第82話 シオン殿下の事件簿3 【sideシオン】

【シオンside】

 「やはり、伯父上の領地に逃げ込んだか……」


 自室の執務椅子に座り、机の上にあるティーカップを手に取る。先ほどメイドかま入れたばかりの熱い紅茶を一口飲み、考えにふける。


 コワッパーン伯爵が王都を抜け出し向かった先は伯父上が治める公爵領だった。


 追跡者チェイサーの話しでは、同行している者の中に帝国訛りの見慣れない男が一人いるとの事だ。こいつがくだん卵使いエッグマスターの可能性が高い。


 アルスタ君から卵使いエッグマスターの能力者の事を聞いてから、私はその手の事に精通した者達に調べさせた。


 その結果、ブエノス帝国の東部地方で卵使いが関与していると思われる事件があるとの報告があった。


 それは、魔物の群れに襲われた貴族家や街などの話で、それ自体は我が国の北部でも年に数回はある話だ。


 しかし、帝国は我が国の様に魔物が多く棲む北の森には隣接しておらず、魔物の出現数は我が国と比べれば極めて少ない。


 そんな帝国の東部地方で魔物に襲われる事件が多発すれば、何らかの事象が起きていると考えられる。


 加えて、魔物に襲われた貴族家や街で命を落とした者の多くが反皇帝派に属した要人であるとの情報を合わせれば、帝国の手による画策は誰しもが疑うところだ。


 つまり帝国は卵使いを使い、魔物に反皇帝派を襲わせた。魔物が反皇帝派を殺しても、悪いのは魔物だ。頃合いを見て魔物討伐に帝国騎士団が駆けつければ、反皇帝派であれ帝国は国民を守る正義の味方になれるわけだ。


「しかし帝国は派手にやり過ぎ疑惑の目を持たれたか? そのほとぼりが冷める間、卵使いを使って他国にちょっかいを出しているって事か? 面倒な事をしてくれる」


 いずれにしろ、その卵使いは今は我が国にいる。たった一人で数百の魔物を作り出す能力は脅威だが、帝国がヤツの能力を軍の兵力として使わないのは何か問題があるのだろう。


「先ずは軍務大臣だな」


 不敬罪と逃亡罪は確定しているのだから、伯父上にコワッパーン親子を捉えるよう父上の名の下に勅命をだせば、どう動くか。


 素直に突き出すか、はたまた匿うか、それとも――。


「乱を起こすのであれば、伯父上の首が取れるか……」


 私は執務椅子から立ち上がり窓辺に立つと、窓の外から見える城下の街を眺めた。レスティとアルスタ君は、今日は街に買い物に出掛けているとの事だったな。


「もし、卵使いが敵に回ったらアルスタ君にお願いしよう」


 流石にまだ十三歳の少年に内戦に行かせる訳にはいかない。反乱軍とはいえ、彼が人をあやめるにはまだ若すぎる。魔物が相手であれば彼も全力を出せるだろう。


「伯父上、あなたはどう動く」


 私は城下街から目を上げ、外壁の向こうの白い雲を見つめた。あの雲の下には公爵領がある。


 ふとガラスに映る私の顔を見てみれば、私は不敵な笑みを浮かべていた。


「こちらの準備は整いつつあります。私の期待に対えてくださいね、伯父上」

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