第4話 ②集団神隠し
『集団神隠し』―――――この噂は都内でも数ヶ所、全国区になるとその数は数十ほどの学園で発生している事件だそうだ。
神隠しに遭ったのはいずれも学生のみで、たまにだがその中に教師も紛れている事が判明している。
メディアでもその話題は度々出ており、集団ボイコットや偶然が重なった家出説。
誘拐説など意見が様々に繰り広げられていた。
「――――――――――で、最新の『集団神隠し』が起きたのがこの
洸太郎は資料に目を通しながら辺りを見回す。
そこにはカメラを持ったマスコミやテレビで見たキャスターなどが騒ぎ立てているのが見えた。
「しっかし、アウローラもここまで被害が大きくなる前に動く事が出来なかったのかねぇ?」
「仕方ありませんよ先輩。アウローラ…………もとい、退魔の組織も一枚岩じゃありませんから。どこの機関が先に解決するかを競争しているのが現実です。それに政府は自分達で解決出来るのが一番だと考えてる人達も多いようですしね。今回はここの学園長がアウローラの噂を聞いて依頼したようです」
同じように洸太郎の横でマスコミ達が騒ぎ立てているのを冷ややかな目で見ていた輝夜が呟いた。
「そこなんだよな。一般人に被害が出て初めて動けるってのが何か歯がゆい。今回はここの学園長の判断に拍手」
パチパチパチパチと小さな渇いた音が響く。
だが、科学が発達しSNSなども普及したこの時代に神魔妖霊などの『怪異』が蔓延しているのは事実だ。
彼らが存在する事実を拡散されてしまうと混乱が生じてしまうので規制するしかない。
「先輩、
「ははっ、聴きたくなかったなその情報―――――ってか〝先輩〟呼び止めない? 普通にむず痒いんだが?」
洸太郎は提案するが輝夜はむしろ不思議そうな顔で訊ねる。
「何故です? 先輩は先輩だと思うのですが?」
どうやら引く気はないようだ。
自然とため息が零れる。
どうしてこうなったのか?
事は数時間前に遡る。
洸太郎がこの事件を捜査、及び解決を求められた時もひと悶着があった。
というのも、過保護代表の澪奈が猛反対して来たのだ。
なんでもこの紅月輝夜という少女は信用できないと普段は誰に対しても友好的な態度で接する澪奈にしては敵意が剥き出しだったのが珍しいのもある。
しかし所長である玄蔵、そして『魔科學』の
まず洸太郎を推薦したのは現場へ赴いた回数が多かったのと、そして洸太郎のレベルでも解決出来そうだから取り合えず一緒に行動せせれば良くね? との事だ。
まぁもっと厳密に言えば、他の退魔士では輝夜の足を引っ張ってしまうかもしれないらしい。
「もちろん他の退魔士――――主に冠位階梯の術士達の事も考えたんやけど、見ての通り多分捜査より揉め事起こすんが目に見えてしもうてそれどころやないやろうしなぁ。それなら面倒見のええ九鬼君が適任やと思ったんや」
今でもあの素敵すぎるロリチーフの笑顔を思い出すと一発殴りたくなってくる。
そんなこんなで今に至る―――――という訳だった。
「しっかし、どうしたモンかね」
洸太郎は物陰から様子を窺うも、マスコミ達は一向に引く気配はない。
あまりここで時間をかけるのは得策ではない。
時間が掛かれば掛かるほど行方不明になった学生達に危険が迫ってるかもしれないのだ。
「(アイツらが去るのを待つか? それともまずは周辺を探るのも―――――)」
まず今出来る事を色々と模索していたところで、ふと輝夜が洸太郎の袖をクイクイと引っ張てくる。
「どうした、紅月?」
「いえ、技術顧問から頂いた人払いの護符を貼ればいいのでは?」
なるほど。
どうやら彼女はとてもとても優秀なようだ。
先輩と呼ばれ有頂天になってるところ、盲点を突かれると恥ずかしい気持ちになるんだなぁと改めて思った洸太郎だった。
周囲にバレない様に人払いの護符を学園の周辺に貼り付けていく。
今まで深夜帯が多かったせいか、人目を気にするというのがあまりなかったのだ。
色々と勉強になるなぁとそんな呑気な事を考えながらも護符の効力が出始めたのか一人、また一人と学園から去っていき数分後には校門前は静けさを取り戻す事に成功した。
そっと学園内に侵入した二人は校舎内を見て回る事にする。
校舎の外側を見ていた時から思っていたが、中も綺麗で教室も年季を感じる事はない。
どこも整頓されていて備品も新品同様だった。
「どうやら設立されてまだ間もない感じですね。資料によると二年前ぐらいに建てられたそうですよ?」
「なるほどな…………なら古い怪異って線は限りなく薄い、か」
大体どこの学校もそうだが、歴史を重ねれば重ねるほど怪異は寄って来る。
それだけ人の念に寄せられるモノなのだが、新設された校舎ではその辺りの線はないのだ。
土地や郷土信仰でもあれば話は別だが、下調べをした限りでもその線はない。
「なら――――神隠しってのは何かの比喩? いや、それにしては何の気配も」
ぶつぶつ呟く洸太郎をジッと見ていた輝夜に気付いたので声を掛ける。
「ん? どうしたんだ?」
「―――――いえ、何だか聞いていた話と少し違うなって」
最初、何を言っているのか分からなかったがすぐに言葉の意味を理解する事が出来た。
「あぁ、俺が『
特に気にする事はなかったので教室などを調べながら話を続けた。
「別に隠してるわけじゃねーよ。でもアウローラの連中はプライドが高くてそう言ってくるヤツは多いぞ。俺が劣等術士って呼ばれてんのは事実だし、他のヤツより術式刻印も少ないのも事実だ。まぁだからって不貞腐れてる場合でもねーしな」
そう言いながら洸太郎が何気なくある教室の扉を開いた。
「――――――――――」
瞬間、強烈な悪寒が全身に奔る。
「先輩」
「あぁ」
どこにでもある教室の風景。
今の今まで授業をしていた形跡があった。
だから不気味なほど不自然に見える。
間違いなく
「現場はここか…………でも何だ?」
劣等術士とはいえ洸太郎も退魔士の端くれ。
怪異が絡んだ事件特有の空気の澱みぐらいはすぐに分かる。
分かるのだが、ここは〝清浄〟なのだ。
不浄物が一切ない。
全国を探してもないだろう。
それほどの霊場とこの教室はなっている。
「さてさて、この薄気味悪い教室で一体何が起こったのかねぇ?」
そう洸太郎が呟くと教室の中を見回る二人。
だが、生活感こそはあるもののそれと言って手掛かりは出てこない。
十数分――――それだけで教室の中を調べ尽くすには十分な時間だった。
よくある机に椅子。
個人の私物を収納する為の鍵付きロッカー。
どれも青春の一ページを彷彿とさせる学校の備品の数々。
物持ちが良いのか、それとも普段から整理整頓をキッチリと行う校風なのかは分からないが綺麗に使用されているのが他人から見ても分かるほどだった。
だから、洸太郎は教室の端にある机に違和感を覚える。
傷だらけで薄汚れた机はこの教室において悪目立ちしていたのだ。
だが、今は何か一つでも手掛かりがないものかと捜索する。
しかし彼らの捜査も虚しく、時間だけが無情に過ぎていった。
「やっべ。お手上げだ」
「諦めるの早くないですか先輩」
出来る先輩という評価から一気にダメな先輩に下がった洸太郎に輝夜が素早くツッコむ。
だが、今は手掛かりが少なすぎて話にならないのも事実。
いよいよ困った洸太郎は適当な椅子に腰を掛け背もたれにのし掛かり天井を見上げた。
「どうします先輩? アウローラに応援を要請、もしくは何か助けを求める事も視野に―――――先輩?」
上を見上げたまま時が止まったかのように動かない。
釣られるように輝夜も視線を上へと向けると、
「―――――――先輩」
「あぁ、灯台もと暗しってか。いやこの場合灯台上明るい? になんのか」
二人の視線の先、教室の天井のはびっしりと大きな〝魔法陣〟のようなモノが描かれていた。
僅かにだが洸太郎にも感じ取る事が出来るほどの微量な魔力を残している。
「手掛かり見っけ」
洸太郎が呟く。
ゆっくりと立ち上がり上を見ながら魔法陣を観察する。
余計に触るとどんな効力が発動するのか分からないので慎重に事を進める二人。
「魔力の残滓がありますがそれだけですね…………もっと有益な情報があると思ったのですが」
輝夜が呟く。
今となってはただの悪戯で描かれた絵にしかならない魔法陣を悔しげに見つめながら他にもっと手掛かりが無いかを探していると、
「―――――なら、〝これ〟に力を注げばいいんじゃねーの?」
洸太郎はそう言いながら周囲にあった机を並べ積み重ねていく。
一瞬、何を言っているのか理解が追い付かなかった輝夜だったがふと我に返り呆れた声を上げる。
「何を言ってるんですか? そもそもこの魔法陣がどんな手順や何をモチーフにしたものかが解らないんじゃ―――――」
「だからだよ。俺はこれに
天井に手が触れる所まで上がると数枚写真を撮りアウローラにいる技術顧問のアイリスへ転送する。
「これでよし―――――あとは」
何を勝手にしてるのか、と輝夜が反論をする前に洸太郎は魔法陣に手を触れ意識を集中させる。
構築、構成、用途――――それら全てを騙し欺き手玉に取っていく。
洸太郎の力が魔法陣に流れ込み淡い光が宿り魔法陣が本来の用途の為に起動していった。
輝夜が後ろで何か言っていたような気がしたが、それを聞く暇はない。
一気に集中力を高めいつもの
「
眩い光が教室を包み込む。
そして――――――、
「う、そ」
「よしっ、成功」
輝夜とは反対に満足げに言った洸太郎は肩を回す。
魔法陣は完全に起動しており、他に何かが起こる気配はない。
信じられないような目で洸太郎を見た輝夜に気付いたのか、少年は片手をあげ敬礼のポーズを取る。
「なっ、上手くいったろ? 多分この神隠し事件の真相は転送術式による集団転移ってトコか……これに気付いたけど他の退魔士は発動に時間が掛かり過ぎて魔法陣が消えたか、無理矢理起動させて違う
色々とツッコミどころが多いが、それでも輝夜は言葉が出なかった。
だが、洸太郎はそれを気にする余裕などない。
早く行かなければもっと手遅れになってしまうかもしれないのだ。
「まっ、後は報告が来るまでそこで待機しといてくれ。何かあったら応援呼ぶ事でおっけー?」
「ちょっと待ってください、まさか―――――先輩一人で?」
一人より二人の方が安全で臨機応変に対応出来るのは分かっているはずだ。
なのに何故一人で行こうとするのか輝夜には理解できない。
「そのまさかだよ。他の退魔士の末路聞いたろ? 多分焦って飛び込んだはいいが向こうで何らかのトラブルが起きた―――――そんなトコだろうよ」
だから一人が未踏の地へ赴き一人が残る。
それが正しいのだろう。
正しいのだろうが、輝夜には賛同できない。
「それなら私が――――」
「バーカ。後輩なんだろ? だったら紅月がこっちに残りなさい。こりゃ先輩命令だ」
有無を言わさずそう言うと洸太郎は魔法陣に手を触れる。
眩い光が再び教室を包み込むとそこには洸太郎の姿はなく、教室には輝夜だけが取り残されていた。
「な――――――――なんなんですか、あの人はッ!」
そう叫ぶ輝夜に今出来るのはただアウローラの
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