第83話 ディメンションルーム

「国王陛下、これを」


 国王様達が私用で使う応接室。いつもの席順で上座に国王様、応接テーブルの左側は王妃様とシオン様、向かいにレスティと僕。


「話に聞いていたブレスレットだな」


 僕の国王様に手渡したのは銀色のブレスレット。レスティも同じ物を左手首に着けている。


「はい。王妃様、王太子様もどうぞ」


 同じブレスレットを二人にも渡す。


「ありがとう、アルスタ」


 王妃様が礼を述べ、王太子様は早速左手首に着けている。


「レスティから話は聞いていると思いますが、そちらはディメンションルームの鍵になります」


 僕は空いている時間で、ディメンションルームが他の人にも使えないかと、色々と試行錯誤させていた。


 縁あって僕はエルクスタ王家の皆さんに色々とお世話になっている。そんな皆さんが先日の様な魔物の襲撃の時に逃げられる様に、セーフルームとしてディメンションルームを使って貰いたかった。


 そんな訳で、異世界日本のIDカードを参考に、ディメンションルームに入る為のパスコードを魔術式に起こし、それを刻んだブレスレットを作成した。


 ブレスレット自体は既製品だけど、王家の人が身に着けてもよいように、先日街に出掛けた時にレスティに見てもらいながら購入した。


「使っていいかい」


 王太子様はキラキラと輝いた瞳で聞いてくる。


「はい。中で説明したい事もありますので」


 僕が言うと、王太子様がブレスレットを使いディメンションルームの扉を出現させる。国王様、王妃様もブレスレットを左手首に着けて、全員で中に入った。


「以前に比べて物が増えたね」


 部屋の中を見渡す王太子様。ディメンションルームの中は、街で買い足した物が色々と置かれている。


 床にはモダンな柄の絨毯をひき、壁には絵画を飾り、キッチンの調理道具や、テーブルセット、食器棚なども置かれている。僕がアイテムボックスで作った卓袱台はお役御免となった。


 部屋数も増やし、僕様の部屋、レスティ達の女の子部屋、更に客部屋としてもう一部屋の3LDK仕様に改築した。各部屋にはベッドやトイレ、シャワー室も完備している。


「はい。何日かはこの部屋で暮らせる程度には物を揃えてあります」


 ダンジョン攻略の途中でも不便が無い程度には、街で色々と買い足してある。食料などはアイテムボックスに入れてあるから日持ちするしね。


「それから、あちらの壁に扉が三つあります」


 一同が僕が指差した側の壁を見る。


「ディメンションルームは入った場所が出口になります。しかし、それだと困る事もあるかと思います」


 ディメンションルームは異空間に作られた部屋だ。異空間ってのは常にそこに有り、常にそこに無い、そんなイメージの空間だ。つまり『そこ』の定義は決まっていないって事になる。


 では『そこ』を決めるのは何か。僕が出した結論は『空間座標』だ。出入り口の位置は、扉が発生した時に空間座標で決められている。


 それを応用し、僕の館で作ったディメンションルームの扉を、座標アンカーの魔法を使って空間座標を固定してみた。すると、異空間側の部屋の中で扉は消える事なく固定される結果となった。


 そして違う場所からディメンションルームに入り、その扉から外に出ると案の定、僕の館の中だった。


 次に常闇のダンジョンに入り、ディメンションルームからその扉を使って外に出ると、やはり僕の館の中だった。常闇のダンジョンでの階層間の瞬間移動は出来なかったけど、ディメンションルームを介しての移動は可能なようだ。せっかくなので、常闇のダンジョン直通扉は攻略中の七十階層に設置した。


 最後にお城で僕用に用意されている部屋にも扉を作った。結果、ディメンションルーム内に空間座標が固定された扉が三つある。


「右側から『僕の館』『お城の部屋』『常闇のダンジョン』となっています。間違っても、『常闇のダンジョン』へは行かないでくださいね」


 それを聞いて王太子様の瞳がまたキラキラと輝いた。


「こいつは凄い。アルスタ君が設置してくれれば遠方にも一瞬で行けるわけだ!」


「お兄様ッ! アルスタ様はお父様達の身を案じてこのブレスレットを作ってくれたのですよ!」


 少し悪い笑みを浮かべていた王太子様にレスティが釘を差してくれた。


「アハハ、分かっているよ。アルスタ君、もう一つブレスレットを作ってくれないかな」


「もう一つですか?」


「ああ、セバスの分だ。私達だけではお茶も淹れられないからね」


 確かにそうだ。身の回り世話をしてくれる人の分も必要だ。一つとは言わず、もう何個か作っておこう。国王様が信頼出来る人に渡すぶんには問題ない。


「分かりました。もう何個か作っておきます」


 その後、ディメンションルームで少し談話してくつろいだ僕達は、もといた応接室へと戻った。

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