第74話 王都強襲6

「聖人様」


 西門の前に骸と化して横たわる無数のオーガーを避けながら、僕のもとにバーンさんが駆け寄ってきた。後ろにはシルバーフォックスのリーダー、エドウィンさんもいる。


「バーンさん、お疲れ様です」


「いや、その『お仕事お疲れ様です』みたいなノリで言われても困ります」


 苦笑いのバーンさん。


「でも粘っていた甲斐がありましたよ。まさか聖人様が助けに来るとは思いませんでした」


「僕もバーンさんや、エドウィンさんがいるとは思いませんでした」


「ちょっとアルバイトでエドウィン達と商隊の護衛をしていた帰り道だったんです」


 シルバーフォックスのエドウィンさんとは、初めてエルクスタ王国側から常闇のダンジョンに入った時、帰りの道中をご一緒している。


「お久しぶりだねアル……いや聖人様」


 エドウィンさんが手を上げて軽めの挨拶を交そうとしたのだけど、畏まってしまった。


「バーンさんも、エドウィンさんも、畏まらないで下さい。僕の事はアルスタでいいですよ」


「「無理無理無理! 聖人様で公爵様のアルスタにタメ口とか無理だからッ!」」


 二人ハモって断られてしまった。


「しかし、バーンから話しは聞いてましたが、聖人様の強さはパナ……凄まじいですね。アイシャ様も鬼神の如き強さで魅入ってました」


 『魅入っていたのは胸部装甲なのでは?』とは紳士な僕は聞いたりはしない。なにせアイシャさんが一振りする度にポヨンポヨンと揺れる胸部装甲の破壊力は凄まじいからね。


 僕とエドウィンさんが話しをしている横でバーンさんが外壁の上に向かって大きく手を振っている。外壁の上を見上げて見てみれば、エレナさんがこちらに手を振っていた。


「はあ〜」と溜め息をついたのはエドウィンさんだ。


「やっぱりエレナちゃんの魔法は凄いよね。勧誘に失敗したのが悔やまれるよ」


「エレナさんに声をかけたんですか?」


「ストライクラビットが解散する話しは聞いていたからね。まあ断られたけどね」


 苦笑いで答えるエドウィンさん。エドウィンさんが声をかけた時には僕の家で働く事が決まっていたとの事だ。


「アルスタさん、怪我はありませんでしたか?」


 逃げ遅れた人達の中にいた怪我人の治療をしていたレスティとメッシーナさんも僕らの方へとやってきた。


「はい、大丈夫ですよ」


 バーンさんも、エドウィンさんもブラッド・ブルを飲んだのだろう。鎧や衣服は血まみれだけど、怪我はしていない。


「アルスタ、次の門に向かうぞ」


 肩に剣をかついだ無傷のアイシャさんもやってきた。戦勝の余韻を味わう事なく、心は既に次の戦場へと向かっている。


 そしてアイシャさんの後ろにもう二人。衛兵としてただ一人オーガーと戦っていたお兄さんと、十七、八歳ぐらいのお姉さんがこちらにやって来た。


 二人は手を取り合っているから恋人なのかな?


 



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