第62話 お花畑

「綺麗……」


「なんか夢みたい……」


「極楽浄土かよ」


 巨大な湖の五十二階は、アイシャさん、エレナさんもディメンションルームに入って貰い、短転移魔法の連続使用でクリアーした。


 そして対岸に着いたので、全員にディメンションルームから出てきて貰った。五十三階に広がるのは七色の花の絨毯。女の子達が感嘆の声を漏らす。


「なあロッシ、ここに咲いている花って……」


「あ、ああ、全部高級薬草の類いだな……」


 バーンさんとロッシさんは冒険者らしい言葉を零す。


「バーンさん、薬草って、この花がですか?」


 冒険者として駆け出しの僕にはそういった知識は持ち合わせてはいない。女の子達と同じ様に、綺麗な場所程度にしか考えていなかった。


「ああ、このプリオネアの花一輪で大銀貨一枚の価値はあるな」


 バーンさんが摘んだ紫色の花。その花はざっと見ただけでも百輪以上は咲いている。一般市民の日当が銀貨二、三枚と聞いている。大銀貨一枚なら日当四、五日分って事だ。百輪摘めば一年遊んで暮らせるって事になる。


「なあ、アル……聖人様。この辺はどんな魔物が出るんだ?」


 ロッシさんはおっかな吃驚と辺りを見渡している。


「この辺は蝶や蜂の魔物が多いですけど、手を出さなければ襲ってきませんよ」


 色取り取りの花の周りを一見すると普通の蝶や蜂が飛んでいる様に見えるが、あれは昆虫系の魔物だ。でも襲って来る気配はない。


「じゃあ、アイツらにちょっかいを出さなきゃ薬草は取り放題って事だな! こりゃ労せずして大金ゲットだぜ!」


 ロッシさんが早速花や草を摘み始める。


「ロッシ、一応警戒はしとけよ」


 バーンさんはそう言いながらも、ニヤケ顔で花を摘み始めた。


「もう、男の人ってこんなに綺麗な景色を見ても、なんとも思わないのかしら」


「ホント、目が$になってお花摘みとか最低ッ!」


 そう言ってミリーナさんとエレナさんも花を摘み始めるが、その面持ちは二人の$顔男性とは異なり、花々を愛でる様に一輪一輪を大切に摘んでいた。


 結果、男性陣はガッツリ花を摘んでは僕のアイテムボックスに収納し、女性陣はブーケや花の冠を作って楽しんでいた。


 男勝りのアイシャさんの女の子っぽい一面を見れたのは貴重な体験かもしれない。


 温かい日差しが差す五十階層。ぼ〜っとしていたら眠くなってきた。そういえば四十階層から寝ていなかった。お花畑を吹き抜ける穏やかな風に吹く中で僕は目を閉じた。



◆◆◆


「オワッ!!」


 昼寝から目を覚ますと、僕の隣には巨大なメロン……いや、アイシャさんが横になってお昼寝をしていた。


 半身を起こして辺りを見渡せば、バーンさんとロッシさんは花の種類毎に積み分けた花の山を作っていた。僕のアイテムボックスに収納して持って帰る気満々だ。


 女性陣を見れば、エレナさんがミリーナさんに花のブーケや花飾りの作り方を教わりながら、楽しそうにしていた。


 結果、五十三階には半日ほど滞在し、僕達は地上に帰る事になった。この先の五十四階の渓谷エリアは好戦的な猿系魔物が出て危険度が上がるし、ましてや山越えなどをすれば、グリフォンなどのヤバい魔物が出てくる。


 帰りは全員がディメンションルームに入って貰い、座標アンカーを利用した瞬間移動の魔法で帰る。行きは四日かかったが、帰りはものの十分程度で地上に帰還出来た。瞬間移動の魔法は便利すぎる。


 常闇のダンジョンの入口に出て見れば、辺りは夜の闇に包まれていた。五十階層のオープンフィールドには夜が無いため、時間的感覚が大分ずれてしまう。


「マジに地上だよ!」


「……流石は聖人様だな」


「瞬間移動、興味深いわ!」


 短時間で地上に戻れた事で皆さん驚いている。とりあえず、お酒が集まる迄の間に階層攻略しておけば百階層に行くのが楽になりそうだな。

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