第76話 帝国の犬1 【side???】

【side???】

 ブエノス帝国の森の中にある小さな村。その村で産まれ育った俺の運命は、十三歳の年に行われた覚醒の儀により大きく変わってしまった。


 神から授かった能力は『卵使いエッグマスター』という聞いた事もない能力だった。


 能力を授かった瞬間に能力のインスピレーションを感じた。それは、卵を作る能力だった。鶏の卵を作り出せれば卵御殿も夢じゃない。その時の俺はそう思い、喜んだものだ。


 村の広場に大勢の村人が集まり俺の能力に期待を込めて注視する中で、俺は能力を使い小さな青い卵を作り出した。


 青色をした不気味な卵。俺が『孵化』の力を使うと卵は割れて、中からはドロっとした透明な物が出てきた。生卵だったのかと思ったがそうではなかった。


 ドロっとした物がゆっくり動くと、急に飛び跳ねて、近くにいた農家の男の顔に張り付いた。男は絶叫し、俺を含めた周りの人達はなにがおきたか分からなかった。


 男の顔に張り付いたドロっとした物が透明から赤い色に染まっていく。


「スライムだッ!」と誰かが言った。俺の青い卵から孵化したのはアメーバ状の魔物、スライムだった。


 スライムは男の眼球を溶かし、そこから脳髄を喰らい、男を絶命させた。その後も、スライムは男の顔を溶かしていく。


 集まった人達はパニックにおちいる。鍬を持っていた男がスライムを真っ二つにしてスライムを退治する事は出来たが、俺に向けられた視線は犯罪人を見る目付きだった。


「化け物」「人殺し」と散々罵られ、親からも「悪魔の子!」と見放された。村人を殺した俺は犯罪者だ。村人がこぞって俺を捕まえようとする。


 悪魔の子だと!? ならば俺に力を授けた神こそが悪魔だ! 俺はこんな力が欲しかったんじゃない!


 俺は走って逃げた。隣町に続く道をひたすら走った。村の男達が鍬やピッチフォークを持って追いかけてくる。


 俺は幾つも青い卵を作っては、孵化をさせて後ろに投げる。卵から産まれた幾つものスライムが現れ、盛り上がった水溜りのようにして道を塞いでくれた。村で人死を見ていた男達は、スライムの手前で足を止めている。


 何とか村を逃げ出せた俺だったが、その後は犯罪者の似顔絵を方々ほうぼうの町や村に貼られ、冒険者の賞金首にもなってしまった。


 村を出て一月も経つ頃には、俺は街道を襲う山賊の仲間になっていた。俺の能力で数十匹のゴブリンを作り、商隊を襲わせる。護衛の冒険者共が戦闘を始めたら、仲間が弓や魔法で冒険者共を撃ち殺す。


 そんな山賊生活が三年続いたが、ある日、騎士団がやってきて呆気なく討伐された。俺が卵から作る魔物はスライムやゴブリンのC級モンスター。そんな雑魚を幾ら作っても、騎士団の猛者共にはへの突っ張りにもならなかった。


 お縄となったら死刑、それが山賊の末路だ。牢獄で死刑の順番を待っていた俺の前に、異様な気配を帯びた男が現れる。そして男は言った。『帝国の犬になって働く気はあるか』と。

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