第48話 瞬間移動の魔法 2
「な、何ですか、これはッ!」
「…………」
高い王都の外壁の上、眼下に広がる田畑や農村を見てレスティが驚いた声を上げている。メッシーナさんは声も出ないようだった。高所恐怖症なら悪い事をしたかもしれない。
「瞬間移動の魔法が完成したんですッ!」
お城から外壁まで直線で約1キロメートル。その距離を二人を連れて一瞬で跳んできた。どう、僕、凄いでしょ的な気持ちで連れて来たのだけど……。
「す、凄いのは分かりました。で、でもここは高いというか、危ないというか……」
レスティが少し青い顔で僕にしがみつき、外壁の下を覗き込む。高さは大体七、八メートル。外壁の上は見張りの衛兵が歩く程度の通路になってはいるが、大した柵がある訳ではない。
「ア、アルスタ様、わ、分かりましたから、も、戻りましょう」
メッシーナさんも足をぶるぶると震わせながら僕にしがみつく。座標アンカーを使った中で、一番遠かったのが外壁の上だったからここに連れてきたけど、高い所はどうやら失敗だったみたいだ。
「瞬間移動、『中庭』」
お城の中庭に移動すると、レスティとメッシーナさんはホッと息を吐いて安堵した顔になる。
「アルスタさん、悪ふざけは駄目ですよ!」
「た、高い所に行くには心の準備が必要です!」
そして二人に「めっ」って怒られた。
「すみませんでした……」
僕が少し落ち込んだ顔をすると、すかさずメッシーナさんがフォローしてくれる。
「で、でも瞬間移動って凄いですねッ! どこでも行けるんですか?」
「いや、『座標アンカー』という魔法で目印を付けた場所にしか跳べないんだ」
するとレスティが前のめりになって――。
「目印があればどこまでも行けるって事ですよね! 凄い魔法です! 流石はアルスタさんです!」
「お、落ち着いてレスティ。どこまでもってのは、これから検証していく予定なんです。距離が伸びると魔力消費も多い感じなんです」
お城から外壁程度なら、さして問題ない魔力消費量だけど、距離を伸ばした時に行った先で魔力切れとか洒落にならない。
「……敬語」
「はい?」
「私に敬語は使わない約束しましたよね?」
レスティはぷくぅ〜と頬を膨らませている。そう言えばそんな約束をしたかも。
「……分かりました」
「そこは『分かった』ですよ」
「わ、分かった……」
「ふふふ、良く出来ました」
レスティに頭を撫でられる僕。レスティの方が二歳年上だから仕方ない。でも年上の王女様にタメ語で話すのって、ハタから見れば、無作法なクソガキにしか見えないのでは……?
◆◆◆
レスティ達が部屋に戻り、僕は飛距離と魔力消費量の検証をする。外壁の上まで瞬間移動で跳び、短転移の魔法で外壁から外に出る。
それから短転移を繰り返して常闇のダンジョンの入り口がある廃墟まできた。入り口付近には何組かの冒険者パーティーの姿が見える。
「今日は人が多いな」
僕が常闇のダンジョンを抜ける時は、王都でゴブリン事件が起きていて、冒険者は全てそちらに駆り出されていたとの事で、このダンジョンに冒険者パーティーは来ていなかったらしい。
僕は辺りをキョロキョロと見回し、ダンジョン入り口からは死角になる廃墟の壁裏に『座標アンカー』でマーキングをした。アンカーのポイント名を『廃墟入り口』とした。
「瞬間移動、『中庭』」
一瞬でお城の中庭に戻れた。魔力消費量もまずまずだけど、僕の魔力総量からしたら問題ない範囲だ。続けて『廃墟入り口』まで瞬間移動をして、常闇のダンジョン入り口に戻る。
一組の冒険者パーティーの後に続いて、常闇のダンジョンへと入っていく。
「お、おいお前、まさか一人でこのダンジョンに入るのか?」
前を歩いていた冒険者パーティーの皮鎧を着たお兄さんが僕に気が付き声をかけてきた。
前を歩く冒険者パーティーは皮鎧のお兄さん以外には、上半身が鉄鎧のお兄さんと神官風のローブを着たお姉さん、魔法使い風のローブを着たお姉さんの四人パーティーだ。
魔法使いのお姉さん以外は二十代、魔法使い風のお姉さんは十代後半って感じに見える。
「はい」
「おいおい、ここは子供が遊びに来る場所じゃないぞ。そもそも君は、冒険者かい?」
鉄鎧のお兄さんも僕を心配してくれている。
「はい、成り立てですけど」
四人が顔を見合わせて、少し困った顔をしている。
「坊主、お前は冒険者ってものを分かっていない。先ず一人でダンジョンに入るなど百年早い。更にはその装備だ。身なりが良いから、どこぞの貴族の坊っちゃんかもしれないが、ダンジョン内では貴族の身分なんか関係ない。有るのはデェッド、オア、アッラァイブだけだ」
舌をベロりと出して、『お前、死ぬぞ』的な顔をし、僕の生死を気に掛けてくれる皮鎧のお兄さん。少し顔がキモい。
「だからな坊主、ダンジョンに入るなら仲間を連れて一緒に入れ。それから装備もしっかり整えろ」
「わ、分かりました」
「ヨシ。なら今日は俺達の後に着いてこい。冒険者のいろはを教えてやる」
ニヤリと笑い親指を立てた皮鎧のお兄さん。ちょっと顔は悪役顔だけど、悪い人ではなさそうだ。鉄鎧のお兄さんが「またロッシの悪い癖が出たな」とか言って苦笑いしている。
という訳で、僕はベテラン冒険者パーティーに同行する事になった。
うん、次回はアイシャさんにでも声をかけて一緒に来よう。
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