第69話 王都強襲1

「えっ!? オーガーの群れ!?」


 次の日のお昼前、僕の家に急報が届いた。その報を伝えにきた衛士の話しでは、王都を囲む壁の外、東西南北にある各門の外に百を越えるオーガーが突如として現れたとの事。


 門の外にいた人達の被害は酷い状況で、門を破られれば先日のゴブリン襲撃事件の被害を超える被害が予想されるとの事で、王太子殿下が至急お城に来て欲しいとの事だ。


 昨夜のメイドさんが言っていた『騒ぎ』とは、予想もしていなかったオーガーの群れの王都強襲だった。


 玄関口エントランスで伝令の衛士に王城に行く旨を伝えて、衛士には先に帰って貰う。


「行こう、アイシャさん!」


「当然だな」


 この機に乗じて伯爵は逃亡する。確かに王都にオーガーが襲ってきたとなれば、伯爵邸を包囲している騎士や衛士も、王都防衛に向かわなければならなくなる。


 しかし、オーガーが襲ってくる事を事前に伯爵が知っていたというのは不可解だ。


「私も行きます」


 レスティが着いて行くと言うと、メッシーナさん、エレナさんもコクリと頷く。


 僕は女の子四人を連れ、王城へと瞬間移動をした。



◆◆◆



 王城の会議室、長く大きなテーブルには、上座に国王陛下、向かって右手側に王太子殿下、第二王子のカーラーン殿下、そして僕、僕の隣にレスティ、アイシャさんが着席していて、向かって左手奥からは以前パーティーで挨拶したこの国の宰相でもあるハウゼン侯爵、宮廷魔術院長のベントレー伯爵、副騎士団長のエンデヴァー子爵、その隣には僕の知らない壮年の男性がいて、アイシャさんから小声で十翼剣将の一人、ダーイシュ子爵と教えられた。メッシーナさんとエレナさんは別室で待って貰っている。


「やってくれたよ」


 そうぼやいたのは王太子殿下。


「父上、これでコワッパーン伯爵は一連の事件に関係していると見て間違いないですね」


「うむ。そうなるだろうな」


 一連の事件とはゴブリン襲撃事件や国王一家毒殺未遂事件をさす。


「兄上、軍務大臣とオーガーの群れが関係しているのですか?」

 

 疑問を投げかけたのは第二王子のカーラーン殿下だ。この席に第三王子のノーラス殿下がいないのはまだ成人前だからかな?


「ああ、城を脱獄したコワッパーン伯爵は自分の館に逃げ込んだ事は知っているね」


「はい」


「伯爵は今日の日中に何らかの騒ぎに乗じて王都からの脱出計画を立てていた。私の見立てでは伯爵邸での戦闘だと思っていたのだが、まさかオーガーの強襲とは青天の霹靂だよ」


 そこで王太子殿下は手元のティーカップを手に取り、お茶を一口含ませた。


「つまり伯爵はオーガーの強襲が今日ある事を知って脱出計画を立てていた。いや、伯爵がオーガーの襲撃を画策した可能性さえある」


「殿下、コワッパーン伯爵があれ程の数のオーガーを引き寄せたと」


 言葉を重ねたのは宰相のハウゼン侯爵だ。


「ダーイシュ将軍、オーガーがどのようにして現れたのか皆に聞かせてやってくれ」


「はい、殿下。各四方の門からの報告は同一の報告で、門に並ぶ複数の馬車から突如として現れたとの事です」


 馬車からオーガー? オーガーの個体は大柄で2メートルから3メートルはあり、馬車に乗っていたとしても数匹がいいところだ。しかも、極めて凶暴なオーガーが数百体も大人しく馬車に乗って、王都近郊まで来るとは考えられない。


「ベントレー院長、例の卵の殻の分析報告をしてくれ」


 王太子殿下が言うと、宮廷魔術院長のベントレー伯爵がコクリと頷く。例の卵の殻と言うワードに僕らは首を傾げた。


「先日地下水道で多くの卵の殻が発見され、王太子殿下より魔術院にてその殻の分析を行いました。殻は比較的弾力が有り、蛇の殻と似たような成分で構成されていました。ただ、その殻の幾つかに体皮が付着しており、調べた結果ゴブリンの体皮である事が分かりました」


 あれ? ゴブリンって卵から生まれないよね?


「卵からコブリンだと!?」


 ハウゼン侯爵が声を上げたのは仕方ない事だ。卵からコブリンが産まれるなんて聞いた事がない。


「兄上、まさかオーガーも!?」


「ああ、オーガーも卵から孵化したとしたら、馬車の中から大量に出現してもおかしくない」


 まさかの魔物卵生化現象?


「しかし、それは魔物とはいえ自然の摂理にそぐわない。何らかの、しかもコワッパーン伯爵如きが手にする事が出来るレベルで、それは起きている」


 魔物を卵から産まれさせる方法か。僕はルルエル様から授かった魔法の叡智を検索する。


「……卵使いエッグマスター?」


 僕がそう呟いた言葉によって、テーブルに座る一同の視線が僕に集まった。

 

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