第60話 やって来ました50階層

「凄えな、五十階層!」


「……信じらんないわ。地下迷宮に緑が広がっているなんて」


 五十階に降りた僕達。目の前に広がる緑の草原と青い空に白い雲。謎迷宮の謎空間。あの青い空の向こうには何があるのか?


「あの、無闇に歩かないで下さいね。草原の中に昆虫系の魔物が潜んでいたり、葉っぱに擬態した魔物がいたり、なんなら葉っぱが魔物だったりするので」


 僕の言葉でストライクラビットの面々の顔が青くなる。


「……綺麗な場所でも、ここは凶悪な常闇のダンジョンの中って事ね」


 エレナさんの言葉にバーンさんがコクリと頷く。


「でも俺達が五十階に来れるなんて思っも見なかったな」


「ああ、こりゃいい酒のネタになるぜ。なにせアルスタを除けば、俺達が世界で初めてこの光景を見た事になるからな。五十階層がこんな場所だなんて、誰が想像できるよ」


 バーンさんとロッシさんは草原の奥に見える森や山々を見て感慨にふけっていた。


「んじゃアルスタ、行くぞ」


 感慨にふけっていない人もいた。アイシャさんは右手に抜き身の剣を持ち、草原の中に足を踏み入れる。


 先ほどの戦闘で壊れた盾は、使い物になるレベルでは無かったので、僕のアイテムボックスにしまい込んである。


 僕の索敵魔法は小さな昆虫系魔物や植物系魔物を沢山確認している。草叢くさむらに一歩踏み込めば、あっと言う間に魔物達の餌食になりそうだ。


 しかしアイシャさんは軽く剣を振りながら、そのことごとくを一掃していく。見た目にも小さな虫の魔物や、葉っぱにしか見えない擬態化した虫の魔物も逃す事はない。


 アイシャさんは僕みたいな索敵魔法は使えない。しかし、見てから斬りかかっている様な反応速度じゃない。そこに魔物が潜んでいるのが分かっている、だから斬る。そんな感じだ。


「ア、アイシャさん、虫の魔物の場所が分かるんですか?」


 剣を振り回しながら、振り向くアイシャさん。剣から目を放しても、的確に魔物を斬り裂いている。


「ん? 分かるだろ?」


「分からないよッ!」


 アイシャさんは『おや?』みたいな顔をしている。駄目だ、アイシャさんとは次元が違いすぎる。


 あッ!!


 僕の索敵範囲に超高速で飛んでくる小型の昆虫系の魔物がいる。瞬きの間にそいつは僕達の前に到達している。


 それをアイシャさんが神速の剣で真っ二つに斬り裂いた。


 ズバァァァァァァァァァン!!


 音を斬り裂いた様な轟音と共に、割れた二つの欠片が僕達の両脇をV字状になって高速で飛んでいく。


「……い、今のは?」


 バーンさんが青い顔で呆然としている。


弾丸甲虫バレットビートルです。五十階で一番ヤバい魔物ですね」


 高速で飛んでくる弾丸甲虫。頭や急所に当たれば一撃で即死する。そんなヤバい魔物を斬り裂いても平常運転のアイシャさんは、また一歩、また一歩と草原を歩いていく。


「な、なあ、俺達って場違いじゃね?」


 ロッシさんも青い顔で草原を眺めている。でも、せっかくここまで来たのだから、五十三階の風光明媚なエリアに連れていきたい。


 五十三階は五十二階の湖エリアに流れる落ちる綺麗な川と、色取り取りに咲く花々のエリアだ。蝶や蜂の魔物も多いが、あそこの魔物は不思議と好戦的ではない。


 悩んでいたストライクラビットの面々にその話しをすると、安全ならばと言う事で同行する事になった。とは言え道中は僕のディメンションルームの中で待機だけどね。



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