第68話 伯爵邸
コワッパーン伯爵邸周囲の包囲体制は深夜にも関わらず厳重に引かれ、物々しい雰囲気を漂わせている。
王太子殿下は僕との約束を取り交わした後に暫くしてゲート封鎖を解除した。その代わりにコワッパーン伯爵邸を包囲したみたいだ。
事ここに至っては王都の市民も王都で今なにが起きているか感づいていた。貴族家で働く市民もいる。そこで話しを聞いた使用人達により、コワッパーン伯爵脱獄の報は瞬く間に王都中に広まっていったとの事だ。
僕とアイシャさんは指定された暗い裏路地で待機していると、衛兵二人に連れられてメイド服を着た若い女性が現れた。
「お、お待たせ致しました」
メイドさんは恐縮げに頭を下げた。
「大丈夫ですよ。それよりこんな夜中にお屋敷を抜け出してきて危なくないんですか?」
伯爵邸の周りは武装した騎士や衛士で囲まれている。伯爵側も私兵を塀沿いに配置しているのは僕の索敵魔法で確認済みだ。そんな中を抜け出すのは危険だし、こんな夜中だ、怪しさ丸だしで捕まったら一発で殺されかねない。
「はい。隠し通路を使いましたので」
「隠し通路ですか?」
「アルスタ、貴族の家には大概外に逃げ出す隠し通路があるんだよ」
僕の疑問にアイシャさんが答えてくれた。実家のファーラング伯爵家にも合ったのだろうか? 母屋の事はあまり分からないんだよね。
「聖人様、こちらの品に座標アンカーの魔法をお願いできますか?」
メイドさんが手に持っていたのはめちゃめちゃ高そうなペンダントだった。
「はい、大丈夫ですけど、これは?」
「このペンダントは伯爵の御祖母の形見になります。伯爵はこれを大事にしていましたので、逃げ出す荷物の中に入れておいても、捨てたりはしない品物です」
僕はそのペンダントを受け取り、座標アンカーのマーキングをしてメイドさんに返した。
更にメイドさんから聞いた情報によると、伯爵は明日の日中、騒ぎに乗じて地下水道から王都を脱出するとの事で、この事は王太子殿下直下の者しか知らない情報との事だった。
「アイシャさん、どう思う?」
「そうだな、コワッパーン伯爵は領地を持たない中央貴族だ。その伯爵が王都を出るってんなら、外に伝手が有るって事じゃないのか?」
「騒ぎってなんだろう?」
伯爵は騒ぎに乗じて逃げるって事だ。その騒ぎとは?
「分からんけど、伯爵の私兵が突貫するとかじゃないのか?」
伯爵邸の私兵は二十人程度。乱闘になったとしても、伯爵邸を包囲している騎士や衛兵の数はその倍はいる。であれば僕の出番など必要なく、直に鎮圧されるだろう。
その時はなるほどと僕も納得した。しかし、翌日にまさかあんな騒ぎが待っていようとは、その時の僕は考えてもいなかった。
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