第49話 ストライクラビット

 常闇のダンジョンに同行する事になった冒険者パーティーは、Cランク冒険者パーティーで名前を『ストライクラビット』と言った。


 鉄鎧を着ている剣士のバーンさん、スカウトにして悪役顔のロッシさん、柔らかい笑顔が素敵な回復士のミリーナさん、長いシルバーブロンドの髪の美少女は風魔法使いのエレナさんだ。エレナさんだけが他の皆さんよりだいぶ若く見える。


 ストライクラビットは今回の探索で解散するみたいで、理由はミリーナさんがで、旦那さんはバーンさんとの事だ。


 だったらもう潜るのは止めた方がよいと思うのだけど、最後に一度だけ最初で最後の三十九階のボス部屋に挑む事にしたらしい。なんか死亡フラグが立ってそうな気がしてならない……。


 そんな話を聞かされながら、ダンジョンを進んで行くのだが……。


「ねえ、君」


「はい?」


 風魔法使いのエレナさんは僕の少し前を歩いていて、常に周囲を警戒している。時々振り向いては僕を見たりとせわしない。


「もっと周りを警戒しなさいよね。遠足と勘違いしてない?」


「はぁ」


「ちょっと! 気の抜けた返事をしないのッ! ダンジョン内では魔物がいつどこでリポップするか分からないのよ。直ぐ後ろに出る事だって、可能性として有るんだからねッ!」


「はい」


 後方には空間障壁を展開しているから、不意打ちされても大丈夫だし、索敵魔法で近くに魔物がいないのが分かっていたから、気が抜けた顔をしていたのかもしれない。


「エレナも一端いっぱしの事を言える様になったな。ちょっと前まではイケイケお姉ちゃん丸だしだったってのにな」


 前を歩くスカウトのロッシさんが振り向いて、エレナさんを茶化した。


「ロッシさん、この子って全く緊張して無いんですよ。この調子だと明日には死んでるわよッ!」


 口調はキツいけど僕の事を心配してくれているのは分かる。


 ん?


「前方からゴブリンが二匹来ますよ」


 索敵魔法が前方のゴブリンを捉えた。


「何で分かるのよッ!」


「索敵魔法ですが?」


「ほう、坊主は索敵魔法が使えるから余裕をかましてたって訳だ。バーン」


「ああ、ゴブリン二匹なら俺だけで十分だ」


 バーンさんが速攻で二匹のゴブリンを倒す。流石にCランク冒険者パーティーにゴブリン二匹は余裕過ぎた。


 因みに個人別に言うと、バーンさんはBランク冒険者で、他の皆さんはCランク冒険者。エレナさんは先日Cランクに昇格したばかりらしい。


「アルスタ、この先も気が付いたら直ぐに教えてくれ」


「俺の仕事が無くなったな。楽が出来そうだ」


 バーンさんの指示で索敵担当になった。斥候役のロッシさんは、お役御免とばかりに高楊枝をくわえ始めた。


「君は索敵魔法以外に、何の魔法が使えるの? 風、水? まさか土!? 土魔法はこのダンジョンでは使えないわよ!」


 古代の魔王が時空神クロノエル様を封印する為に作ったと言われる常闇のダンジョン。ダンジョンオブジェはルルエル様の力を持ってしても壊せない程に強固な作りになっている。


 故に普通の人間が使う土魔法ぐらいでは、このダンジョンを変形させて何かしようなどと不可能な事だ。


「いえ、僕は四属性魔法は使えません」


「じゃあ索敵魔法だけって事? 索敵魔法だけで一人でダンジョンに来るとか頭悪いんじゃないの!?」


「えっと、他にも使えるけど……」


 あれ? 僕の魔法って人に言っていいんだっけ?


「何? 人に言えない魔法?」


「今、情報を整理してます。えっとですね……」


 エレナさんは僕を胡散臭そうな目で見ている。


「おいエレナ、あまり新人を虐めるな。今日は俺達もついているんだし、大丈夫だよ」


「ロッシさん、まさかこの子を三十階層まで連れて行くきですか!?」


「い、いや、流石にそれは無理だな」


 ベテラン冒険者パーティーだけあって、新人冒険者を危険な三十階層まで連れて行ったりはしない。


 三十階層はあのアイシャさんでさえ手を焼くオークジェネラルがいる。僕の見た感じでは、バーンさんがアイシャさんより強い様には見えない。


「……皆さんは三十階層は大丈夫なんですか?」


 僕は少し心配になって聞いてみた。


「まあそうだな。三十階層は何度か行っている。アルスタ君は途中で戻るパーティーがいたら、その人達と戻るといいよ」


 バーンさんはそう言ってくれたのだが、九階まで下り、ボス部屋の前まで来ても、地上に戻るパーティーとは出会わなかった。


 まあ、僕の事は放って置いてくれて大丈夫なんだけどね。


「まいったな。流石に新人をボス部屋に入れさせる訳にはいかないよな」


 困った顔でパーティーメンバーを見渡したバーンさん。


「ボス部屋は空のようですよ」


「アルスタ君はそこまでわかるのか?」


「はい。ボス部屋の魔力濃度が薄いです。この感じではボスはまだリポップ出来ないですね」


「な、何でそんな事が分かるのよ!」


「えっとそれは、勝手知ったる常闇のダンジョンとでも言いましょうか」


「たかだか九階に降りたぐらいで生粋言わないでよね! このダンジョンはそんなに甘いダンジョンじゃないんだからね!」


「あの、僕はですね――」


「エレナ、新人ってのは生粋でそんなもんだ。冒険者になって、なんでも出来ると思っちまうんだよ」


 僕がこのダンジョンは攻略済みな事を言おうとしたら、ロッシさんに割り込まれてしまった。


「とりあえず入ろう。九階のボスは悪くてもゴブリンメイジだ。ゴブリンソルジャーが二、三匹出るだろうが、俺とロッシでさばくから、その間にエレナが魔法でボスゴブリンを倒してくれ」


「分かったわ。君に本物の魔法を見せてあげるわ」


 ここに来るまでエレナさんは一度も魔法を使っていない。ここまでゴブリンが出てもニ、三匹の集団だったからバーンさんとロッシさんで倒しきれたからだ。


 ストライクラビットの面々が意気込んで入った九階のボス部屋は案の定リポップ前で静かなものだった。


「アルスタ君の言う通りだったな」


「う〜、何で初心者の索敵如きで分かるのよ〜」


 少し不満そうにエレナさんが僕を睨む。


「ねえ、あそこ」


 ミリーナさんが指差した方には、ボスがリポップ前でセーフティゾーンとなっている部屋で休憩をとっている一組の冒険者パーティーがいた。


 バーンさんがそのパーティーに近寄り、向こうのリーダーっぽい人と話を始めた。結果、僕はそのパーティーと一緒に地上に戻る事になった。


 まあ、ここに来るまで僕の予定よりもだいぶ時間が経っている。夕食の時間にお城に戻らないと皆さんが心配するだろうし、今日はこれで帰るとしよう。


 僕はストライクラビットの皆さんに挨拶をして、もう一つの冒険者パーティー、シルバーフォックスと合流した。


「とりま、ここにアンカーを打っておこうかね」


 九階のボス部屋に座標アンカーの魔法を使い、マーキングをする。


 十階に下るエレナさんが一度こちらを振り向き僕と目が合う。少し寂し気な顔をした後に、プイっと首を振って階段を降りていった。


「……死亡フラグ、立ってないよね?」

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