第64話 三億の黒い悪魔?

「聖人様、お部屋のお片付けはこれで宜しいでしょうか」


 僕の数少ない荷物を整理し終わったヨハンさん。ヨハンさんはワーグナー伯爵家の次男との事。


「はい、ありがとうございますヨハンさん」


「何かございましたら何なりと申し付け下さい」


「はい、今は大丈夫です。ところでですが、ヨハンさんは何で僕の所に来たのですか?」


 伯爵家の次男が何故僕の従僕になったのか疑問に思い聞いてみた。普通、伯爵家の次男であれば跡継ぎの長男に何かあった時の為に近くに置いておく。


「それは、わたしが伯爵家の次男なのに、という事でしょうか?」


「はい。ワーグナー伯爵様にはお世話になったので、ヨハンさんが来てくれたのは大変嬉しいんですけど、何でかなと思いまして」


「父の事を伯爵様と呼ぶのはご遠慮下さい。アルスタ様の方がご身分が上なので」


 苦笑いのヨハンさんにそう言われて確かにと思ったけど、未だに僕が公爵位なのは慣れていないから仕方ない。


「気をつけます」


「ありがとうございます。わたしがアルスタ様の下へ来たのは、三男がわたしより優秀だったとからです。残念な事にわたしは覚醒の儀で能力を授かる事が出来なかったのですが、弟は土の恵みの能力を授かったのです」


 土の恵みの能力は、田畑の土に活力を注ぐ土魔法だ。土属性魔法は領地経営をする貴族には評価の高い魔法である。


 そしてヨハンさんは苦笑いしながら言った。


「その結果、無能な伯爵次男は家を追い出された訳ですよ」


 あれ? なにかどこかで聞いた話しだね? って僕の事じゃん!


「なら、僕と一緒ですね。僕も無能者と言われて追放されたんですよ」


 まあ、ヨハンさんは家を追い出されたと言っているけど、ワーグナー卿が僕の家で人材を探している事を聞き付けて、ヨハンさんに紹介したって話は、昨夜メッシーナさんから聞いている。良いお父さんだ。どこのかのクソオヤジはガチで追放したからねッ!


 でもヨハンさんとは無能伯爵子息同士で一緒にやって行けそうだ。



◆◆◆



「キャアアアアアアアアッ!」


 館に響く美少女の叫び声。何故美少女と分かるのかって? 叫び声がレスティの声だから美少女で間違いない。


「瞬間移動! 『レスティの部屋』」


 僕はレスティの部屋に瞬間移動をする。最近は物騒なので、レスティや他の女の子達の部屋には既に座標アンカーの魔法で目印を付けてある。


「ア、アルスタ様ぁぁぁぁぁぁ!」


「レスティ、大丈夫!?」


 女性の部屋に突然 おもむくのは失礼かもだけど、今は緊急事態だから仕方ない。


「で、で、で、出たんですぅぅぅ」


 また魔物か!? 先日は王城に鬼梟オーガーアウルが強襲したぐらいだ。王女であるレスティが狙われる可能性は否定できない。


「何が出たんですか!?」


 レスティの部屋の中に魔物の気配はない。すかさず索敵魔法を使ってみたが、矢張り魔物の姿は見当たらない。


「ゴ、ゴ、ゴ、ゴキ◯リが……」


「◯キブリ?」


「はい。私の浄化魔法をもってしても浄化出来ませんでしたぁぁぁ」


 いや、ゴキブ◯は不浄かもしれないけど、アンデットじゃないから浄化魔法で昇天したりはしないよ?


「アルスタ様の魔法で滅殺して下さい! それでも駄目ならエレナ先輩の迅雷風烈テンペストで薙ぎ払いましょうッ!!」


 ガチで進言するレスティ。


 迅雷風烈テンペストは駄目だよね?


 おうちも吹き飛んじゃうよね?


「……大丈夫だよ。僕の魔法で消失させるから」


 コクコクと頷くレスティ。


「索敵」


 昆虫レベルに合わせて部屋の中を索敵する。


「ん? 三匹いるかな?」


 ゴ◯キブリは、一匹と思いきや箪笥の裏に三匹がかたまっているみたいだ。


「さ、さ、三匹!? ゴキ◯リは三匹見たら三億はいると思えってお話しです! 私、やっぱりエレナ先輩を呼んで来ますッ!!」


 真っ青な顔で慌てふためくレスティを僕は押し止める。引っ越しの日に家が倒壊するとか洒落にならない。


 って言うか、三億もゴキ◯リがいたらこの国は滅亡してるよね? 精神的にも。

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