第73話 王都強襲5
「あれ? バーンさん?」
僕が外壁の上から、オーガーと戦う前線の人達の前に短転移で跳んできたら、そこには見知った顔があった。
「聖人様ッ!」
中々に激戦だったのだろう。あのバーンさんが肩で息をしている。
「これを皆さんに」
僕はマジックボックスから、ブラッド・ブルを小分けにした小瓶が十本程度入った布袋を取り出し、バーンさんに渡した。無闇にブラッド・ブルを人に渡すのはまずいが今は緊急事態で人命優先だ。
「これはアレですか!? 助かります」
バーンさんは常闇のダンジョンで使っているから説明が不要だ。一緒に壁から短転移で降りたレスティとメッシーナさんにも同じ袋を渡してある。怪我人がどれだけいるか分からないけど、手分けして治療にあたった方がいい。
その僅かな時に、オーガーが僕に向かって拳を振り下ろそうとしている。僕は眼前のオーガーに向かって腕を突き出す。
「ディメンションランス!」
5メートル先まで伸びた、不可視にして障害物無視のアイテムボックスは眼前のオーガーを含めて五匹のオーガーを貫通させている。
空間間移動で発生する空間消失現象によって四匹のオーガーは、手前から胸、右肩、首、頭に穴が空いた。胸と首、頭を消失した三匹のオーガーは即死。残り僅か一匹も致命傷に近い傷を負わせた。
痛みにもんどり打っているオーガーはそのままにして、次のディメンションランスを発動させて三匹のオーガーに風穴を開けた。
これで七匹。オーガーはまだまだ沢山いるが、群れている為に僕のディメンションランス一発で数体を倒す事が可能だ。
「ディメンションランス!」
撃てば当たる鴨打状態で僕は次々とオーガーを討伐していった。
◆◆◆
逃げ遅れた人達を挟んで反対側でも多くの血飛沫が舞っていた。勿論その血はオーガーの血だ。
アイシャさんの力を持ってすれば、B級モンスターのオーガーと言えども、風の前の塵と同じ。
アイシャさんは僕と同行した常闇のダンジョン六十階層で、ジャイアントゴブリンやジャイアントオークを倒しているし、なをなら五メートルを越える大柄なミノタウロスやサイクロプスともいい勝負をしていた。アイシャさんの前では、もはやオーガーは雑魚モンスターと言っていい。
アイシャさんの凄い所は、あの強さが覚醒の儀で授かった能力ではなく、修練を重ね、努力し、その結果が結実した姿である事だ。
アイシャさん曰く『騎士団長はもっと凄えよ』って事だけど、僕の様なチート能力しか使えない偽物の力とは違う、本物の力を持っているアイシャさんこそが、戦女神として崇められるべきだと僕は思う。
そしてオーガーの群れの後方では落雷の轟音が鳴り響いている。僕はエレナさんの
無数の稲妻が天から地上に降り注ぐ光景は、今にも雷神が降臨して来るかの様に見える。
それでもオーガーは僕達に向かって来る。戦鬼の異名は伊達じゃないって感じだ。
しかし、武器を持たないオーガーは僕とアイシャさんの脅威にはならない。西門に現れた百匹を越えるオーガーの群れは程なくして殲滅する事が出来た。
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