第58話 地下49階フロアボス戦 1

 四十階が終わり、四十一階に降りる階段前で、アイシャさんを含めた皆さんに、ディメンションルームへと入って貰った。僕一人の方が進むのが早いからね。


 短転移の魔法と索敵魔法を駆使して、オーガーとの無駄な戦闘は避けて、サクサクと進む。


 三十階層はストライクラビットのメンバーに合わせていたから丸々二日かかったけど、腹時計的には夕食前ぐらいだろうか、僕は一日かかる事なく四十九階のボス部屋前にたどり着いた。


 ここもサクッと終わらせたいところなんだけど――。


「ディメンションルーム」


 ボス部屋の扉前にある少し広いスペースに、ディメンションルームの扉を出して、扉を開ける。


「はい、皆さん着きましたよ」


 怖い物見たさなのか、皆さん四十九階のボス戦を見たいらしい。僕の魔法は派手じゃないから見ててもつまらないと思うんだけど。


「もう着いたのか。流石だなアルスタ」


 僕の手を取り、アイシャさんが最初に出てくる。続いてエレナさん、ミリーナさん、バーンさんときて、最後にロッシさんが欠伸あくびをしながら出てきた。


「ディメンションルームってマジ凄えな。最悪の常闇のダンジョンにいるって事を忘れて寝ちまったよ」


 見ればバーンさんも寝癖が付いている。ディメンションルームの中でリラックス出来ていたようだ。


「では扉を開けますが、中に入ったら皆さんは扉の前からは動かないで下さいね」


 アイシャさん以外は首を縦にウンウンと頷いている。


「なあアルスタ」


 不敵な笑みを浮かべているアイシャさん。


「あたしに一匹回してくれないか。もう三日も体を動かしてないんだ。体が生っちまうぜ」


「多分相手はオーガーキングとオーガージェネラルですよ」


「ああ、オーガージェネラル一体とのタイマンなら何とかなる」


 その言葉を聞いてバーンさんとロッシさんが『マジか!?』って感じの驚いた顔でアイシャさんを見ていた。


 オーガージェネラルは格で言えばオークキングと肩を並べる災厄クラスのモンスターらしい。


 まあ、アイシャさんがそう言っているんなら大丈夫なんだろう。


「分かりました。開けます」


 僕はアイシャさんにコクリと頷き四十九階ボス部屋の扉を開けた。


 全員が中に入ると勝手に扉が閉まる。青白く光る石壁に囲まれた部屋は三十九階のボス部屋よりも少し広い。


 部屋の中央には普通のオーガーよりも一回り大きい四メートル級の上位種のオーガーが三体。以前と同じくオーガーキングが一体に、オーガージェネラルが二体だった。


「右のジェネラルは任せます」


「あい分かったッ! 任されたッ!」


 僕はそう言って左側のオーガージェネラルに向かって走る。オーガージェネラルも巨大な金棒を振り回して殺る気満々だ。あの金棒に掠りでもしたら、僕の体は砕け散るに違いない。


 隣では「オラァァァァァァッ!」と、アイシャさんがジェネラルに真っ向勝負を挑んでいるが、当然の事ながら僕には真似できない芸当だ。


 地味な技しか使えない僕は地味に戦う。


「あそこだな」


 短転移の移動ポイントを決める。


「短転移」


 僕に向かって近付いてきていたオーガージェネラルの頭脇辺りに短転移で瞬間移動する。


「ディメンションランス!」


 オーガージェネラルの頭、更にはその直線上の後方にいるオーガーキングの喉元に、不可視のアイテムボックスを長く伸ばす。


 アイテムボックスがこちらの空間から、異空間に移動する際に発生する空間消失現象に巻き込まれたオーガージェネラルの頭と、オーガーキングの首元にぽっかりと四角い穴が空く。


 オーガージェネラルは即死確定だが、オーガーキングはそれでも巨大なハルバードを振り上げようとしていた。


「短転移」


 僕はオーガーキングの後方、頭の後ろに瞬間移動する。


「ディメンションブレイカー!」


 トドメの一撃。突き出した拳の先に作り出したアイテムボックスを空間間移動をさせて、オーガーキングの頭を消失させて、僕の方の戦闘は片付いた。


 床に着地する僕。戦闘を見ていたストライクラビットの面々からは拍手の一つもなく、見ればなんかドッ白けな顔をしていた。


 ……すみません。地味な戦闘で……。


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