第44話 晩餐会1

 式典が終わり、夜には晩餐会が行われる合間、僕はトライヘッドドラゴンを王室に献上する為に、国王一家や集まった貴族と共に広い空き地のある中庭に来ていた。


「それでは出します」


 トライヘッドドラゴンは冒険者ギルドでは買い取り不可だった。余りにもレア過ぎて金額が青天井だったからだ。


「トライヘッドドラゴンをリリース」


 魔物を入れてあるアイテムボックスからトライヘッドを取り出した。全長三十メートルはある三つ首のドラゴンが突如として現れ、腰を抜かす人や顎を外す人、少し失禁してしまった人もいた。


「……開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だな」


 流石の国王様も吃驚している。アイテムボックス内は鮮度を保てるので、一月前に殺したとは思えないほどフレッシュだ。


「血は全て抜いてあります。トライヘッドドラゴンの表皮は聖剣でも傷が付かないほど硬いので、胸部に空いている穴から肉を解体をお願いします。トライヘッドドラゴンのお肉は超絶に美味しいので、晩餐会で皆さんに是非とも食べて頂きたいです」


「聖剣でも切れない鱗なのか?」


「はい。だから加工とかは出来ないので、お肉を解体後は、またアイテムボックスに収納しようかと思います」


 どんなに硬くて魅力的な素材でも、加工出来なければ意味がない。血と肉を回収したらトライヘッドドラゴンはただのゴミだ。


 国王様と執事長のセバスさんが何やら話しをしている。そして――。


「アルスタ、全てを王室が買取ろう」


「先ほども言いましたが、素材としては全く役に立ちませんよ?」


 すると国王様は、にまぁとやんちゃ小僧の様な笑い顔になる。


「剥製にして正門に飾る! このドラゴンを見た他国の外交官は先ず間違いなく度肝を抜かれる。そうすれば交渉事のイニシアティブを取れるって算段だ。それにこれだけのドラゴンを倒せる戦力がこちらには有るって思わせられるしな」


「そういう事なら、他のドラゴンもお渡ししますね」


 アイテムボックスから、ブラックドラゴン、双頭のレッドドラゴン、フロストドラゴンを取り出した。


 中庭は四体のドラゴンでいっぱいになった。失神して倒れる貴族までいる。そして国王様は大興奮して鼻の穴が広がっていた。


 セバスさんの話によれば、ドラゴンの剥製を飾っている国はブエノス帝国ぐらいで、大陸の西方諸国ではエルクスタ王国だけとなるらしい。


 ちなみに買い取り金額はブラックドラゴン白金貨三百枚、レッドドラゴン白金貨四百枚、フロストドラゴン白金貨三百五十枚で、トライヘッドドラゴンは特殊過ぎて直ぐには値段が付けられないらしい。しかし、苦戦したブラックドラゴンが一番の安値とは。


 因みに白金貨三百枚は伯爵の年収に匹敵する金額との事。ドラゴン一匹で国が滅ぶ事もあり、高値がつくのは国防的な価値も含めてとの事だった。



◆◆◆



「えっと……」


「フフ、こういったパーティーは初めてですか?」


 晩餐会の会場へと入る扉の前で、僕はめちゃめちゃ緊張していた。


 薄いピンクのドレスを着たレスティーア様が、緊張している僕の顔を見て笑っている。僕が育ってきた環境は少し話してあるので、僕に気を使ってそう言ってくれたのだ。


 でなければ『あら、晩餐会は初めて!? とんだ田舎貴族ですわね、オホホホ』と馬鹿にされていた筈だ。


「はい」


「では今日は私がエスコートしますね」


 王族なのにこういった気遣いをしてくれるレスティーア様が僕は好きだ。少し躊躇ちゅうちょしながら、肘を折って腰に手をあてる。その腕にレスティーア様が腕を回して、僕達はパーティー会場へと入っていった。


 綺羅びやかなシャンデリアに照らされたパーティー会場は、先ほどいた貴族に加えて華やかなドレスを着た女性の方も多くいた。若い女性はあまり見当たらない。


「若い人ってあまりいないんですね」


 十三歳の僕としては大人だらけの会場に少し尻込みをしてしまう。


「叙爵式での晩餐会はいつもこんな感じですね。目的がお見合いみたいなパーティーですと、逆に若い人ばかりになりますよ」


「そうなんだ」


 貴族社会に疎い僕としては、これから学ばなければならない事が沢山有りそうだ。


 パーティー会場に入ると、先ずは上座の壇上にある椅子に座る国王様と王妃様の前に行き挨拶をする。


 壇上へと上がらされると、改めて列席の方々に国王様が僕を紹介し、続いて僕とレスティーア様の婚約の発表もした。これで御婦人方の口を使い、軍務大臣の息子ではなく、僕がレスティーア様の婚約者だと広く知れ渡るだろう。


 これで国王様からの紹介も終わりかと思ったら、なんと僕とアイシャさんの婚約話まで冗談交じりで話始めた。


 アイシャさんは常闇のダンジョンから今日の決闘騒ぎまで、レスティーア様や僕のフォローをしてくれた功労者だ。


 アイシャさんを北の村から王都に連れてきた国王様からしたら、アイシャさんも娘の様な存在なのだろう。僕の二人目の婚約者として気持ちよく受け入れてくれている。


 ちなみに国王様にも側室の王妃様が3人いて、今夜の晩餐会にも王子を連れて来ているとの事だ。正王妃様との仲も今は良好だとレスティーア様から聞いている。


 なお、僕が十五歳で成人するまでは、これ以上婚約者は作らない事を、国王様の口から、貴族の方々に向けて告げて貰った。


 これはレスティーア様からの助言で、有望株の男性は見合い話が引っ切り無しに来るとか来ないとかで、牽制はしておいた方がよいとの事だった。




―――――――――――――――――

【資料 ドラゴンの買取値について】

冒険者ギルドのマスターが言っていた様に、ドラゴン討伐はレイド戦で、Aランク冒険者やBランク冒険者を多数集める事になります。


 ドラゴン戦は命懸けです。だから報酬も白金貨1枚〜5枚程度は支払われます。仮に100人集めたら合計の白金貨は100枚〜500枚になります。


国王様がアルスタ君に支払ったドラゴンの金額は300枚〜400枚。アルスタ君が交渉上手ならもう少し高値で買い取って貰えたかもしれませんね。


 

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