シオン殿下の事件簿 1 【シオンside】

【シオン王子視点】


 自室の窓から下を見下ろすと、城の門へと続く石畳の上を、メッシーナと共に歩くアルスタ君の姿が見えた。


 アルスタ君か。レスティも面白い少年を連れてきてくれた。彼のお陰で私や父上、母上の命が救われた。


 解毒薬の正体が、常闇のダンジョンの最下層に棲む三ツ首のドラゴンの血だと聞かされた時は、まさかと思いもしたけど、ならばあの薬が何なら納得したかと言えば、思い当たる節はどこにもない。


 そして私の下にもたらされた彼の情報が、あれがドラゴンの血である事を信じさせるに足る内容であったし、私自身が彼の力を目にしているのだから、レスティが彼を聖人様と呼ぶのであれば、私も彼を聖人様と呼ぶ事に躊躇いはない。


「しかし……我らに毒を盛ったのは、やはり伯父上か……」


 今、我が国では次々と問題が発生している。


 数年前から魔の森の魔物が北の村々を襲い始め、そして騎士団の半数がその対応で王都を離れていた。そして軍務省から下された騎士団長の派遣。


 騎士団長のソラン伯爵は国王派の重鎮だ。軍務派が国王派の力をぐ一手であった事は間違いない。


 王都に現れたゴブリンの群れ。地下水道から現れたと報告を受けているが、未だに謎が多い事件だ。あれ程の数のゴブリンが王都近郊にいる筈はない。何者かによって先導された可能性が高い。


 そして、国王一家を狙った毒殺事件。レスティとアルスタ君のお陰で未遂に終わり、実行犯とみられる女中の自殺体が見つかっている。


 しかし、女中如きが呪毒などという毒を手に入れる事は不可能だ。騎士団がさらなる犯人探しをしているが……、その指揮を取っているのがあのザコイールだ。


 副騎士団長のエンデヴァーの話しでは、ザコイールはやる気に満ちた目で――。


『吾輩の義父上と義母上に毒を盛った犯人は、不肖の息子である吾輩が、誇りと名誉にかけて探し出して見せましょうぞ!』


 と言って指揮者を名乗り出たそうだ。


 自他ともに認める不肖な男を弟に持った覚えは全くない。そして、ザコイールでは進展は望めないだろうな。


 呪毒を取り扱える闇の組織。


 王国内で最も有名な闇組織はブラックキャンドルだが、もしザコイールがブラックキャンドルに目を付けているとしたら、彼の生涯を賭したとしても、その尻尾の影さえも探し出す事は不可能だろう。


 ブラックキャンドルの闇に潜む技術は、騎士団が舌を巻くほどに優れている。


 仮に他の闇組織にしたとしても、彼の能力の低さでは期待する事は出来ない。


 そして進展が望めない理由がもう一つある。副騎士団長が無能なザコイールを選任した事だ。ザコイール本人が立候補したとしても、事は王家の暗殺事件だ。その様な重大な事件に無能な者を責任者にするほど、副騎士団長は馬鹿ではない。


 なら考えられるのは裏でザコイールを指名した者の存在だろう。私の感ではザコイールの父親にして軍務大臣のコワッパーン伯爵だ。


 一見すれば息子に出世の為の手柄を立たせたいと見る事も出来る。しかし自他ともに認める不肖のザコイールだ。息子が愚息である事はコワッパーン伯爵も分かっている……と思う。


 そして仮想敵がブラックキャンドルであれば、ザコイールが失敗したとしてもマイナス点は付かない。


 何故なら過去に名だたる騎士が煮え湯を飲まされた闇組織だ。事件は迷宮入りで幕を閉じたとしても、それは相手が悪かった、仕方ないの一言で方がつくからだ。


 コワッパーン伯爵の狙いはそこら辺にあると私は思っている。そう、彼の狙いは王家の暗殺事件を迷宮事件にする事だ。何故なら呪毒の入手方法は闇組織だけではないのだから。


 一つは過去の騎士団が犯罪者から押収した物の中に呪毒があった場合、それを盗み出し犯行に使用した。押収品は記録官が記録をしているので、調べれば直に分かる。


 そしてもう一つは外交ルート。密輸の可能性だ。軍務省で有れば外国からの資材調達と称して、毒薬等を仕入れる事も出来る。昨今の軍務派と帝国との繋がりを鑑みれば、呪毒の出所は帝国という可能性が高い。


 更に事件発生のタイミングだ。騎士団長不在のタイミング。高僧が星読みの儀式に入っているタイミング。ゴブリンが王都を襲撃したタイミング。


 これらのタイミングが偶然であるとは考えにくい。一連の事件に軍務大臣が絡んでいるのは当然として、外交先である帝国に伝手のある人物。国王一家殺害により利を得る人物。これらの線をたどれば浮かぶ顔はただ一人。


「……伯父上」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る