無能と呼ばれた伯爵子息 常闇のダンジョンに追放された少年は異国の地で聖人様として崇められるようです。いやいや、僕は聖人様じゃなくて、小悪魔っ子の使いパシリですッ!
第19話-2 神物の秘宝3 【レスティside】
第19話-2 神物の秘宝3 【レスティside】
「レスティーア様、今は無理です。騎士は一人たりとも出せません。王都が今どういう状況かご存知ですか?」
私は王国騎士団の訓練場に足を運びました。常闇のダンジョンに入る為に必要な人員を貸して貰う為です。しかし、副騎士団長のエンデヴァーさんからは良い返事を貰えませんでした。
騎士団長のソラン様がいらっしゃれば少しはお話を聞いて頂けたのかもしれませんが、ソラン様も騎士団を率いて北の森の調査に行っている為、不在との事です。
「ゴブリンが街中に現れたというお話は伺っています。それでも私はどうしても常闇のダンジョンに向かわなければならないのです」
ゴブリンが王都に出没するなど今まで無かった事です。しかしゴブリンによる被害が出ている事は学院でも噂になっていました。
「陛下のご容態が悪い事は知っていますが、我々騎士団の努めは王国の民を守る事です。昨夜、王都上空を飛ぶ大きな黒い影を見たとの報告が多数上がっています。新たな魔物の可能性がある今、兵力を割くわけにはいかないのです」
大きな黒い影……。その様な魔物まで王都に出没するなんて……何が起きているの?
「……し、しかし、お父様が」
「陛下の事は魔術院に任せておけば、何らかの対策を講じてくれる筈です」
そんな事は私も分かっています。ただ何も出来ない自分が悔しいのです。
「……それでも……私は……」
涙が瞳から溢れます。騎士団からは人は出せないなら……私は……。
「姫様、一人で行くつもりかい?」
そう声をかけてきたのは、赤い髪に赤い鎧を着た長身の女性騎士でした。
「はあ〜、エンデヴァーさんよ。女の子泣かせてどうすんのさ」
「わ、私は軍務大臣からの指示で動いているのだ。レスティーア様からの頼みでも、騎士を勝手に動かす事はできん!」
「たくぅ、頭が硬いよなぁ。姫様、あたしが一緒に行ってあげるよ」
えっ?
エンデヴァーさんの言葉を聞いて、以前お兄様が――。
『いいかいレスティ、軍隊ってのは規律で動くものであって、情で動くものじゃないんだよ。だから我儘を言って団長さんを困らしちゃ駄目だよ』
――とおっしゃっていたのを思い出しました。
エンデヴァーさんに我儘を言っていたのは私です。でもこの方は……。
「アイシャ、お前は何を言っているんだ。軍規違反だぞ!」
「軍規も大切、王都民を守る事も大切。あんたの言う事は分かってるよ。でもあたしの剣は国王様に捧げたんだ。国王様の命を守るのは騎士の勤めだよな。違うのかい、エンデヴァーさんよ?」
「私が言いたいのはそう言う事ではない。軍というものはだな――」
二人が言い争いを始めてしまいました。でも、私に着いて来てくれるとおっしゃったアイシャさんの言葉で、私の落ち込んでいた心が救われました。
「では、姫様行きましょうか」
アイシャさんが私に肩組みしてきました。エンデヴァーさんを見れば呆けた顔をしています。
「あ、あの、私としてはアイシャさんに来て頂けるのは嬉しいのですが、騎士団の方は大丈夫なのでしょうか?」
「おう! まるっと全部大丈夫だ。騎士団は辞めてきたからな!」
「はい? 今なんておっしゃいましたか?」
「だから騎士団は辞めた。あたしは国王陛下に拾って貰った身だ。今こそ恩を返したい」
話しを伺いますと、アイシャさんが5歳の頃、生まれ育った北の村が魔物に襲われ、村人はアイシャさんを残し全滅したそうです。一人生き残ったアイシャさんを、たまたま通りすがった私の父に保護され、ここ王都の傭兵訓練学校に預けられたとの事でした。
「あの……、本当に騎士団を辞めて宜しいのですか?」
貴族でもないアイシャさんが、騎士団に入団する為にはかなりの努力があった筈です。それを、私の為に辞めてしまうなんて……。
「女に二言はありませんよ。さっ、とっとと行きましょうや姫様」
アイシャさんのお顔を見れば、確かに二言などない、晴れやかな笑顔が輝いていました。
◆◆◆
「アイシャさん、メッシーナ、私の我儘に付き合わせてしまい、申し訳ありません」
王都の西にあるダルタニアン王朝の遺跡にある常闇のダンジョン入り口で、私は私に着いてきてくれた二人に頭を下げました。
「気にするなよ姫様」
「わたしはレスティーア様に何処までもついて参ります!」
騎士団の後に宮廷魔術院と冒険者ギルドにも行きましたが、魔術院は話も出来ぬ門前払い、冒険者ギルドでは上位冒険者は北の森に行っており、他の冒険者達も軍務局から発行された王都内に出没するゴブリン調査依頼に駆り出されていた為、冒険者を雇う事が出来ませんでした。
結果、騎士のアイシャさん、水魔法のメッシーナ、光魔法の私の三人で常闇のダンジョンに入る事になりました。
「ただな、姫様」
アイシャさんが真剣な顔で私に言いました。
「あたしが傭兵をやっていた頃に常闇のダンジョンは四十三階まで行った事があるが、このメンバーよりも強いメンバーが揃っていた時だ。つまり、このメンバーでは三十階層まで行ければいい方だと思う。それでも、ダンジョンに行くかい?」
「はい!」
私に迷いは有りませんでした。
「座して時を待つより、立して風に向かいます!」
何もせずに家族の死を待つなど私には出来ません。
「分かった。ボス部屋では稀に宝箱が出現するらしい。それに賭けてみるか。メッシーナもいいのかい?」
「わたしの命はレスティーア様と共にあります!」
元気に答えるメッシーナ。彼女の元気に私は何度も支えられてきました。
これからもずっとそうであると信じていました。
しかし、この時の私は常闇のダンジョンの恐さを理解出来ていなかったのです。
もし彼に出会わなかったら、私は……。
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