第81話 帰り支度

 オーガーの襲撃から一週間が過ぎた。


 コワッパーン伯爵達は東の方へと逃走し、その道程の先に、国王陛下のお兄さんにあたるオルビス公爵が治める公爵領がある事を確認し、僕の索敵魔法による追跡は、王太子殿下直下の追跡者チェイサーにバトンタッチして終わりとなった。


「……変わった形の剣だな」


 武具屋に頼んで作って貰ったのは異世界日本の知識にあったニホントウと呼ばれる細身で反りのある片刃の剣だ。


 アイシャさんがブンブンと片手で振っている。


「なるほど。この剣は叩き斬るって感じじゃないな」


 更にアイシャさんは刃を撫でる様に剣を振り、感触を確認している。


 武具屋に頼んで作ったニホントウは、僕の異世界日本の知識にある日本刀とは異なり刃文が無い。サーベルを曲刀にしてみた感じの出来具合だった。


「それで、これをあたしに使えってか?」


「いえ、違いますよ。ただ、先日渡した手裏剣と例の衣装を着てルルエル様に会ってくれたら、アイシャさんの印象はかなり好印象がなると思います」


 武具屋にはニホントウ以外に星型の手裏剣作成をお願いしていて、手裏剣はオーガーの殲滅後にアイシャさんの新調した盾と一緒に取りにいった。


 その後、アイシャさんと攻略途中だった常闇のダンジョン七十五階で、アイシャさんのスキル紫閃投剣バイオレットキャストを使って星型の手裏剣を投げて貰った。


 七十五階は雪山エリアになっていて、シルバーイエティの群れが生息している。雪の上でも素早い動きに翻弄される厄介な魔物だ。


 そんなシルバーイエティに投擲必中の紫閃投剣バイオレットキャストを使い、アイシャさんが投げた手裏剣が面白いようにシルバーイエティの眉間に刺さっていった。


『剣を振らない戦闘はやはりつまらん』


 とアイシャさんは言っていた。確かにアイシャさん程の腕前があれば、足場の悪い雪山でもシルバーイエティの相手は出来るだろうけど、僕は違う。


 僕の魔法は確かに強いけど、戦闘経験が少ない事もあって、シルバーイエティの素早い動きについて行けない。前回は短転移魔法で全力逃げだったからね。


 ニホントウは日本刀独自の技術の為かぱちもん感が拭えないが、手裏剣は中々の出来だと思う。それにあの衣装を着て貰えれば、ルルエル様のご機嫌は取れるだろう。


 そんな訳で僕達は次のお店に向かう為に武具屋を出た。



◆◆◆



「お待たせしました」


 武具屋を出ると、お店の前でレスティとメッシーナさん、エレナさんが待っていた。


「アルスタさん、早く次のお店に向かいましょう」


 レスティが僕の手を取ると、逸る気持ちを抑えきれずに、早足で歩きだした。次に行くお店は例の服を頼んである洋品店だ。


 ルルエル様の所にアイシャさんを連れて行く話しをしたら、レスティ達も行きたいといいだした。とはいえ、ルルエル様は魔王級のお方だ。大勢でどやどやとお仕掛けて、気分を害された日には、指先一つで僕らは消し炭に成りかねない。


 さてさて、どうしたものかと悩み、アイシャさんと同じように紹介すれば大丈夫かなと思い、レスティ達の服も頼んである。その服を受け取りに行くのだが、レスティやメッシーナさんは、その服を心待ちにしていたようだった。



◆◆◆



「似合いますか、アルスタさん」


 異世界日本の巫女という神官が着る白い着物に袴と呼ばれる赤いスカート姿のレスティ。光魔法の使い手のレスティには神様にちなんだ和装が良いかと思い巫女装束を着てもらったけど、めちゃめちゃ可愛い!


「ア、アルスタ様、私は如何ですか?」


 メッシーナさんには水魔法のイメージで藍色と水色でデザインされた異世界日本の振袖を着てもらった。ハーフアップに盛ってある紫色の髪との相まってとても綺麗だ!


「アルスタ君、エヘヘ」


 はにかんだ笑顔が素敵なエレナさんは赤い布地に金色の大輪が幾重も咲かせている着物で、肩に乗せた赤い番傘をくるくると回している。雅だ!


 そして、ルルエル様が一番喜ぶであろうアイシャさんは


「……アルスタ、本当にこれでいいのか?」


 全身黒装束の忍者衣装。背中のニホントウもそれっぽい感じをだしている。胸元がボヨヨンと弾けそうだが、頭は目元以外を頭巾で覆い、額当ての金飾りキランと光ってめちゃめちゃカッコイイ!


「はい、バッチリです!」


 ルルエル様は僕の異世界日本の記憶にある時代劇なるものに興味津々だった。だからアイシャさんには侍衣装を着てもらおうかとも思ったけど、紫閃投剣バイオレットキャストと手裏剣の相性が良かったので、忍者衣装にしてみた。


「アイシャさん、ルルエル様に何て言うか覚えてますか?」


「えっと、たしか、我が身すでに鉄なり、我が心すでに空なり、天魔伏滅!」


 よし、来週にはお貴族様達のお酒も揃うし、いよいよルルエル様の元に帰れそうだ。



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