第40話 誰か教えてッ!

「なんか、お城の中が雰囲気が悪いね」


 冒険者ギルドからお城に戻ると、何やら騎士の人達が殺気だっていた。騎士同士で睨みあったりと何やら物騒な雰囲気だ。


「騎士団で何かあったのでしょうか」


 メッシーナさんも異様な雰囲気を感じとっている。そして、僕にあてがわれている部屋に戻る途中、廊下の奥からアイシャさんが走ってきた。


「いたよ、いた。アルスタぁ、ガッツリガチンとやっちゃってくれッ!」


 はて? アイシャさんはいったい何を言っているのだろうか?


「ヨシ、行くぞ!」


 訳が分からないままアイシャさんが僕の腕を掴むと、僕があてがわれている部屋とは逆の方へと走り始めた。



◆◆◆



「あのぉ……、これはどういう状況なんですか?」


 アイシャさんに連れてこられた場所は、城内の騎士団が使用している円形状の闘技場だった。そして僕はその闘技場のフィールドに立たされている。


「大丈夫だ! 勝てばいい!」


「何を言っているのか、全く分からないんですけど」


 アイシャさんの大雑把すぎる説明では何も分からない。分からないんだけど、僕の目の前に立つ騎士の人が、思いっきり僕を睨んでいるのは分かる。


 ……でもこの人、誰?


 そして、闘技場の周りの観客席からは「聖人様、頑張れ〜」とか、「ザコイールなんかぶち殺せぇ」とか、反対側の観客席からは「ザコイール様、そんなガキに負けるなぁ」とか「クソガキィ、死にさらせぇ」とか応援やら罵声やらが飛び交っている。


「つまりだアルスタ。お前はアイツをぶち殺せばいいって訳だ。簡単だろ」


 アイツとは僕の前に立つ騎士で、多分名前はザコイールさん。どこかで聞いた名前だけど、誰だっけ?


「小僧、吾輩の花嫁に手を出した罪、万死に値する」


 花嫁?


「しかも、格式高き議会での決定事項に異を唱えるとは言語道断! この私ザコイールが正義のやいばにて鉄槌を食らわしてやろう!」


 クス。僕は思わず小さく笑ってしまった。


「貴様、何を笑っているぅッ!」


「あ、いや、刃で鉄槌ってなかなか面白い言い回しだなと」


 プチプチプチとザコイールさんの眉間に青筋が浮かび上がる。


「わ、吾輩を馬鹿にしたなッ!」


「気にするなアルスタ。こいつは馬鹿だからな」


 アイシャさんが煽るものだから、プチプチプチプチと更に青筋が増えていく。


「アイシャ、お前も賭けの事は忘れていないだろうな」


「ああ、勿論さ。でもアルスタが負ける筈はないから大丈夫だ」


 何やら全幅の信頼を寄せられているけど――。


「アイシャさん、賭けって何ですか?」


「ああ、こいつがアルスタに勝ったら、あたしもこいつの花嫁になるってやつだな。責任重大だぞ、アルスタ」


 アハハハとか笑いながら、とんでもない事を賭けていたアイシャさん。何でそんな話になっているのだろうか。


 事の経緯を誰か説明してほしい。アイシャさんに聞いても、「勝ちゃいいんだよ」で終わりそうだし。


 そんな時に、闘技場に一人の女性が走り込んできた。メッシーナさんだ。


「はあ、はあ、はあ、あ、アルスタ様……」


 肩で息をしているメッシーナさん。だいぶ慌てて走ってきたようだ。


「大丈夫ですか、メッシーナさん」


「あ、アルスタ様……勝ってください!」


 メッシーナさん、貴女あなたもですか……。


「いや、勝てと言われても、事の経緯が全く見えなくて」


「そ、それはですね――」


 メッシーナさんの話によれば、僕達がお城を出てから、お城の中では夕方の式典準備で賑わっていたとか。


 そこに僕とレスティーア様の婚約を聞きつけた軍務大臣とその息子のザコイールさんが不満タラタラに水を差したとか。


 更には軍務派と国王派で口論となり、一触即発の状況にまでなったとか。


 そこで仲介に入ったアイシャさんが、ザコイールさんを煽り倒したとか。……それって仲介って言うの?


 更には売り言葉に買い言葉で、超法規的処置である決闘で、白黒付ける事になったとか。


 どこの国でも面倒くさいいざこざは決闘で片付ける事が多い。とはいえ、誰も彼もが決闘が出来る訳ではなく、騎士位以上の承諾と立ち会い人が必要になる。


「なるほど……。それでアイシャさんではなく、僕が決闘する事になったんですね……。それで僕が勝てばこの一件は落ち着くって訳ですね」


「負ければ王女と私の結婚も賭かっている。頑張れよ!」


 アハハハと呑気に笑うアイシャさん。微妙に納得出来ないが、負ける事は許されない戦いのようだ。



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