第8話 ⑥攻略
ウサギを吹き飛ばした後、洸太郎と少年―――
現状、何も分からない洸太郎は少しでもこの場所がどういったものなのかを把握しておきたかったのもあるが、他の生徒達が逃げ惑っている中で唯一捕まえる事が出来たのがこの滝沢少年だけだったのだ。
「取り合えず『音楽室』なら少しは大丈夫だろ」
壁に掛けられた歴代の音楽家達の肖像画を眺めながら一息つく為に椅子に腰を掛ける洸太郎。
同じようにその正面には滝沢も申し訳程度に座る事にした。
「で? 今さっきやっと自己紹介が出来たが―――――ここは何だ?」
今の今まで落ち着いて話も出来なかった。
洸太郎は自らこの場所に飛び込んでは来たが状況が分からなければ何も出来ない。
滝沢はオドオドしながらも説明を始める。
「ぼ、僕達…………レミエルっていう天使に連れられて、ここに来たん、だ」
「天使?」
怪異ではなく、天使。
それは洸太郎からすれば眉唾な話でもある。
もしかすると天使を名乗り人々を油断させ食らう怪異も存在する為、そういった存在なのかもしれないと考えた。
「その天使が僕達に〝異世界〟へ行って世界を救ってほしいって言われたんだ。その天使曰くなんだけど、異世界に行くにはこのままじゃ弱くて死んじゃうから異世界への招待券を賭けて試練に挑んでもらうって言ってた」
途中で早口になってきたのは誰かに聞いてもらいたかったからなのか、それとも興奮してテンションが上がってきたのか。
声も大きくなってきたので洸太郎が慌てて制止する。
滝沢も自分の口を押えながら小声で続けた。
「でもその天使が用意した魔法陣に入ったらこんな場所に連れてこられるし、簡単に異世界で無双出来ると思ったらバケモノ達に襲われるしでもう最悪だよ」
滝沢の台詞に疑問が生じる。
バケモノ達?
「達って――――――おいおい、あんなのがまだ他にもいるのか?」
「えっ? 他にもって………………一番最初に馬みたいなバケモノに襲われただろ?
今更何を言ってるんだ? と不思議そうな顔をされたが、色々と問題が発生した為それどころではない。
ウサギ一体でも進行形で苦戦を強いられているのだ。
しかも今度は馬ときたものだ。
「ここは動物園かっての…………ところで他に知ってることはあるか?」
恐らく何か提供出来る情報などあっただろうか、と考えていたのだろう。
滝沢がしばらく考えていた時「あっ」と声が出た。
「多分―――――なんだろうけど、あのバケモノ達が出る前に必ず鐘が鳴るんだ。馬が来た時は七回、その次が十回鳴って鳥のバケモノが来た………………で四回で」
「あのウサ公、か」
どうやら今は一度につき一体づつあの怪異はやってくるようだ。
もちろん同時にやって来る可能性はゼロではない。
となると、
「(あとは怪異の出現条件と規則性、か)」
ウサギの怪異の能力に関しては大方予想は付いている。
それは彼が手にしている〝ある物〟がそれを証明していた。
そこでふと気になった事があったので聞いてみることにする。
「なぁ、さっきの門に書かれてたのって?」
ウサギの襲来でそれどころではなかったのでちゃんと聞けていなかった事に気付く。
そして滝沢も思い出したかのように制服のポケットからメモ用紙を取り出し洸太郎へと見せた。
どうやらこの滝沢少年は几帳面なようだ。
「えっと…………『指針はクルクル回る。いい方向にもわるい方向にもくるくると。だけど気を付けて、間違えちゃうとこわーい門番がやってきてみんなを襲っちゃう』なんだけど」
そして、そのまま次のメモ用紙のページを捲る。
「別の門には『おいでなさい、おいでなさい。此方へ来たなら帰りも此方。ほらおいでなさい、おいでなさい』って書いてあったんだ」
最後まで聞き洸太郎は唸る。
話を聴いても全然内容が入ってこない。
「ったく、どういう意味なんだよ―――――他に何でもいいからヒントは?」
何かを探すような仕草をしていた時、洸太郎の祓衣のポケットからカサッと音がした。
何かと思い手を入れると、そこにはくしゃくしゃになった紙切れが入っている。
「あー、そう言えば」
図書室にいた時に見つけた紙切れを思い出す。
確かあの時もその紙切れを見てウサギが襲来してきたのだ。
「ったく、良い思い出が全然ない」
その紙切れを無造作に捨て、さてこれからどうしようかと悩んでいた時、滝沢がその紙切れを拾い内容を見た。
「あっ、これって…………
「みかなぎ?」
当然、洸太郎がその名前に聞覚えがないのだが何か引っかかるモノがある。
それを何か勘違いしてなのか、滝沢は話を続けた。
「ぼ、僕と同じクラスの女子だよ…………最近学園にも来てなかったからここにいないと思ってた」
普通の会話。
だが、洸太郎は微かにだが〝違和感〟を覚える。
その御巫という名前を出した刹那、滝沢は目を逸らしていたのだ。
どういう事なのかを問い詰めようとした時、
ぞくり、と背筋に冷たいモノが奔った。
キィィィィンと耳鳴りがする。
この感覚は―――――そう思った洸太郎はふと音楽室のある席へと視線を向けた。
入った時、確かに誰の気配もない事は確認している。
なのに、
教室の隅で俯きながら震えている女子生徒がそこにいた。
「(生存者? ―――――いや、それにしては気配がねぇ…………霊体、か?)」
洸太郎の視線が一点に集中しているのを不思議に思った滝沢は同じ方向を見た。
すると血色の悪い顔色が更に悪化しガタガタと震え出した。
尋常ではない様子に洸太郎は首を傾げる。
どうやら顔見知りのようだ。
「滝沢?」
逃げるように滝沢が後退りし、震えながら霊体の少女へ指をさす。
そして同じように震える声で名前を叫んだ。
「なんで―――――なんで御巫さんがここにッ!?」
名前を呼ばれた
あとに残ったのは静寂。
色々と疑問は残るが滝沢の怯えようは尋常ではない。
一体何があったのか?
そう問いただそうとした時、
たーんっ、たーん、 たーん、 たーんっ。
不規則な足音が聴こえた。
どうやら先ほどの滝沢の叫びにウサギが引き寄せられて来たのだろう。
足音は真っ直ぐにこちらへ向かってくるのが分かった。
「(チッ――――――ここで迎え撃つか?)」
銀色の柄に手を掛ける。
ふと、少女がいた場所に何かが落ちている事に気が付いた。
どうやらメモ用紙の一枚で裏面には先ほどと同じようにイニシャルであろう〝M〟の文字が書かれていた。
『十二の獣は鐘の音が響くと門より這い出てくる。それは果てなき虚空の闇。安寧の洞。出入り口はそこでありそこでない。四つ音の獣は時を刻みし金色を追いかけ闇へと落つ』
そう書かれていた。
少しポエム染みた表現に違和感を覚えるも、ふと気付いた事がある。
「(〝出入り口はそこでありそこでない〟――――――――――まさか)」
だが、洸太郎の思考はそこで止まった。
教室の外で激しい戦闘音が響いたのだ。
「な、なにッ!?」
滝沢は身体を強張らせるも洸太郎は冷静に状況を考える。
自分ではない誰かが戦闘を行っているのは確かだ。
では、一体それは誰なのか?
「ッ!? あンの、
洸太郎は退魔式銃にマガジンを装填し教室を飛び出す。
そんな彼に着いていこうと滝沢は動こうとしたが、それを洸太郎は制止した。
「滝沢はそこで待ってろ! 今下手に出て行きゃあのウサギに身体を抉られるぞ!!」
そう言われ滝沢の動きが止まる。
自分を心配する彼も本当は怖いはずだ。
なのに、何故?
「き、きみは一体―――――――――――?」
滝沢の問いかけに洸太郎は二ッと笑う。
「俺? 俺はただの
それだけ言うと洸太郎は今度こそ『音楽室』を飛び出す。
自分以外にこの場で戦えるとすれば、それは向こうへ置いてきたはずの
無策で勝てるほどあの怪異は甘くはない。
どうか無事でいてくれと願いながら洸太郎は戦闘が行われているであろう場所へと走って行った。
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