第41話 決闘

「分かったか小僧。決闘のルールは貴様よりくらいの高い吾輩に決める権利がある」


 決闘ルールの決定権、こればかりは仕方がない。世の中のルールは王侯貴族によって決められている。それ故の高位貴族が有利に取り計られる決闘ルールだ。今の僕はただの冒険者でしかないからね。


「あッ……、それは――」


 メッシーナさんが何かを言おうとしたが、遮るようにザコイールさんがルールの説明を始めた。


「ルールは3つだ」


 これもお決まりで、ルール的な制限は3つまでと決まっている。制限が多すぎるとルールを決める側に有利になり過ぎるからだ。


「一つ、魔法は禁止だ」


 えっ!?


 僕の驚いた顔を見てザコイールさんはニヤリと笑みを溢した。僕が城内で鬼梟オーガーアウルと戦った時に使った魔法の事を知った上での対策か。


「二つ、鎧の制限はつけない」


 見ればザコイールさんは立派な金属鎧を着ていて、対する僕は外出用にメッシーナさんが用意してくれた、見た目重視で防御力など全くない洋服だ。


「三つ、相手を殺した後に禍根かこんを残さないこと。後で国王陛下に愚痴をこぼされたくはないのでな」


 魔法を封じた事で勝つ気が満々だ。とは言え、魔法を使えない僕は、無能と呼ばれた伯爵子息に逆戻りなので、めっぽう厳しい状況である。


 ルルエル様に力を授かった時に得た、身体能力の向上だけが唯一の心の支えだけど、騎士を相手に何処まで戦えるのだろうか。まあ、雰囲気的には常闇の魔物に比べるべくもなく怖さは感じ無いんだけどね。


「あ、あのぉ、魔法を使えないとなると、僕には武器が有りませんが……」


「腰に剣を下げているではないか。それともその剣は飾りか?」


 常闇のダンジョン九十九階で手に入れたクリスタルソード。一合交えただけでポッキリと折れてしまいそうな剣。


「はい、飾りです!」


 だから僕はそう答えた。


「クワハッハッハ、良い良い、その剣で試合おうではないか! 決闘を始めようか」


 そう言ってザコイールさんが黒光りする剣を抜いた。


「その剣は、まさか魔法剣ですか?」


 どう見ても普通の剣には見えない。


「ぐふふ、我が魔剣ソウルイーターに魂まで喰われるがよい」


「ソ、ソウルイーターッ! 魂い喰いの魔剣とか有りですかッ!」


「ルールで魔剣の使用は禁止していない。そうだろ」


 金属鎧に魔剣装備とかズルいぞ!


「……はい。そうでした」


「大丈夫だアルスタ。あの剣はストレングス上昇の付与が付いた魔法剣を黒く塗っているだけだ」


 …………ソウルイーターでは無かった。とは言え魔法剣である事には変わらない。僕は諦めて腰に下げてある、金と青で装飾された鞘から、細身の刀身を持つクリスタルソードを引き抜いた。


 ピカァァァァァァァァァァァッ!!


「な、何ッ!」


「ウゴぉぉぉッ、眩しいィィィッ!」


 ダンジョンで鞘から抜いた時には、こんな発光現象は起きなかった。いったい何が起きてるんだ!?


 辺りを見れば光の帯が発生し、クリスタルソードへと吸い込まれていく。


「ア、アルスタッ、何だその剣はッ!?」


 アイシャさんも吃驚している。


「きゅ、九十九階で拾った剣です……」


「九十九階だとぉぉぉッ! まさかその剣は――」


 光の帯の吸収を終えた剣は、神々しい光を放っている。そしてアイシャさんが物騒な事を告げた。


「光の聖剣ルクシオンかッ!?」


「へっ? これが聖剣?」


 大陸には幾つかの聖剣伝説があるけど、僕はこの国の聖剣伝説の知識は持っていない。まさか拾い物の剣が聖剣とは、世の中物騒すぎる。


 僕は光を纏った剣を軽く振ってみる。


 ブォォォォォンッと言う剣音と共に、光の塊が放たれ、それは光の奔流となって爆風と共に闘技場の外壁へと飛んでいく。


 ゴォォォォォォォォォッ!!


 光の奔流は外壁を破壊し、唸りを上げて空の彼方へと消えていった。


「………」


 僕は絶句する。


「「…………」」


 アイシャさんとメッシーナさんも絶句する。


「「「「………………」」」」


 闘技場の観客席にいた人達も絶句した。


「……この剣は危ない。封印しよう……」


 僕は心にそう誓った。


「アイシャさん、この剣を使ったらザコイールさんが死んでしまいます。決闘は仕切り直しに出来ませんか?」


 僕はアイシャさんにそう提案したのだが……。


「大丈夫だアルスタ。決闘はお前の勝ちだ」


 そう言ったアイシャさんが指を指した先には、先ほどの光の奔流で吹き飛ばされたザコイールさんが倒れていた。


「お前ぇらァァァァァァッ!」


 アイシャさんが観客席に向かって大きな声をあげた。


「決闘はアルスタの勝ちとするッ! 不服の有る奴は、この場に出てアルスタと試合えッ!!」


 アイシャさんの張り上げた声の後に静まり帰る闘技場。そして――。


「「「「ウォォォォォォォッ!!」」」」


 観客席からは大歓声が飛び交った。


「聖人様、凄えぇぇぇぇぇッ!」

「聖人様、ぱねぇぇぇぇぇッ!」

「聖人様、かっけぇぇぇぇッ!」

「聖剣とかマジかよッ!」

「伝説の始まりだッ!」

「聖人様、俺と結婚してくれぇッ!」


 元々、僕を応援してくれていた観客席だけではなく、ザコイールさんを応援していた観客席からも歓声が上がっていた。何やら変な歓声も聞こえてきたが、聞かなかった事にしよう。


 闘技場は「聖人様」コールの大合唱となっていた。


「なんか有耶無耶ですが勝てて良かったです」


「これであたしの結婚問題も無事に解決したな」


 安堵の息を吐くアイシャさん。確かにアイシャさんは年頃の女性で魅力的な美人さんだ。


「本当に良かったですよ。あんな変な男と結婚しなくて」


「ああ、全くだ。これからは宜しく頼むぜダーリン」


 ダーリン? はて?


「あの、今ダーリンって言いましたか?」


「ああ。アルスタが決闘で勝ったんだから当然だろ?」


 『おや?』みたいな顔をして僕を見るアイシャさん。


「当然ってどういう事ですか?」


「決闘前に言ったろ。あたしは結婚を賭けたって」


「はい。ザコイールさんと結婚するとかしないとかってヤツですよね?」


「それはアルスタが負けた時な。勝った時にはあたしがアルスタと結婚するんだよ。なっ」


 アイシャさんは『なっ』とか言ってウインクをする。


「はい?」


 何それぇぇぇぇ!


 聞いてないよぉぉぉ!






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