第59話 地下49階フロアボス戦 2 【ロッシside】

【ロッシ視点】


 おかしいだろ?


 アルスタ……いや、聖人様とオーガーキングとの戦闘があっけなく終わった。


 オーガーキングだぞ!?


 一都市を一匹で壊滅させられる、超災厄クラスの魔物だぞ!?


 それが一瞬で倒された?


 しかも倒した本人はこちらを見ると残念そうな顔をした。俺には全く理解できない。


 一緒に見ているバーンも呆気に取られた顔をしている。まあ、そうだわな。


 前人未到の常闇のダンジョン踏破者の実力は人外と言っていいレベルだった。絶対に戦ってはいけない人だ。


 一方のアイシャ様はオーガージェネラル相手に奮戦している。オーガージェネラルにしたって災厄クラスの魔物。普通は絶対に一人では戦はない化け物だ。


 それを臆する事なく戦っているアイシャ様が凄すぎる。流石は王国騎士団の十翼剣士に名を連ねる人だ。あれ、騎士団は辞めたんだっけか?


 アイシャ様はオーガージェネラルの金棒を直接受ける様な事はせず、盾を使って受け流し、その隙をついて太い腿を集中的に剣で切り裂いている。


 四メートルある巨体のオーガージェネラルに対して、アイシャ様は女性では高身長だがオーガージェネラルとの身長差は倍以上ある。


 無理に剣を突き出して胴体や頭を狙う様な攻撃はしない。体が伸びてしまっては回避行動が取れなくなる。一撃が致命傷になるオーガージェネラルの攻撃を貰う訳にはいかない。


 オーガージェネラルが大きく金棒を振り上げる。その間にアイシャ様の素早い剣が太腿を乱撃する。


 血みどろになる脚を気にも止めずに、高みから振り下ろされる巨大な金棒。


 それを右に交わし、上体が下がったオーガージェネラルの頭を狙い、アイシャ様は剣を突き出す。上手い!


 その剣が頬を切り裂く。致命傷には程遠いが、オーガージェネラルが顔を歪め、そして怒りの形相になり、凶悪な牙を剥き出しにして吠えた。


 威圧を纏わせた咆哮がフロアー内に響き渡る。エレナあたりは小便チビッてんじゃねえのか?


 アイシャ様もその威圧に一瞬だけ動きが鈍る。轟音を上げて振り下ろされる巨大な金棒。躱す間もなく盾で受け止めるアイシャ様。


 新調したと言っていた赤い盾は、その一撃で大きく凹み、更には破壊された。アイシャ様はそれと同時に盾を手放し後方ヘ飛び跳ねる。


 主人を失った赤い盾の破片は、硬い床に跳ねて舞う。


 床を叩き付けたオーガージェネラルの姿勢はまたしても低く、うなじを見せている。


紫閃投剣バイオレットキャストッ!」


 アイシャ様の腰ベルトから抜かれた投げナイフ。オーガージェネラルのうなじ目掛けて飛ぶナイフは、青紫に光る魔力を帯びている。あれが噂に聞いたアイシャ様の投擲スキル、バイオレットキャストか!?


硬い外皮を持つオーガージェネラルに普通の投げナイフじゃ確実に弾かれるが、魔力を帯びたナイフが項に刺さる。


 丸太の様な首に刺さったナイフは致命傷にはなっていない。しかしその痛撃に悲鳴を上げるオーガージェネラル。そして持ち上がった上体、無防備な頭部に向かって青紫の魔力を帯びた二本のナイフが飛ぶ。


 オーガージェネラルは、その二本のナイフを慌てて両手で払いのけ様とするが、ナイフは生き物の様に太い腕を掻い潜り、オーガージェネラルの両目に刺さる。


 投撃必中かよッ!


 両目に刺さったナイフを抜き、投げ捨てるオーガージェネラル。そして巨大な金棒をまるで竜巻でも起こすかの様に乱暴に振り回し始めた。


 しかしそんな雑な攻撃があのアイシャ様に当たる筈がない。それでいてアイシャ様は用心深く両目が見えないオーガージェネラルを観察している。


 オーガージェネラルが巨大な金棒を床に叩き付けた瞬間、アイシャ様は紫電の様な速度で駆け寄り、金棒に脚をかけると、大きく跳ね上がる。


 アイシャ様の渾身の突きが、赤い血を流している左目に深々と突き刺さる。眼窩に剣を引っ掛け、剣から手を放したアイシャ様は更に空中へと飛び上がった。


「どりゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 気合い一声。アイシャ様は空中から刺した剣の柄頭に飛び蹴りを食らわし、眼窩に刺さる剣を更に深々と押し込んだ。そして、オーガージェネラルの後頭部から剣先が姿を表す。


 剣が脳髄を貫通すれば、災厄クラスのオーガージェネラルといえども生きてはいまい。


 アイシャ様は空中から床に着地する。その時、アイシャ様最大の凶器である胸元を守る赤いブレストアーマーがたっぷんと大きく揺れた。そして一度の揺れでは収まらない胸部装甲がプルンプルンと揺れている。


 俺もバーンも勿論ガン見だッ!!


 聖人様も赤い顔でアイシャ様の凶器をガン見していた。


 安心したぜ。聖人様も普通の男の子と変わらないんだな。

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