第55話 地下39階フロアボス戦 2
「エレナさん、オークメイジの魔法が来ます!」
ミリーナさんが、オークメイジの魔法からエレナさんを防御する為に右手をかざした。エレナさんの詠唱はまだ終わっていない。
オークメイジから放たれたのは火の玉ファイヤーボルトだ。エレナさんに向かって火の粉を散らしながら炎の塊りが飛んでくる。
「ディスペルシールド!」
ミリーナさんが魔法の盾をエレナさんの前に展開した。ファイヤーボルトは盾に当たると火の粉になって拡散する。魔法を散らす盾か?
「ミリーナさん、行けます!」
エレナさんの詠唱が終わり、ミリーナさんが魔法の盾を解除する。
「ライトニングスマッシャー!」
エレナさんが放つ雷撃魔法。眩しいプラズマの光を纏った雷光の帯がオークメイジに直撃する。高圧電流に撃たれたオークメイジの体皮は燃え、プスプスと黒い煙を上げているが、まだ死んではいないようだ。
すかさずミリーナさんが腰に下げていた
「次は
エレナさんはライトニングスマッシャーよりも強力な魔法を使うようだ。雷系魔法は派手でカッコいいな。僕の魔法は不可視で無音。全くもって派手さの欠片もない。
「スローフィート!」
ミリーナさんが一体のオークジェネラルに鈍足のデバフをかける。元々俊敏さに欠けるオークジェネラルの動きがより遅くなる。
「チェーンバインド!」
更に拘束の魔法でオークジェネラルの動きを鈍らせた。
その間に残りのオークソルジャーを倒したバーンさんとロッシさんは、もう一方のオークジェネラルへと斬りかかる。
オークジェネラルの持つグレートソードが唸りをあげて二人に襲いかかるが、それを交わして左と右に分かれて斬りかかる。二人の見事な連携で、オークジェネラルは的を絞れず、苛立ちの顔でグレートソードを振り回していた。
◆◆◆
「アイシャさん、オークキングが動きませんね」
「ああ、アイツは横着だからな。部下が倒してくれるのを待ってんだろ?」
横着かよ! そういえば僕が地上に上がる時もオークキングは無防備で踏ん反り返ってたな。短転移で接近して瞬殺したけど。
今の状況も僕が動けばオークキングは瞬殺出来ると思うけど、奮戦しているストライクラビットの人達に水を差す様な事はしたくない。
「エレナはあたしが見込んだ通りにかなり優秀だな」
あのアイシャさんが人を褒めている。こと戦闘に於いては冗談は言わない人だ。
「やっぱり
「ああ。ただでさえ攻撃力の高い雷撃魔法だ。その中でもトールハンマーは上級中の上級魔法。更にエレナはテンペストも持っている。そんなエレナをセクハラして追い出すとか、魔術院はクソだな」
「矢張りテンペストは使わないんですかね?」
「使わないな。あれは広域雷撃魔法だ。こんな狭い場所で使ったら、術者以外は皆んなおっちんじまうよ」
矢張りテンペストを見るのは次の機会になりそうだ。
おっ、エレナさんの詠唱もそろそろ終わりそうだ。トールハンマーがどんな派手な魔法なのか楽しみでしょうがない。
◆◆◆
「皆んな、一旦引いてッ!」
魔法の準備が整ったエレナさんは前衛二人に後退の指示を出す。
「スローフィート!」
ミレーナさんがバーンさん達が戦っていたオークジェネラルに鈍足のデバフをかけた。動きが緩慢になったオークジェネラルの隙を見てバーンさんとロッシさんが、五メートルほど後方に下がる。
「行きます!
十メートルはある天井から幾重もの雷光が、オークキングとニ体のオークジェネラルに降り注ぐ。ライトニングスマッシャーの雷光が連発して降り注ぐみたいな感じで、ボス部屋の中央は眩しい光と轟音、そして爆煙の飽和状態になっていた。
「やったか!?」
とはロッシさん。はい、アウト! 異世界日本の知識によれば、「やったか!?」の八割はやれてないとの事だ。
そして、魔法を放ったエレナさんも、やれてない感触があるっぽい。
「バーンさん、ロッシさん、魔法がそろそろ終わります。間髪入れずに追撃してください!」
バーンさんとロッシさんはコクリと頷くと、剣を構えて魔法が終わるのを待つ。落雷と轟音が静まった瞬間に立ち込める煙の中に二人が飛び込む。
僕は索敵魔法を使い煙の中の戦況を確認する。煙の中のオークキングとオークジェネラルニ体は未だに健在だ。
二人は右側のオークジェネラルを狙った動きをしている。ビジュアル的な確認は出来ないけど、暫くした後にオークジェネラル一体が索敵から消えた。
横を見ればエレナさんが次の魔法の詠唱を始めていた。
「動いたな」
アイシャさんが立ち込める煙を見ながら呟く。
索敵魔法で中を確認してみれば、不動のスタンスを取っていたオークキングが、左側のオークジェネラルと戦っているバーンさん、ロッシさんに向かってゆっくりと歩き始めていた。
立ち込めていた煙が突然、突風で吹き飛び、煙の中からバーンさんが飛ばされてきた。石畳をバウンドしながら転がるバーンさん。
中央には三メートル近くあるオークキングが巨大な戦斧を振り回し、全ての煙を霧散させている。
慌ててミリーナさんがバーンさんに駆け寄ると――。
「ハイヒール」
傷付いたバーンさんの治癒を始めた。
煙が晴れた中央では、ロッシさん一人で、オークキングとオークジェネラルを相手にしている。
オークキングが振るう巨大な戦斧を紙一重で交わすロッシさん。そこにオークジェネラルのグレートソードが真上から振り下ろされてくる。石畳を蹴ってバク転で躱すあたりは、身軽なスカウトならではの戦い方だ。
しかしオークキングとオークジェネラルの二体が相手では、ロッシさんには荷が勝ち過ぎている。流石にここは参戦か? いや、エレナさんの詠唱が終わっている。
「ロッシさん、下がって!」
「お、おう、助かる」
ロッシさんが後方に大きく跳躍する。
「ウインドバースト!」
エレナさんが使った風魔法が、ニ体のオークを巻き込む竜巻となり、雷撃魔法で焼かれた外皮が剥がされ、血肉が吹き出し、竜巻が赤く染まっていく。
竜巻が収まるとオークジェネラルが大の字に倒れていた。
「ちっ、キングは未だに健在かよ」
体の至る所から血を流し、顔の半分の皮は裂け血みどろのオークキング。しかしその戦意は衰えず、鬼神の如きオーラが見える。
ミリーナさんの回復魔法を受けたバーンさんが立ち上がる。
「
名は体を表すとはこの事か? 正眼に剣を構えたバーンさんの剣が赤い炎を纏った。
「ほう、ソードスキルか」
「ソードスキル? 何ですか、それは?」
「覚醒の儀で授かる能力だ。騎士団でも使える者は少ない稀有な能力だ」
ソードスキル、カッケぇ!
「皆んなッ! ここが勝負どころだッ!!」
「「「オウッ!!」」」
バーンさんの掛け声でメンバー全員の顔つきが変わる。戦いは最終局面へと突入した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます