第11話 ②劣化術式《フェイクコード》
一つはこの
それは本当で嘘偽りはない。
だから、
「
自身の
自分自身の唯一無二の術式。
「
先ほど使用した術式を再現する。
その術式とは、洸太郎が勝手に呼称を付けた『
「行くぞウサ公。こっからはただの
ギュガッッッッッ! と鈍い音を出しながら洸太郎がウサギの背後に跳躍する。
勿論、それはウサギの使用した術式をそのまま〝再現〟したのだ。
呆気に取られたような表情をしているのだろう。
肉体強化の術式を施された洸太郎の身体から繰り出される突きや蹴りの威力も申し分ない。
巨大化したウサギの身体に拳は簡単にめり込む。
ドンッッッッ! と衝撃を吸収しきれないウサギの身体は先ほどの洸太郎達と同じように吹き飛んでいく。
声にならない悲鳴を上げながら校舎に激突したウサギは土煙を上げながらその場を動かない。
「まだ―――――まだァァァッッッッッ!!」
術式を発動、再び『跳躍』を繰り出す洸太郎。
同時に身体は悲鳴を上げ骨が軋み、神経が焼き切れそうなほどの激痛が奔った。
「お、あぁッッッッッ!!」
数十メートルの距離を一瞬で詰めウサギを吹き飛ばした校舎へと跳躍する。
その巨体を寝転がせていたウサギの耳を強引に掴むとそのまま力いっぱい反対側へと投げ飛ばした。
見た目が数百キロほどありそうな体重を簡単に吹き飛ばした洸太郎は校庭の反対側、つまり中庭へとウサギを連れ出した。
大したダメージを受けていなかったはずのウサギの身体からは血液のように瘴気が流れ出ている。
「(クソが! 身体が痛ぇッ!!)」
なので洸太郎は歯を食いしばりながら拳を振るう。
九鬼洸太郎は『
アウローラの退魔士達に訊ねても全体の八割が〝無能〟だからと言うだろう。
だがその八割中の一割の退魔士は、それは彼が足手まといだからという理由だけではなかった。
彼が持つ唯一の術式―――――それは、相手の術式の構築や出力などを理解し簡易的に複製する事が出来るのだ。
無論、本人の術式に比べれば格段に劣っている。
故に、『
この術式の欠点は、
一つ、自分がその術式の構築や出力、そしてそれらを理解する為に自分が術式を受けなければならない事。
一つ、あくまで『劣化版』なので本家よりも威力や効力は格段に落ちてしまう事。
などがあった。
それらを踏まえると、
以上を踏まえて洸太郎は極力戦闘を共にする事をやめた。
輝夜をこの場から離脱させたのも、考えがあったのは事実だったが、それ以上に彼女の
この二つの術式を組み合わせる事により今まで洸太郎は窮地を脱してきた。
だが、
「(クソッたれ!! コイツどんなけ硬てぇんだ!!)」
洸太郎の体力も、そして術式に流し込んでいた力も尽きかけてきている。
簡単に言えば電池切れに近い。
拳の威力は落ち、ウサギの『跳躍』も移動距離や制度が格段に落ちてきている。
このままではジリ貧だった。
洸太郎はチラリと横目で中庭に目を向ける。
そこにいた人影を捉えた時、自然と口に笑みが零れた。
「ったく―――――後は頼んだぜ、
洸太郎はボソッと呟いた。
凄まじい戦闘音が輝夜にまで届いていた。
それが合図だと分かった輝夜は中庭にある時計塔の麓で意識を集中させている。
「凄い人ですね、あの先輩は」
そう呟いた彼女の口元は綻んでいる。
校舎の壁を壊す音、洸太郎の咆哮が轟き音が近づいて来た時ゆっくりと輝夜は瞳を閉じた。
「
紅蓮の魔法陣が地面に描かれる。
ドクンドクンと『月紅牙』はまるで生きているかのように脈を打つ。
静かに大鎌を構え、その時を待った。
短い付き合いだが輝夜には確信に近い何かがある。
もう間もなくだ。
「
彼女が術式刻印に流し込むのは〝魔力〟。
独自が放つ魔力の光が鮮血に染まる。
同時に、
「う、お、―――――――――アアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
咆哮と共に校舎の壁を破壊しながら薄汚れた灰色の巨体と一緒に洸太郎が落ちてきた。
全くなんて無茶を。
自分がさほど驚かない事に驚いた輝夜は紅蓮の刃を振り上げる。
準備は整った。
「『
弧を描いた飛翔する斬撃がウサギの巨体を無残に切り裂く。
痛みはなく、ただ無慈悲に切り裂かれ真っ二つに分かれた半身が音もなく消滅した。
「やった!?」
声を上げた輝夜は振り返り状況を確認する。
彼女の攻撃は完璧に決まった。
文字通りの『必殺』だった―――――が、残った半身は激痛に耐えているのかまだ動いている。
とどめを刺そうと大鎌を振り上げた輝夜を洸太郎は静かに制した。
何故? そう思った輝夜を尻目に洸太郎は先ほど拾い上げた金色の懐中時計を懐から取り出した。
それを見たウサギはもぞもぞと這いつくばりながら洸太郎へ近づいていく。
「そんなんになってまで…………よっぽど大事らしいな、〝これ〟」
キィンと指で弾いた懐中時計は空高く舞う。
ウサギの視線が空中へ注がれ洸太郎は低く腰を落とし、拳を構えた。
手甲からバヂバヂバヂィィィィッッッ! と火花を出しながら洸太郎は憐れむような目を向ける。
「わりぃな」
それだけ呟くと一気に距離を詰める。
目の前に落ちてきた懐中時計とウサギが同列に並んだ時、洸太郎の術式が籠められた拳がウサギを捉えそのまま開門された虚空へと叩き込んだ。
ウサギと金色の懐中時計が一緒に門へと吸い込まれるように消えていくと同時に、時計台の鐘が四回鳴り響く。
ゆっくりと門は閉まり、中庭に残されたのは疲弊しきった洸太郎と輝夜だけが荒い息をしながら静寂の中立ち尽くしていた。
奇しくも、あのメモに書かれていた『四つ音の獣は時を刻みし金色を追いかけ闇へと落つ』という言葉通りの結末となったのだった。
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