第66話 ドンと来い!

激寒げきさむだったな」


「はい、早く帰ってお風呂に入りたいですね」


 僕とアイシャさんは常闇のダンジョン七十階層を攻略している。今日は七十四階まで行って座標アンカーの魔法でマーキングして地上に戻ってきたところだ。

 

 流石にこのレベルになるとエレナさんは自衛が出来ないから、連れてきてはいない。アイシャさんにしてもヤバい魔物には手を出さないようお願いしてある。 


 空を見れば東の空が少し暗くなっている。急いで帰らないと夕飯に遅刻してしまう。


「しかし、アルスタも雪女相手は流石にヤバかったな」


「以前も雪女はヤバかったですよ。しかし今回は更にヤバかったです」


「全く、女の裸ぐらいでオタオタしやがって、情けないヤツだ。アルスタはOっぱいを見た事はないのか?」


「ありませんよッ!」


 僕は十三歳だからねッ!


 今回出てきた雪女は上半身がほぼ全裸でOっぱいの先っぽに白い和服が引っ掛っている出で立ちだった。


「仕方ねえなァ、帰ったら一緒に風呂に入るか。免疫付けとかねえとラミアとかハーピーとか出てきたら、足をすくわれるぞ」


「な、なに冗談言ってるんですか!?」


「ん? なにが冗談なんだ?」


『おや?』みたいな顔をするアイシャさん。


「だ、駄目ですよ。何か間違いがあったらヤバいですよ!」


 何しろアイシャさんのメロンは凶器で鈍器でプルンプルンだ!


「間違い? 大丈夫だ、そん時はドンと来いッ!」


「ドンと来いじゃ無いですよ! なに言っちゃてるんですか!」


「……アルスタ、言動と顔付きが真逆になってるぞ? お前の目付きがギンギンに輝いてるんだが?」


 えっ、ウソ、ヤダ、僕、そんな顔してます? 戻らなくなったらどうしよう。



◆◆◆



 ダルタニアス王朝の古い遺跡にある常闇のダンジョン入口から瞬間移動の魔法で王都を囲む壁の上に移動した。狭い壁上の通路に衛士の姿は見えない。少し離れた見張り塔の中にはいるんだろうけど、平時の為か外には出てきていない。


 今日はアイシャさんの新調した盾を武具屋に取りにいく都合で、僕の新居ではなく、一旦壁の上のアンカーポイントに跳んできた。


「なんだろうな?」


 アイシャさんが壁から田畑が広がる側の壁下を覗き見して呟いた。僕もそちらを見て見れば門の前に大行列ができている。


 以前のゴブリン襲撃事件の時の行列に並んだ事が脳裏に浮かぶ。しかし、逆側の王都内は平穏で、復興に向けて働く人達の姿が見えた。


「どういう事ですかね?」


「まあ、何かがあったのは確実だな」


 二人して外側を覗きこんで観察していた。一人も門の中には入っていない。どうやら完全に門を封鎖しているようだ。


「聖人様ッ!」


 狭い壁の上の通路を見張り塔から出てきた衛士が走ってこちらに来ている。ここの衛士とは何度かこの場所で会った事があり、既に顔見知りだ。


「慌ててどうしました?」


 衛士はアイシャさんを見て一礼する。遠くからアイシャさんの事を確認していたのか、この場にアイシャさんがいる事に動じた素振りはない感じだ。


「殿下より聖人様を見かけたら直に王城にお越し頂くようにと申し付かっております」


 僕とアイシャさんが顔を見合わせた。殿下とは王太子殿下の事で間違いないだろう。


「少し聞くが、門が封鎖されているようだが、あれはどういう事だ?」


 アイシャさんが僕も知りたかった事を聞いてくれた。


「こちらには、殿下からの指示が有るまで閉門しておくようにとおおせつかっています」


「アルスタ、武具屋はまた今度だな」


「そうですね。では王城に跳びましょう」


 武具屋にはアイシャさんの盾以外にも僕がお願いして作って貰っている武器がある。多分一つはそう難しい物ではないから完成している筈だ。


 しかし王太子殿下からの呼び出しとあれば、何か王都で問題が起きているのだろう。僕はアイシャさんを連れて、王城と中庭へと瞬間移動をした。

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