第80話 南門の戦い2 【sideダーイシュ】

【sideダーイシュ】

 聖人様達が南門の援軍に駆けつけてきた。戦力的に一番厳しいと思っていたが、常闇のダンジョンを踏破した聖人様の力は、俺の想像を超えていたようだった。


 そしてもう一人、俺の想像を超えていた者がいた。


 アイシャは外壁から飛び降りると、オーガーに押されていた右側の兵士達の前に降り立った。そして相変わらずの神速の剣を振るい、次々とオーガーを切り刻んでいく。その姿はまさに戦女神と言って過言ではない。


 アイシャが騎士団に入団してまだ二年。幼い頃に陛下に拾われ、傭兵学校を経て十歳の頃から傭兵として魔の森やダンジョンなどで魔物を倒し腕を磨いてきた少女は、今や王国屈指の騎士となっている。


 剣速においては王国最強の騎士団長をも上回る。そして――。


「……アイツ、また腕を上げたな」


 既に俺を越える剣技を身につけている。聞いた話では、あの聖人様と共に常闇のダンジョンの七十階層を攻略しているとの事だった。


 高みを目指すのであれば、己より強いものに挑み、たとえ敗れたとしても、それに再び挑む事で、着実に強さを身に着ける事が出来る。


「俺も聖人様に頼んで連れて行ってもらうか」


 四十を越えた体では既に伸びしろは無いと諦めていたが、やはり若い者に負けるのは悔しい。今一度、自らを鍛え直したい。


 さて、その聖人様だが――。


「……聞きしに勝さる強さだな」


 まだ幼さが残る少年が、手を伸ばす度に熟練の騎士でさえ手を焼くオーガーを、しかも複数体に風穴をあけ一蹴していく。


 今までに見た事もない魔法だが、あの魔法で常闇のダンジョンに棲むドラゴンを倒したと聞いている。


 先ほど王都内に現れたゴブリンジャイアントでさえも少年の前では無力だったようだ。


 魔法は確かに強い。しかし、火力の高い魔法ほど白兵戦闘に向かないと言われているが、聖人様の魔法は別格みたいだな。


 例えば、四属性魔法の中で最も火力の高い火属性魔法は白兵戦闘を主とする騎士団や冒険者には不人気だ。


 火属性魔法の爆煙や輻射熱による高温は白兵戦闘を阻害する。その為、白兵戦闘での火属性魔法は支援魔法としては風属性魔法や水属性魔法に比べれば見劣りする。


 ダンジョン内において言えば、爆炎魔法の煙は戦闘を阻害するだけではなく、毒ガスにさえなりうる為、ダンジョン内では爆炎魔法は使えない。


 更に言えば、森林戦闘においては焼土作戦でもない限り、森林火災を招く火属性魔法はご法度だ。仮に火属性魔法を使った場合、延焼を防ぐ為の対応や火災防止の為の見張り役など面倒事の方が多い。


 そんな訳で、戦争における火力として宮廷魔術院に火属性魔法の使い手が多く集まっていたりする。


 魔法の火力で言えば、火属性魔法と肩を並べるのは風属性の上位魔法である雷系魔法だ。


 こちらも森林火災という意味では使い勝手は悪いが、火属性魔法に比べれば発煙リスクが少なく、輻射熱による近接戦闘の阻害も少ない。


雷神槌トールハンマー


 俺の隣で魔法を詠唱していた少女が魔法を放った。オーガーの群れの後方で、轟音と共に幾筋もの稲妻が降り注いでいる。


 雷系魔法の上級魔法を使うこの少女も天才か。


 天下無双の魔法を使う聖人様、十翼剣将にして紅翼の天女の異名を持つ天才剣士のアイシャ、雷系上位魔法を使う天才少女、そして先ほど階段を駆け下りて負傷者の治癒を行なう光属性魔法の使い手であるレスティーア王女殿下。


「ミナヅキ公爵家か……」


 新たに上位貴族として名を連ねたミナヅキ公爵家に不満を持つ貴族家は少なくない。しかし、戦えば負けるのは不満を持つ貴族家だろう。


 聖人様達の加勢により、右側の戦闘は守勢から攻勢に変わり、更には中央の戦闘にも余裕が出てきた。


「勝ったな」


 それから南門の戦闘は僅かな時で終息を迎えた。



―――――――――――

【火属性魔法の扱い、言い訳】

この物語に限っての設定です。

火属性魔法ってダンジョンで使ったら一酸化炭素中毒になるんじゃね?的な事を考えた事があったので、それを物語の中に入れてみました。


爆炎魔法は好きなので、他の作品では火属性魔法は活躍します


我が名はめ◯みん。

紅魔族随一の魔法の使い手にして、

爆裂魔法を操りし者。

我が力、

見るがいい!


エクスプロージョン!


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