第78話 帝国の犬3 【side???】

 王都を再び混乱の渦に巻き込む。考えただけでもワクワクしやがる。さてお次はオークが街でひと暴れ、上空から鬼梟オーガーアウルで空襲ってのも面白え。


 とまあ、色々と考えてはみたが、騎士や衛兵が

街中に出張られるのも塩梅が悪い。そんな訳で、俺は王都の外側で魔物を暴れさせ、騎士達の目を外に向ける方向で行動を開始した。


 俺は王都の郊外に出るとオーガーの卵を大量に作った。オーガーの卵はおっさんが手配した数台の馬車にオーガーの卵を詰め込んだ。


 おっさんに雇われた御者達が、王都の東西南北にある四つの門に向かって馬車を走らせる。そして俺は一番早くに着くだろう、西門に向かう馬車に同乗した。

 


◆◆◆



 西門が見えてきた。門の前では順番待ちをしている沢山の人が見える。


 頃合いだな。


 俺は『孵化』の力を使い卵を孵化させる。南北東に向かっていた馬車の卵も同時に孵化をさせた。


 ゆっくりと走る馬車の御者台から飛び降りると、一目散に西門を目指して走った。御者は俺が飛び降りて吃驚しただろう。


 しかし吃驚するのはその後だ。俺がしばらく走ると、馬車に荷台の幌が跳ね跳び、無数のオーガーが出現した。


 咆哮を上げるオーガー達。御者は真っ先にオーガーの餌食となった筈だ。


 逃げ惑う人の波に紛れて王都に入った。門を守る衛兵達が門を閉めようとしている。外にはまだ沢山の人がいるだろうに、酷いヤツらだ。


 また沢山の人が死ぬ。たまらなく愉快だ。


 俺はクククと笑いながら、おっさんの館に向かって街の王通りを走り抜けた。



◆◆◆



 おっさんの館の周りにはまだ幾らかの衛兵が貼っ付いている。


「邪魔だな。ここにもオーガーを出現させるか……」


 せっかく騎士達が外壁の外に意識が向いているのに、ここで目立つ様な事をしていいのか?


 そんな試行錯誤している俺の視界に、いちゃラブしているカップルが目に入った。今頃、外壁の外で騎士や衛兵が命がけでオーガーと戦っているつうのに、何やってんだあいつら。


 昼間だってのにベロチュウしているバカップルを見ていて、イライラが募る。リア充爆発しやがれッ!


 そんな訳で、俺はここで魔物を孵化させる事にした。恨むなら俺をイラつかせたバカップルを恨んでくれ。


「オーガーじゃつまんねえよな」


 俺はとっておきを孵化させる事に決めた。しかし、コイツは俺の言う事を聞かない暴れん坊だ。まあ、俺もおっさんと逃げる事だし、何の縁もない小国の王都が壊滅してもいいだろう。


卵錬成エッグメイク


 蹴り球程度の大きさの青い卵を作り出す。


「孵化」


 青い卵に亀裂が走り、中の魔物が殻から出て来ようとする。俺は卵を置き、物陰に身を隠す。


 卵の殻が弾けるように割れて、ゴブリンが現れる。しかし、そいつはただのゴブリンじゃない。見る見るうちに大きくなり、大きくなり、大きくなって、身の丈十メートル近いゴブリンジャイアントになった。


「…………想像していたよりもでけえな」


 まあ、大きい事はいい事だ。コイツが一歩歩くだけで建物が倒壊する。おっさんの館の近くにいた衛兵も慌てふためいているし、バカップルは腰を抜かして小便をちびらせている。


 ざまぁと思いながらも、俺もゆっくりはしていられない。ゴブリンジャイアントが二歩、三歩と歩くだけで次々と建物が壊れていく。巻きこなれないうちにおっさんの館めがけて走りだす。


 路上には埃が舞い、いい感じに衛兵達の視線から隠れられそうだ。館を囲う塀に隠された、隠し扉から庭先に入る。館の外からはは逃げ惑う人々の叫び声が聞こえ、耳心地が良い。


 館の正面玄関に立ち、最後にゴブリンジャイアントの勇姿を拝む。


「……はい?」


 ソイツは突然、ゴブリンジャイアントの頭上、宙空に現れた。


『ディメンションランス!』


 空中で何やら魔法を唱えると、ゴブリンジャイアントの頭に黒い穴があき、続いて大量の血が吹き出る。


 一発で殺されたゴブリンジャイアント。


『収納!』


 遠くて何の魔法を唱えているのかは聞き取れないが、ソイツが右手をかざすと、命が事切れ、倒れ始めたゴブリンジャイアントが突然消えた。


「……何なんだアイツは?」


 一瞬悩み、直後にある人物を思い出した。


「あれが、聖人様っやつか?」


 俺のゴブリンや鬼梟オーガーアウルを倒したっていう聖人様。まさかゴブリンジャイアントさえも瞬殺とは。


「……化け物かよ」


 俺の卵使いエッグメーカーも大概な能力だと思っていたが、アイツの能力は半端なくヤバい感じだ。


「……逃げよ」


 俺は慌てて玄関を開けて館に入った。あんな化け物を相手にしていられない。出来るなら二度と会いたくない相手だ。


 俺はおっさんと合流すると、館から地下水道に繋がる隠し通路を使って王都を脱出した。



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