第51話 遠からん者は音に聞け
そんなこんなであれから6時間かけて、ニ十九階のボス部屋前の扉まで来ていた。途中の脇道等で行き違いになっていなければ、ストライクラビットの人達はこのボス部屋で休息を取っている可能性が高い。
ニ十階層にもオークは出現するが、出てもオークソルジャー迄で、三十階層に下ると更に上位種のオークメイジ、オークビショップ、オークジェネラルが出てくる。危険度が急に跳ね上がるのだ。
ボス部屋の扉を開ける。30メートル四方の部屋にボスはいない。倒されてから24時間が経過してないからだ。
部屋の三方の壁際で、三組の冒険者パーティーが各々休息を取っている。その中の一組のパーティーはストライクラビットだった。
「バーンさん」
僕が声を掛けると吃驚した顔で全員が一斉に僕を見た。
「ア、アルスタ!?」
「おいおい、何でこんな所にいるんだ!?」
「昨日、ちゃんと帰ったのよね?」
バーンさん、ロッシさん、ミリーナさんは僕を見たが、エレナさんは僕の後ろに立つ女性を見ていた。
「ア、ア、アイシャ様ッ!?」
「なにィ!」
「おい、マジかよ!?」
「な、何でアイシャ様が……」
僕を見た時以上に驚いた顔をしている。アイシャさんってそんなにレアなの?
「あたしか? 暇だったからアルスタについてきたってのもあるけど、ついでだからアルスタに五十階層迄連れて行って貰おうかなと」
アイシャさん、五十階層って、それは初耳ですよ。まあ、確かについでだから五十階層に座標アンカーを打って帰るのは有りですけど。
「「「「五十階層ォォォッ!!」」」」
五十階層と聞いて、もはや驚きの顔は酷い事になっている。
「ア、アイシャ様、まさか一人で行くのですか?」
「そりゃあ、まさかだろ。一人で行ったら死んじまう。言ったろ。アルスタに連れて行って貰うんだよ」
その言葉を受けて僕を見るエレナさん。何故か目が死んだ魚のようだよ?
「ア、アルスタ君と……ですか?」
「ん? アルスタ、この人達にお前の事は話してないのか?」
「えっと、言いそびれてしまいました。テヘ」
テヘと可愛いく笑ってみたが、エレナさんの視線は冷たかった。ごめんなさい。
「まっ、アルスタだから言葉足らずなのは仕方ないか」
いや、アイシャさんには言われたくないんですが……。
「遠からん者は音に聞! 近くば寄って目にも見よ!」
はい? 何故ここで名乗りを?
「このアルスタこそ、王都を賑やかせている時の人、聖人様だッ! そしてあたしの婚約者だッ!」
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇッ!!」」」」
◆◆◆
その後は大変だった。
「ってな訳だ!」
アイシャさんが僕の馴れ初めと称した、決闘の時の話しを始めた。しかも、それを聞いているのは、このボス部屋に三組の冒険者パーティー全員だ。
お話の中の僕が聖剣ルクシオンを抜く辺りはだいぶ脚色されていた感があるが、オーディエンスの皆さんは拍手喝采の大興奮状態だ。
そして、お話の中の僕は悪役貴族ザコイールを光の聖剣で成敗し、アイシャさんと口付けを交わしましたとさ。
「はいアイシャさん、それは盛り過ぎです! キスはしてませんよね! 僕はまだ十三歳ですよ!」
「いいじゃないか。なんなら今するか? いや、今しよう!」
「しませんッ!」
そんなやり取りさえも、皆さんからはやんややんやの拍手喝采ではやされた。
僕とレスティの婚約話や特級公爵に叙任された話しなどをしたアイシャさんのお話も一段落すると、バーンさんが僕に頭を下げてきた。
「知らなかったとはいえ、公爵でも有らされる聖人様に粗雑な物言いをした事、深くお詫び申し上げます」
「バ、バーンさん、謝らないで下さい。僕はそういうのは気にしないので」
バーンさんに頭を上げて貰ったが、顔色が良くない。
「本当に大丈夫ですよ。皆さんも今まで通りでお願いします」
バーンさんとロッシさんは顔を見合わせ、頷きあっている。ミリーナさんはまだ困惑顔をしていて、エレナさんは超真っ青な顔で今にも死にそうな感じだ。
「エレナさん、大丈夫ですか?」
「あ、あの……、す、すみませんでしたぁぁぁ」
エレナさんは腰を180度曲げて、長いシルバーブロンドの髪が、床にべチャリと付いてしまっている。
「な、何を謝っているんですか?」
エレナさんから特に酷い事をされた記憶はない。
「そ、その言葉使いとか、言葉使いとか、言葉使いとかぁぁぁ」
なるほど、エレナさんは確かに口調は少し厳しい言い方するけど、僕を思っての事だったからあまり気にしていない。
「そ、そ、それで、お父様にも罰を下すとか、御家取り潰しとか、どうかご容赦下さいぃぃぃ」
未だに平謝りするエレナさん。どうしたら御家取り潰しまで話が発展してしまうのだろうか?
それは、エレナさんが学院を次席で卒業し、宮廷魔術院に入った時の事が起因していたみたいだった……。
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