第5話 ③とある閉鎖空間での一コマ




 あれからどれ程の時間が経ったのだろう。

 とある高天原学園の生徒は教室にあるロッカーへと身を潜めた。

 散り散りになったクラスメート達の姿はなく、息を殺しながら声にならない声で助けを求める。


 「(俺が何したってんだよクソがッッッ!!)」


 全てはあの〝天使〟とか言うヤツのせいだ。

 突然見知らぬ場所に呼び出したと思ったら次はこんな最悪な場所に連れてくるなんて。

 人を小馬鹿にした顔がチラつく。

 そう、

 全てはあの――――――――――。


 ―――ひたっ、


 音が、聴こえた。


 「ッ!?」


 口を押さえる。


 ―――ひたっひたっ、


 これは、足音だ。


 ―――ひたっひたっひたっ、


 空気が張りつめる。

 すぐそこに


 「―――――――――」


 息を殺し、存在感を出来る限り消すように努力した。

 大丈夫、自分がここにいる痕跡は消した。

 だから、

  大丈夫―――――――――。


 ―――ひたっひたっひたっひたっ、


 恐怖が頂点に達しようとした時、ふと気配が消えた。

 先ほどまで教室の外を徘徊していたモノは居なくなったのだろう。

 ホッと胸を撫で下ろす。

 が徘徊している学園なんて正直に言ってシャレにならない。

 意を決しロッカーの扉を開け周囲を見回す。

 だだっ広い教室が広がっているだけで何もない。


 「――――――――――――――――――――っは」


 思わず声が漏れた。

 それは安堵から来るものなのか?

 それともこの緊迫した状況で生き延びてやったという事に対しての笑いだったのか。

 それはどちらでも良かった。

 高天原学園は偏差値が高い学園で、在学している生徒も親が政治家だったり医者の家系だったり由緒正しい家系の者が多い。

 だから自分は選ばれた人間なのだ。

 だからこんな所で自分が死ぬはずがない。

 もし、仮にあの天使が言っていた事が事実で

 そんな事を思っていた。



 だから、



  彼は気付かない。



   〝それ〟はずっと教室に居て、



    獲物が気を抜いた瞬間を今か今かと気配を殺して待ち続けている事に。



 〝それ〟は一気に飛び掛かりその学生の喉笛に嚙みついた。

 一瞬、何が起きたか理解する間もなく――――――――――。


 「あへぇ?」


 間の抜けた声を上げながらその学生は短い生涯を終える事になった。

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