第42話 式典

「疲れた……」


 お城のあてがわれた部屋に入った僕は大きなベッドにダイブした。


 まさかアイシャさんと結婚する約束をする事になるとは、全くもって思ってもいなかった。


 アイシャさんにその時の状況を聞いてみれば、売り言葉に買い言葉、『だったらあたしはアルスタと結婚するからなッ!』って啖呵を切ったとの事だった。


 一応僕は断ってはみたものの、『女に二言は無いんだよ』と押しきられた。


 でも、僕とレスティーア様の仲を取り持つ為に、あの変な男相手に自らの人生を賭けたんだ。


 その見返りが僕なんかとの結婚で釣り合いが取れているのかは分からないけど、適当な返事をする訳にはいかないよね。


 それにレスティーア様や国王様にも確認を取らないといけない事だ。


 暫くベッドで横になっていたら、数人のメイドさんを従えてメッシーナさんが部屋に入ってきた。


「式典のお支度をさせて頂きます」


 メッシーナさんが言うと、他のメイドさん達が揃って頭を下げた。それから水桶に張ったお湯で髪の毛を洗い、濡れたタオルで体を吹かれ、着せ替え人形よろしく色々な服を着させられた。


 着せ替えの合間に、メッシーナさんから決闘の時のルール決めで、僕が冒険者Sランクでくらい的に伯爵位と同等の身分になるから、ルールの決定権は実は僕にあった事を教えてくれた。


 なぜSランク冒険者が上級貴族位なのかと訪ねたら、『下級貴族からの自衛では?』と言われた。確かにSランク冒険者でも身分が低いと貴族の我儘にも逆らえない。最悪私兵として登用されて一生が終わる場合もありそうだ


「聖人様には矢張りこの色がお似合いですね」


 赤だ、青だ、緑だと、色々な服を着た結果、空色の地に白と金の柄が付いた礼服に落ち着いた。


 顔に薄く化粧をして、髪の毛を整えた頃には式典の時間となっていた。


「……見惚れてしまいます」


 メッシーナさんが僕にお世辞を言ってくれた。当然、そう言われれば嬉しい。着替えを手伝ってくれたメイドさん達もコクコクと頷き、メッシーナさんのお世辞に付き合ってくれた。皆さんありがとうございます。



◆◆◆



「聖人アルスタ様ぁ、おな〜り〜」


 謁見の間の扉を開ける二人の騎士が扉を開けてくれたので、僕は豪華な赤い絨毯の上を歩き、玉座の有る階段の手前で片膝を付いて頭を下げた。


 玉座には国王様。その隣の席に王妃様、玉座の後ろに王太子様が立ち、王妃様の後ろにはレスティーア様が立っている。


 中央の赤い絨毯を挟む両脇には貴族の面々が立ち並び、僕を注視しているのが分かる。


 人生初の大舞台で、僕の心臓が破裂しそうな程バクバクと鳴っている。


「聖人殿、面を上げて下さい」


 ザワザワと謁見の間がざわつく。国王様が僕に対してへりくだった物言いをしたからだ。


 僕は周りからの視線を感じながら、緊張した面持ちで顔を上げた。満面の笑みの国王様の顔を見て、何故か冷や汗が頬を伝った。


「皆も既に知っておろう。こちらは我らが女神クロノエル様に認められしお方だ。伝説の神器である聖紋を持ち、更に先ほど聞いた話では聖剣ルクシオンおも帯剣しているとの事だ」


 またザワザワと謁見の間がざわつく。僕の事を知っている人、知らない人。聖紋の事を知っている人、知らない人。更には先ほどの決闘騒ぎで、僕の持つ剣が聖剣だった事を知っている人、知らない人。皆一様にして奇異な目で僕を見ている。


「聖人殿は王都を襲撃した数百のゴブリンを僅かな時間で打ち倒し、怪我を負った多くの民を神薬によって救い、更には儂らの呪毒さえも治癒してくれた。城を襲ったオーガーアウルの群れを撃退したのも聖人殿だ。本日、冒険者登録をした際には大陸でも数人しかいないSランクに認定されたと報告も受けている」


 またまたザワザワと謁見の間がざわつく。


「聖人殿にも色々と都合があるようだが、儂としては聖人殿を我が国の公爵の地位をもって向かい入れるつもりだ。既に娘との婚約も成立しておる」


 更にざわつきが大きくなった。そして、八の字の形をしたチョビ髭の身なりが豪華なおじさんが、一歩前に出て国王様に物申した。


「陛下、その様な詐欺師の子供の言葉を信じてはなりませんぞ」

 

 詐欺師? 僕が? このおじさんは何を言っているのだろうか?


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