第50話 エレナさんの魔法

「――という事があったので、常闇のダンジョン内での瞬間移動の検証は明日になりました」


 お城での夕食。広い部屋に六人掛けのテーブルがポツンと置かれ、席には僕を含め四人が座っている。レスティ、アイシャさん、メッシーナさんだ。


 僕は食事を取りながら今日あった事を皆んなに話した。


「確かに、それは少しチャレンジだな。せめてBランク以上の前衛か、オークジェネラルを抑えらるタンク役が一人は欲しいな」


 僕が常闇のダンジョンでレスティ達に会った時のメンバーが今このテーブルに座っている訳だけど、あの時は他に人が集まらなかったって話だし、アイシャさんの実力は一騎当千だ。


 それでもモンスターパニックに陥り、命を落としかけている。最後に見たエレナさんの不安気な顔が脳裏をよぎる。


「でもそのパーティーにはエレナ先輩がいるんですよね」


 メッシーナさんが先輩と言うエレナさんは、昨年の学院卒業生で、学院次席の優秀な人だったとの事だった。


「はい。九階迄は一度も魔法は使っていませんでしたけど」


「エレナ先輩は虎の子の魔法が有るから、魔力を温存しているのだと思います」


「虎の子の魔法?」


 レスティが言うエレナさんの虎の子の魔法はとても気になる。


「先輩は迅雷風裂テンペストが使えるのです」


「テンペスト?」


「風雷系魔法の最強クラスの魔法です。覚醒の儀で授かったと聞いています。私も一度学院の武闘会で見ましたが、雷鳴轟き、嵐が吹き荒れ、まさに天災と呼べる威力の魔法でした」


「それはまた、凄い魔法ですね。雷鳴とか嵐とか、ド派手で羨ましい。僕の魔法って見えないし、無音だし、めちゃめちゃ地味なんですよね」


 とか言ったら、皆さんが僕をジト目で見ている。


「ア、アルスタ、お前の魔法は不可視で無音だからヤバいんだぞ?」


「そうかも知れませんが、やはり派手さが……」


「いやいや、不要だろ。派手と言えば、今度是非、聖剣ルクシオンと剣を交えてみたい。明日……いや、今からどうだ?」


 またアイシャさんがとんでもない事を言い出した。剣閃だけで訓練場の壁を破壊してしまう剣だ。無闇矢鱈に鞘から抜く事も出来ない。


「アイシャさん、駄目ですよ。あの剣の一振りは一つ間違えればお城も吹き飛んでしまいます」


 レスティがアイシャさんを押し留めてくれたけど――。


「大丈夫、大丈夫、少しだけ、先っぽ抜くだけでいいから」


 しかしアイシャさんは食い下がる。でも、先っぽだけって、鞘から剣を全部抜いてますよね?



◆◆◆



「アイシャさんも来るんですか?」


「暇だからな」


 昨日出会ったストライクラビットの人達がどうしても気になって、僕は今日も常闇のダンジョンに行く事にした。


 そしてアイシャさんも同行するとの事になった。まあ、僕一人だと昨日みたいに優しい冒険者さんに気を使わせてしまうかもしれない。


「それじゃ行きましょうか。僕の手を取って下さい」


 アイシャさんが僕の手を握る。長年剣を振るってきたアイシャさんの手はゴツゴツとしていたけど、何故か安心感が伝わってくる。そんな感じがした。


「瞬間移動、『常闇九階』」


「「…………」」


「あれ?」


 瞬間移動の魔法が発動しなかった。何でだ?


「瞬間移動、『廃墟入り口』」


 瞬間移動の魔法は発動して、僕達は常闇のダンジョンが有る廃墟まで跳ぶ事が出来た。アイシャさんは瞬間移動の魔法を体験して瞳を輝かせてもいる。


 そして再度『常闇九階』と唱えるも、それは失敗に終わった。常闇のダンジョンでは瞬間移動が使えないのかな?


 とりあえず歩いて常闇のダンジョンの一階に降りる。


「座標アンカー」


 一先ず、一階に目印を付けて、再々度九階への瞬間移動を試みる。


 すると――。


「今度は跳べたな」


「はい、跳べましたね。常闇のダンジョンって空間が捻じ曲がってるから、その関係かもしれないですね」


 僕が最初に入ったのは、この国から千キロ近く離れたザートブルク王国だ。でも僕はそんな遠い距離を歩く事なく、エルクスタ王国まで来ている。空間が捻じ曲がっているとしか思えないんだよね。


「おい、アルスタ」


 そう言ってアイシャさんが剣を抜く。部屋の中央に三体のゴブリンがいる。ボス部屋のボスゴブリンがリポップしていたみたいだ。


 僕がディメンションランスを唱えようとしたら、アイシャさんが速攻で切り込んだ。ディメンションランスは直線上にある全ての物を消失させてしまうので乱戦には向かない。


 そして近付こうものなら、アイシャさんが振り回す剣に斬られかねない。だから僕が出来る事は――。


「見てますかね」


 見た感じゴブリンは、ゴブリンソルジャーが三匹のようだった。アイシャさんを脅かす相手ではない。案の定、速攻で方が付いてアイシャさんが戻って来る。


「準備運動にもならなかったな」


「まだ九階ですからね。十階に下りましょう」


 そして十階に降りて、直ぐに座標アンカーでマーキングをする。


 それから瞬間移動の魔法の検証をして分かった事は、一階から九階は瞬間移動が可能だが、九階から十階への階層間の瞬間移動は不可能という事だった。



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