第77話 帝国の犬2 【side???】

 俺が帝国の犬になって五年が過ぎた。犬の仕事は騎士様のお膳立てだ。帝国内は皇帝様に反感を抱く不穏な輩が意外に多い。それはお貴族様であったり、レジスタンスであったり、村ぐるみでの反対派だったりする。


 俺はそんな輩の館や、根城や、村々に卵から孵化させたゴブリンやオークをけしかけて襲わせる役だ。


 俺の魔物が襲い、反対派の輩を殺す。頃合いを見て、魔物討伐を大義名分にして騎士様達が乗り込む。


 反対派とはいえ帝国民である事には変わらない。騎士様達がそんな輩でも救うのは正義の行いだ。


 ってのは嘘。


 魔物から逃げ出せたヤツは騎士様達が殺してまわる。魔物に襲われたせいにすれば、どんなに偉いお貴族様でも、死人に口なしで、正義の名のもとに世直しが出来るって寸法だ。


 そんな訳で、犬呼ばわりされている俺だが、それなりに良い給金を貰えていた。特殊な仕事の関係上、恋愛や結婚は禁じられていたが、春町で最上級の女を抱き、豪華な飯も食え、美味い酒も飲める。


 神様、悪魔だなんて言って悪かったな。あんた最高だよ。


 そんな順風満帆な俺に今までにない仕事が回ってきた。遠い西の国の王都で、俺の力を借りたいお貴族様がいるらしい。犬の俺に断る権利などはない。俺は長旅に備えて春町で最上級の女達を買い漁り、英気を養った。



◆◆◆



 西の果てにある小国家群。その中の北側にあるエルクスタ王国の王都に着いたのは、依頼を受けて半月程たった頃だ。


 依頼主はどうやら別にいるらしく、そいつに合う事はなかったが、俺を必要としている人物は、八の字の形をしたチョビ髭をはやしたおっさんで、この国の軍務大臣との事だった。


 おっさんの指示で汚い地下水道に作られた広間に、大量のゴブリンの卵を作った。そして決められた日に卵から孵化させて王都中にゴブリンを解き放つ。


 自分の国の王都をゴブリンに襲わせるとか、あのおっさんは頭がいかれている。まあ、俺は言われた仕事をするだけだ。


 それに俺の頭もいかれているんだろうな。ゴブリンに襲われ逃げまどい、惨たらしく殺されるヤツらを見るのは、楽しくて笑いが止まらない。


 ところがだ、俺のゴブリンを紙くずの様に倒しまくるヤツが現れた。ゴブリンが幾ら死んでも俺の腹は傷まないが、面白い事じゃない。瞬く間に数百のゴブリンが倒され、狂気で賑わっていた王都に静寂が戻りやがった。


 後で聞いた話しだが、俺のゴブリンを倒しまくったヤツは聖人様だったらしい。なんだよ、聖人様って。



◆◆◆



 八の字の形をしたチョビ髭のおっさんは、何かをやっていたようだが、それが失敗したらしい。王都から逃げ出すのを手助けして欲しいと大金を積まれた。白金貨が十枚、数年は遊んで暮らせる金額だ。悪くない。


 おっさんの提案で地下水道を使って王都を出る。しかし、地下水道は前回の騒動で、未だに衛兵や冒険者がうろついている。そんな訳で王都に再び混乱を発生させ、その隙におっさんを逃がす算段をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る