第11話 黒炎より怨嗟の声を届ける亡者

 滅鬼怒メギドカイ『鬼火』―――それが神無月十夜の腕から発せられる黒炎の名だった。

 

 この黒炎は神無月十夜が元々備えていた能力ちからではなく、借り物の炎だった。


 ―――――この黒炎ちからは簡単に習得は出来んが、まぁ頑張れ。


 そう言った師匠の顔を今でも覚えている。

 実際、この『鬼火』を習得する為に常軌を逸脱した訓練をした。

 黒炎に耐えれるだけの肉体強化に加え、一歩間違えれば〝死〟すらも覚悟しなければならない程の鍛練を十夜は耐え抜き今に至るのだ。





 「フン!!」


 気合いの入ったデュナミスの呼吸と同時に繰り出される剣戟を十夜は捌いていく。

 黒炎を纏った手の甲で弾き、拳で長剣の横を打ち抜きギリギリを攻めていた。

 剣戟と徒手空拳。

 どう見ても十夜が不利だったのだが、それを思わせないほどにデュミナスの剣を素手で受けきっている。


 「チッ!」


 思わずデュナミスは舌打ちをする。

 自分には剣の才能があったと自負していたし、それに驕る事なく鍛錬も積んでいた。

 そのはずだったのに、

 目の前にいる少年は刃物を怖がるどころか接近戦に持ち込もうと突き進んでくる。

 しかも、

 チラリとデュナミスは〝もう一つ〟の戦闘を横目で見た。

 別の場所では蓮花と万里が最早ゾンビのように迫りくる住人の相手をしていた。


 薬物使用による廃人化。


 その言葉が事実ならば動く亡者リビングデッドとなってしまった彼らを救うには最早〝死〟しかなかった。


 「はぁッ!!」


 蓮花がクナイを投げ虚ろな目をした住人達の眉間に突き刺す。

 そして苦い表情をしていた。

 やはりどういう理由があろうとも無関係な人を殺めるのに抵抗があった。


 「大丈夫ですかな蓮花殿!?」

 「ええ! 大丈夫です!! しかし数が多すぎますね」


 万里は錫杖を鳴らしながら住人の頭をかち割っている。

 その光景はかなりシュールで絵面的にこれでいいのだろうかと疑問を抱くほどだった。


 「永城さんは、その―――――平気なんですか?」

 「ん? おお、坊主は古来より人の生死を扱うんでな。しかしこれは」


 バキィィッッッ!! と住人を殴っている万里の表情もあまり明るくは無かった。


 「気分は悪いですな。せめて、この方々が安らかな眠りにつけるようにしてやるのが務め」

 「そうですね」


 そう言って二人は半数近くの住人を撃退していった。


 それを見ていたデュナミスは内心焦っていた。

 今回の功績を自分だけのモノにする為に部下は寄越さず中毒症状のある住人を連れてきたのに完全に裏目に出ていた。


 「(異世界から来た『迷い人』風情が!!)」


 この世界、『グランセフィーロ』に異世界から来た者は

 皆若く異世界にやって来たと言うだけで歓喜し希望を持っていた。

 神から授かりし『恩恵スキル』を受け意気揚々と異世界を渡り歩く姿が滑稽で仕方がなかった。

 どいつもこいつも魔物相手には強気なくせに人が相手だと尻込みしてしまうような者ばかりなのだ。

 そう、異世界人は色々な意味で扱い易い。

 


 「クソッ!!」


 デュミナスの予想は大きく外れてしまった。

 

 どいつもこいつも人殺しは駄目だとこちらを非難し、自分を正しく持ち上げようとするのを気持ち悪いと感じていた。

 だから何も知らないのを良い事に色々と彼らを利用した。


 「貴様らはッ―――――」


 剣を持つ手に力が入る。

 まず手始めに始末するべきはこの妙な黒炎を使う少年が先だった。

 しかしここでデュナミスにとって最も大きな誤算が生じる。

 至近距離での戦闘で剣に対してこの少年は全く物怖じしない。

 実力差は感じたはずだ。

 デュナミスには『真空破とっておき』もある。

 なのに、

 何故この少年は恐怖心を持たないのか?

 デュナミスに戦慄が奔る。


 一方、十夜はかなり際どい戦いを強いられていた。


 「(クソッ、久しぶりに痛ぇ)」


 痛みを感じたのは異世界に来てだった。

 オーガや剣士の攻撃を受けてなお無事だったのには少々

 なのであの飛ぶ斬撃が十夜の防御を貫通した時は本当に焦ったが、それでもまだダメージはマシな方だ。

 もし、あの翔ぶ斬撃をもう一度まともに食らえば今度こそ十夜の身体は真っ二つになる。

 しかしそんな事を知らない目の前の敵デュナミスはそのカラクリを知らない。

 だから迂闊に攻める事が出来ない。


 ―――相手に手の内はおいそれと見せてはならない。


 それが十夜の師匠が残した言葉だった。

 しかしこの緊迫した状況を見るにその様な事を言っている場合ではない。

 デュナミスの攻撃は熾烈さを増していく。

 十夜は剣戟を受け、どうにか飛ぶ斬撃が出されるのを何とか防いでいる状況には変わり無いのだ。


 「(所詮はやはり戦い慣れしていない異世界の住人ッ! 狙いが分かりやすいぞ!!)」


 十夜の狙いは一撃決殺。

 少年の炎がどれ程の威力かは不明だが、黒炎に触れさえしなければ怖いものはない。

 焦ったのか十夜の攻撃が大振りになってくる。


 「―――――そこか!!」


 大きな動作に焦りを感じ取ったデュナミスは一歩大きく下がった。

 その中間距離ミドルレンジはデュナミスの射程内だ。

 大きく長剣を振りかぶりデュナミスも腰を捻る。

 今出せる最大級の『真空破』だ。


 「死ね! 迷い人――――――こんな世界グランセフィーロに来た事を後悔しながら滅びろ!!!」


 放たれた『真空破』は今までで一番巨大で威力も最大だった。

 今出せる最高の技。

 こんなモノが直撃すれば恐らく肉片も残らないだろうその攻撃を、

 十夜は腰を落とし揺れる様に足をもたつかせた。


 「(勝った!!)」


 デュナミスが勝利を確信し、

 彼が放った『真空破』は射程内にあった全てを街ごと飲み込んだ。





 ここで、この『グランセフィーロ』での力や技について少し説明したいと思う。


 この世界は異世界の話によくある『神様』を崇拝し。


 その存在は『唯一神』や『創造神』などと呼称は様々なのだが、その存在は無二であり、〝絶対〟だった。


 正確な名はまだ十夜達は知らないが、この世界ではその存在は常識であり、子どもから大人まで知っていて当然とまで云わしめる存在なのだ。


 そんな神様がこの世界の住人に与えているのは『恩恵ギフト』。


 この世界の者ならば赤子から老人までが必ず持っているとされる異能の力。


 今現在、神無月十夜と戦闘中のデュナミスが与えられた『恩恵』は〝豪腕〟。

 彼の『恩恵ごうわん』は手で掴める範囲でなら怪力無双を誇る能力を有している。

 デュナミスの長剣との相性も良く、この力のみで副団長の座にまで昇りつめているのだ。

 そして、彼の豪腕から繰り出される剣圧は真空を作り出し〝飛ぶ斬撃〟として完成された。


 よって、彼の『恩恵』〝豪腕〟はただ触れるだけで受けた剣だけでなく、そのまま一緒に腕も良くて骨折、最悪な場合は腕が吹き飛ぶなんて事も日常茶飯事だった。


 つまり彼は実力的には副団長として恥ずかしくない実力を兼ね備えていた。


 ただ、


 ここでデュナミスは大きな間違いを犯している事に気付いていなかった。


 ここにいる三人は―――――他にもいるか分からないが、


 特にこの少年、


 神無月十夜に至っては


 〝飛刃〟が繰り出す真空の刃が十夜の身体を切り裂こうとした―――――


 ゴキィィィィッッッ!! と鈍い音が鼓膜に響く。

 鼻は潰れ、歯は折れ、メキメキメキッと骨が砕ける感覚が気持ち悪かった。

 そして、遅れてやってくる激痛。


 「ぐ、ぼっ、ギャアアアアアアアアアッッッ!!」



 


 「な゛、んで――――――――――――――」


 訳が分からない。

 今まさに自分の刃がこの少年に当たったはずだった。

 なのに、何故?


 自分の〝飛刃〟が


 「ば、バガぶァッ!?」


 血が口の中に充満し、上手く喋れない。

 一体何がどうなっているのか?


 「ふぅっ」


 十夜は短く息を吐いた。

 怪我は最初に受けたダメージ以外に傷を負っている様子は無かった。

 しかし、彼には〝ある変化〟が見て取れる。

 その変化は、この中で蓮花だけが知っていた。


 「(今、―――――確かに)」


 蓮花が見ていたのはデュナミスが放った一撃が、十夜に当たる寸前でのだ。

 そんな所を見られていた事に気付いていない十夜は一歩づつデュミナスへ近付いていく。


 「今のは俺個人の分だ。散々好き勝手しやがって――――で、こっからは」


 パキパキと拳を鳴らしながら凶悪な笑みを浮かべ十夜は口の端を釣り上げる。

 その姿は森の中で出会ったオーガ以上の凶暴さを秘めていたようにも感じた。


 「テメェが街の人たちにした事と合わせて清算してもらうけど、いいよなァ?」


 一歩一歩と彼に近付くにつれて死神が大鎌で首元に刃を突き立てるような、そんな恐怖がデュナミスに襲い掛かる。


 「ま、まっひゅぇ」


 情けなく、そして涙や涎を垂らしながら腰を抜かしながら後退る。

 一体何がどうなっているのか理解が追い付かない。

 ガタガタと身体が震える。

 そんなデュナミスの姿を見て、少し冷静さを取り戻したのか十夜は再びため息を一つ吐いた。


 「やーめたっ。よく考えりゃ俺がそこまでする必要ないし、俺個人としてはさっきのでチャラでいいや」


 踵を返すと十夜は後ろ手で手をプラプラとさせていた。

 安堵したデュナミスはふと指先に何かがコツンと当たる感触がした。

 視線を動かすと、それは先ほど十夜に殴られた時に落とした長剣だった。

 今、完全に十夜は油断している。

 もう一度自分の奥の手ひじんを食らわせる事が出来れば勝利は確定する。

 自然と口元がニヤけていく。

 もうこれ以上誰にも下に見られたくないと思ったデュナミスはゆっくりと立ち上がり再び長剣を構える。

 それに気付いた蓮花は手持ちのクナイを投げようと振りかぶるが彼女を制止する手があった。

 その手の主を睨み付けるように小さく叫ぶ。


 「永城さんッ!?」


 しかし、万里の表情は少し硬い。

 そしてゆっくりと首を横に振った。


 「今は止めておいた方がいい。になりそうですぞ」


 何を言っているのか分からなかった。

 二人がそんなやり取りをしている間にもデュナミスの放つ凶刃が十夜に襲い掛かろうと――――――――。


 「あ、そうそう」


 特に振り返る事なく十夜は足を止める。

 そして何でもないような会話をするかのように、





 「俺は別にいいけど、?」





 そいつら?

 この少年は何を言っているのだろうか?

 様々な疑問が頭を過る。

 デュナミスが戸惑っているのが分かったのか十夜が今度こそ振り返りどうでも良いような表情で淡々と告げた。


 「いや、だから―――――?」


 そう言われ、


 ゆっくり、


 ゆっくりと、


 デュナミスは振り返る。


 まず視界に入ったのは己が肩だった。


 めらめらと黒炎が揺らめき、 

 そこには自分の肩と、そこに置かれていたのは


 「へぁ?」


 間抜けな声だったと思った。

 しかし、思考も理解も追い付かない。

 何せ自分の後ろには、



 黒炎の中からこちらを怨めしそうに見ている者達が大量にしがみついていたのだ。



 誰も彼も虚ろで、しかしその眼には明らかな怨嗟の念が込められていた。

 肩が強ばる。

 黒い炎が燃え盛るが恐怖と寒気で身体が震える。

 魔物とは違う〝何か〟。

 いや、聞くところによると魔物の中にも死霊レイスと呼ばれる魔物を使役する『リッチ』という死霊の王がいると言う。

 それと同義なのだろうか?

 いや、にしては―――――――――。


 デュナミスの耳に嫌でも聞こえてくる怨嗟の声。


 痛い


  助けて


   何でこんな目に


    僕が、私が、どうして?


     苦しいよ


    何も見えない


   怨めしい


  お前のせいだ


 お前の――――――――――。


 お前が、お前が、お前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前が悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを苦しみを――――――――――。





 そして―――――――――――――死ね。





 「ギッ、アアァッ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!」


 情けなくとも、みっともなくても良かった。

 今はとにかくこの場からすぐにでも離れたかったのだ。

 何故なら、

 この死霊達には心当たりがあった。

 自分で手にかけたかつて敵兵だった者。

 薬漬けにして商人に奴隷として売り捌いた者。

 冤罪で罪をでっち上げ罪人として処刑した者。

 己が苛立ちをぶつける為に欲望のままに蹂躙した者。


 どいつも、こいつも、―――――――全て見覚えがあった。


 「やっ、やめっ」


 言葉が出ない。

 全身に影の手が纏わり付いてくる。

 そして、

 ずぶずぶと


 「たっ、助けっ―――――」

 「安心しろよ」


 穏やかな笑みを浮かべ十夜は笑う。

 しかしその笑みは決して慈悲でもなければ慈愛でもない。

 ただ張り付けただけの空っぽの微笑。


 「テメェに聞きたい事は山ほどある。だから殺さねぇ。ま、十分に懺悔でもすりゃ〝そいつら〟も赦してくれんじゃね? それまでは、じっくりと特別室VIPルームで話し合いな」


 そう言ってデュナミスの背後に立ち上る黒炎がゆらゆらと形を成していき、不思議な空間が広がっていく。

 その光景は蓮花と、そして万里にも見覚えがある。

 数十からなる冷たい石が聳え立ち、乱雑に置かれていた木の棒のような物が無造作に立ち並んでいる場所。


 彼らの世界ではそこを『墓場』と呼んでいる。

 聳え立つは墓石。

 周囲に立ち並ぶは卒塔婆そとばの数々。


 「や、―――――め」


 最後までデュナミスは言うことが出来なかった。

 黒炎を纏った亡者達がデュナミスを逃がすまいとしがみつき墓地へと引きずり込む。

 最後まで彼は助けを求めていたが、その声が届くことなく歪んだ空間は閉じていく。

 そして、残ったのは静寂のみ。

 つまらない〝モノ〟を飲み込んだなと十夜は自分の頭を掻く。


 「ホント、ロクなもんじゃねーな」


 その呟きは風に流され掻き消えていった。

 唯一聞こえていた蓮花は言葉を失くす。

 十夜の表情は暗くて見えなかったがその声は少し悲しい感じがしたと、蓮花は思った。





 『王国騎士団』第四師団副団長デュナミスとの戦闘で巻き込まれ被害にあった住人達を三人は手厚く葬っていた。


 「宗派が違うかもしれんが、今はこれで我慢してくだされ」


 そう言って万里は手を合わせお経を読む。

 十夜と蓮花は「宗派って言うかそもそも宗教が違うんじゃ?」とツッコんでいたが生憎とこの破戒僧の耳には届いていない。

 お経を読む万里の後ろでは大人しく二人とも手を合わせていた。


 「(あれが、神無月くんの言っていた〝呪い〟ですか)」


 鳴上蓮花は先ほどの戦闘を思い返していた。

 最初は何とか理解しようとしたが、途中でまでしか理解が出来なかったのだ。

 『メムの森』では極力戦闘を避けていた節があったが、あれほどの力があるならどうして戦闘に参加しなかったのか? という疑問が拭えないでいた。

 横目で件の少年の横顔を見てみる。

 手を合わせながら無言で目を閉じている。

 色々と疑問が残る結末だが、それでも蓮花はとりあえず手を合わせ静かに冥福を祈る事にした。



 永城万里は経文を読みながら奇しくも蓮花と同じ事を考えていた。

 ただし、彼は最初から最後まで理解が追い付いていなかったがデュナミスが〝何に〟怯えていたのかは分かってしまった。


 「(しかし、なるほど――――あれが呪い、というわけですな)」 


 人の生死に関わる住職という立場上〝アレ〟が何なのかは理解が出来た。

 しかしそれこそ疑問が残る。

 本来、

 それは最早、人間というカテゴリーから逸脱した正真正銘の〝鬼〟という事になってしまう。


 「(さて、拙僧はどうしたものか)」


 万里もまた、今後について少し考えることにした。



 神無月十夜は目を閉じ、冥福を祈った。

 この街の住人は『魔薬』という物に侵され精神的にも肉体的にも廃人と化してしまった。

 救いようが無かったとはいえやはり十夜達にとって無関係な人だったとしても、人の死というのはいつまでも慣れる事はない。

 いや、

 

 それは人として最低限の心得だ。

 それを忘れてしまった時、自分は人ではなく鬼となってしまう。

 師匠の言葉を思い出す。


 ―――――いいか十夜、お前は少し人と違う。『アレ』はお前にとって毒であり、相手にとっては猛毒だ。それを忘れるな。


 ズキリ、と右腕が少し痛む。

 無茶をしたせいか身体も少し怠い。

 森でスライムに襲われた時とは違い、今回は自分の意志で使った力だ。

 これも高い勉強代だと思う事にしたのだが、やはり異世界というのは自分には合わないなと改めて実感した事だった。





 「なぁ、少しいいか?」


 それは突然の十夜からの申し出だった。

 鎮魂を終え、とりあえずこの後どうしようかを話していた時に十夜が切り出したのだ。

 二人は何の事かがすぐに分かった。


 「多分、色々聞きたい事とかあると思う。まぁあんなのを見られちゃ隠し通すって訳にもいかねーだろうから今の内に何でも聞いてくれ」


 それは二人にとっても重要な事だった。

 あの黒炎だけでも理解が追い付いていない。

 それだけでなく黒炎から顕現されたあの『墓場』のような場所。

 正直、分からない事ばかりだった。


 「ふむ、では拙僧からいいですかな? 蓮花殿から少し伺ったのだが、十夜殿のあの〝黒い炎〟は呪いによるモノだと聞きましてな―――――は一体何なんですかな?」


 アレ―――――とは恐らく十夜の『鬼火』から出てきたモノを指しているのだろう。

 そして万里もやはり住職の端くれ。

 その表情から察するに〝アレ〟が何なのか少し理解しているようだった。


 「そうだな………………まぁあの黒炎の事は『鬼火』って呼んでる」


 忌々しく自身の右手を睨み付けるように目を向ける。

 そして、十夜の発言は耳を疑うような言葉だった。



 「その昔、どっかの村で破壊の限りを尽くした〝悪鬼〟が

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