつ話し始めた。


 「それは――――我らが第四師団団長であるエスカトーレ団長が


 それは予想だにしない言葉だった。

 〝〟―――――――そんな技術がある事自体に驚いた。


 「造るって……………もしそれが本当ならどうやって?」


 蓮花が呟く。

 この世界の技術力は十夜達のいた世界よりも劣っていると聞いている。

 その代わりにこの世界にはデュナミスが使っていた『恩恵ギフト』と呼ばれる異能の力を持っているのだ。


 「聞きたい事が増えてきたな。テメェの上司はどうやってこんなもんを造ったってんだ? 知識が無けりゃ造るモンも造れねーだろ?」

 「し、知らない! 本当だ!! ただエスカトーレ団長の『恩恵』が関係していると思うが、本当にそれ以上の事は知らないんだ!」


 デュナミスの顔色は青くなっていく。

 どうやら本当にこれ以上の情報は持っていないようだった。


 「なら最後だ。この花に見覚えは?」


 そう言って見せた花は白い花で所々に汚れが目立っていた。

 出来れば考えすぎであってほしい。

 そう言った願いを込めて、花を見たデュナミスのリアクションを探る。

 そして、


 「貴様達は―――――?」


 どうやら予感は的中したようだった。

 悪い方にだが。

 三人が息を飲む中、思い切って十夜はデュナミスを問い詰めた。


 「知ってるって事は、この花は『魔薬』ってのに関係があるんだな? この花を売りに来た子供二人の事は?」


 出来るだけ冷静に。

 そう思うがどうしても気が急いてしまう。

 こんな厄介なものに子供を関わらせたく無いのだ。


 「子供? それは俺には分からんが…………でもその花はここから竜車で半日の場所にある『ウルビナースの村』で栽培されている花だ。最初はこの王都で人気の茶葉だったが、この葉に〝ある物〟を加えることで『魔薬ベルセルク』と言う強力な薬物が完成したと聞いた」


 「ある物?」


 十夜の問いにデュナミスは答えるのを躊躇ったが、すぐ背後から聞こえる怨嗟の声に心が折れる。


 「こっ、このディアケテル城の地下にある〝未踏の迷宮〟『愚者の迷宮アレフメイズ』で採掘できる鉱石だ。団長は〝罪人〟を使い鉱石を採掘しているっ」


 デュナミスの言葉を反芻するように十夜は呟いた。


 「『愚者の迷宮』―――――か」


 どうやら自分達が思っている以上に厄介な事に首を突っ込んでいるようだった。





 一夜明け早朝とも呼べる時間、十夜と万里は城門の前で様子を窺っていた。

 門の前では大きな欠伸をしている門番が二人いるだけで、後は静かなものだった。


 「二人、ですな」

 「あぁ、あとは鳴上が戻ってくれば―――――」


 デュナミスへの尋問を終えた三人は、取り合えず今後について話し合った。

 彼の話によると城の地下には『愚者の迷宮』という場所が広がっているらしく、そのどこかに『魔薬』の材料である〝鉱物〟と異世界人召喚用の〝魔法陣〟があるという話しだった。


 「やる事は決まったな」


 その声に蓮花と万里は頷きそれぞれの役割を全うする為に早朝から動き始めたのだ。


 「これからは時間との勝負だ。いくら『王国騎士団』が原因だったといえど周囲の住人が忽然と姿を消したってなると騒ぎになるのは時間の問題だからな」


 今はまだ日は昇りきっていない。

 行動を移起こすなら今の内だと判断したのだ。


 「しかし、意外でしたな」

 「あ? 何がだよ」


 門番の様子を窺いながら小声で聞く。

 万里も同じように小声で、


 「いや、あの騎士の事ですぞ。あのまま解放してしまうとは―――――拙僧はてっきりあのまま燃やし尽くすと思いましてな」


 万里が何を言いたいのかが理解した。

 十夜達があのデュナミスから聞き出した後、意外にも十夜はあっさりと彼を解放したのだ。

 条件として〝街から出る〟のを取り付けてだが。


 「あぁ、多分大丈夫かなぁって思ってな」

 「その根拠は?」


 「アイツ、多分城で拷問紛いの事でもしてたんだろうな。。正直な話だけど、逃げても怨みが強いヤツはずっと付き纏って呪い殺すヤツもいる―――まぁそれはそれで自業自得だから仕方がないって思ってるし、それが心の傷トラウマになりゃこれ以上の悪さも出来ねぇだろ」


 なるほどと万里が呟く。

 確かにこれ以上の効果はないだろう。

 自分が犯した罪の重さを思い知りながらデュナミスは怯えながら過ごすのだ。

 これほど合理的な罰はないと感心していた。


 「にしても鳴上遅いな」


 時間的にそろそろ戻ってくるかなと思っていると、


 「すいません、お待たせしました」


 背後から蓮花の声が聞こえた。

 振り返るとそこに立っていたのは、


 「うわっ、スゲェ」

 「これはまた――――上手く化けたものですなぁ」


 デュナミス―――――の姿をした蓮花が女性の仕草で自分の格好を見せてきた。


 「どうですか? 久しぶりに変装をしたのですが、違和感はありませんか?」


 姿や格好は文句無しにあの群青の騎士そのものだ。

 気になると言えば、


 「その姿で鳴上の声は違和感しかないけど、まぁ元々がツンドラレベルで冷たかったから大丈夫だ」

 「ふむ、元々凹凸がそこまで無かった故に問題ありませんぞ! カカッ!」


 余計な事を言う二人は気付いていない。

 あのデュナミスの顔でニッコリと微笑む蓮花の手にはクナイが握られている。

 早朝の木陰で死に体の男共が二つ転がる事になった。





 「すまないがそこを通してくれるか?」

 「デュナミス副団長、おはようございます!」


 先ほどまでかなり眠そうにしていた門番が姿勢を正し敬礼をする。

 どうやらデュナミスに扮した蓮花の変装はバレていないらしい。


 「取り急ぎエスカトーレ団長に用がある。そこを通してもらっても?」

 「はっ、分かりました―――――ですが後ろの者は?」


 門番の視線が蓮花デュナミスの背後には顔面ボコボコで頭部には凶器くないが突き刺さった状態のバカ二人がお縄についている。


 「なに、ちょっとした不敬罪でな。それ込みの報告だ」


 何やら不思議な圧が副団長から発せられていたので門番は何も言わず門を開ける。

 その際に後ろでは「もう拷問受けてますけど」や「何故拙僧まで」とブツブツ言っていたが聞かなかった事にした。


 そのまま三人は城内へ無事侵入する事が出来た。

 尊い犠牲はあったが、目立たずに侵入する事が出来たのは結果として良かった。


 城内は静寂に包まれており、赤いカーペットが敷かれた通路は三人の足音を消すのに役立っていた。


 「静かですね」


 蓮花デュナミスは周囲の気配を探るがまだ早朝の為か、パタパタと動く気配がするのは給仕係達だけだった。

 一般兵は違う場所にいるのか全く見ない。


 「潜入が呆気なさ過ぎて罠を疑ったが―――――そうでもなさそうなのが逆に怖い」

 「まだ昨夜の事は明るみになっておらんか、。これはいよいよこの国の長も怪しく感じますな、カカッ」


 いつもの様な笑い方をする万里だったが、さすがに場所を弁えているのかいつもより小声だった。人の気配を感じたのは最初の玄関ホールだけで長い廊下にあるいくつかの部屋からは人の気配は感じなかった。

 客室なのか。

 それとも給仕達の寝室なのか。

 西洋の―――――というよりも、まずそもそも城に入った事が無いので構造を把握するのに時間が掛かりそうだったが、今日の目的は地下にあるという『愚者の迷宮』だ。

 とにかく地下への階段らしき場所を探し回る。


 「しかし神無月くん。本当にいると思いますか?」

 「フェリスとリューシカの事か? まぁ確かじゃねーけどいるだろうな―――――アイツ言ってたろ? 罪人を働かせてるって。よく思い出してみな、。罪人扱いするには十分じゃねーか?」


 正直そんな理由で捕まるのは馬鹿らしいのだが、この国の騎士団はどうやらその気があった。

 でなければ副団長一人にあれだけの怨霊に憑かれたりはしない。


 「ま、俺らも実際にこの目で見てみないと何とも言えないけどな…………ん?」


 気付いたのは十夜と蓮花の二人だった。

 気配もそうだが、違和感のようなモノに敏感な二人はこの長い廊下には不釣り合いな〝風〟が吹いている事に気付いたのだ。


 「神無月くん」

 「あぁ、今の風は――――――――――ここからだな」


 ありきたりなのだが、その隙間風は廊下の道中にあった国王らしき肖像画の裏から流れてくるのが分かった。

 肖像画をズラすと、そこには地下へと延びる階段が。


 「隠す気はねーってか」


 罠なのか、それとも絶対の自信を持つのか。

 それは分からないが、十夜は振り向き蓮花と万里に問いかける。


 「俺は元の世界に帰る為の手掛かりはここにあると思う。もちろんそれも重要だが、フェリスとリューシカも心配だ。だから二人に聞くけど、?」


 その問いに、先に答えたのは蓮花だった。


 「覚悟? それは何のですか? 私も目的は同じです―――――帰る為の方法を見つける。あの兄妹フェリスとリューシカがいればすぐに助ける。それだけの覚悟ならありますよ?」


 「ふむ、拙僧はその子供達に出会った事が無いので絶対に助けるとは何とも複雑で言えませんが、少なくとも死ぬ覚悟はしておりませんな」


 蓮花はいつものように、万里も口癖のようにカカッと笑った。

 それを聞いた十夜は「今更だったな」と苦笑いをする。


 「オーケー、んじゃま」


 パキパキと拳を鳴らしながら十夜は不敵に笑う。



 「行きますか」



 鬼が出るか蛇が出るか。

 三人は不安を抱きつつも、何の迷いもなく迷宮へと入っていった。

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