第20話 エルクスタ王国の王女様
「何も無い部屋ですが、
「…………」
「…………」
「…………」
僕はオークジェネラルと戦っていたお姉さん達をディメンションルームに案内した。とは言え、部屋には僕が食事用にアイテムボックス(扉無し)で作ったちゃぶ台しかない。
「ちょっと待ってて下さい。今お風呂を作りますから」
お風呂を作るとは、バスタブにお湯を張る事じゃなく、まさにバスタブを作る方だ。何せブラッド・ブルを浴びたお姉さん二人は、血が塊りカピカピ状態でスプラッターになっていた。
ディメンションルームを拡張して、脱衣所とお風呂サイズの個室を作る。
次にアイテムボックスを生成し、バスタブを作る。形状は異世界日本風の寝転びながら入るタイプ。バスルームには排水と排気を兼用したアイテムボックスを床に収めて完成だ。
僕はお湯を作り出す魔法が無いので、生活魔法のドリンクウォーターで水を張る。完全に水風呂だけど、無いよりマシってヤツで押し通そう。
「あちらにお風呂を用意しました。水風呂ですが使ってください」
「「「…………」」」
床に座る三人のお姉さんが怪しむ目で僕を見る。
怪しまれてる?
「だ、大丈夫ですよ! 脱衣所も個室になってるし、の、覗いたりしませんから!」
常闇のダンジョンに現れた怪しい男。その男の怪しい部屋に入れられ、怪しいお風呂と来たら、覗き見を疑われても仕方がない。
大丈夫! 僕はまだ十三歳だからね!
「ツッコミどころが満載だけど、風呂は助かる。せっかくだから借りようぜ」
そう言って赤い髪に赤い鎧を着た騎士のお姉さんが立ち上がった。
「少年、鎧も洗わせて貰っていいかな」
「いいですけど、バスタブの水が足りないかも」
「大丈夫だよ。あたしもドリンクウォーターぐらいは使えるから」
騎士のお姉さんは手ぬぐいを肩に乗せて脱衣所に入っていった。
「「…………」」
金色の髪のお姉さんと青みがかった紫色の髪のお姉さんが、まだまだ僕を怪しむ目で見ている。
ここからの僕の行動こそが重要だ。覗き見を疑われる様な怪しい行動をしてはいけない。お姉さん達とちゃぶ台を挟んで反対側に僕も座る。
……お姉さん二人の視線が気になる。だって、めっちゃ美少女なんだもん。
「少しお話を宜しいでしょうか?」
「ひっ、は、はい!」
金色の髪のお姉さんが僕に話しかけてきた。僕は緊張していたせいで声がひっくり返る。自慢じゃないが僕に社交性は無い。
伯爵家では覚醒の儀を迎えていない子供達は、隔離とまではいかないが、他人との接触は避けられていた。将来的にどの子が残り、どの子が消えたか知られない様にしていたためだ。
だから僕は身内以外と喋るのに慣れていなかった。しかも相手は美少女のお姉さんだ。緊張して当たり前だった。
「あ、あの……色々と伺いたい事はあるのですが……単刀直入に伺います」
「な、何でしょうか?」
「先ほどの赤い液体は、いったい何なのですか?」
「ブラッド・ブルの事ですか。あれは万能薬の原液みたいですよ」
「万能薬の原液!?」
金色の髪のお姉さんと紫色の髪のお姉さんが、二人で顔を見合わせ。
バンッとちゃぶ台に両手を付き頭を下げる金色の髪のお姉さん。
「赤い液体を私に分けて下さい! お願いします!!」
金色の髪のお姉さんから、何事!? って思うほど強い気持ちでブラッド・ブルを分けて欲しいと懇願してきた。
「えっと……あの〜」
バンッと紫色の髪のお姉さんもちゃぶ台に頭をぶつけるほど頭を下げて懇願してくる。
ブラッド・ブルの在庫はまだまだ有るから、それは問題ないのだけど、問題は用途だ。ヤバい人たちの手に渡れば善からぬ事に利用されかねない。
「用途を聞いてもいいですか?」
金色の髪のお姉さんがちゃぶ台から顔を上げた。その瞳には涙が溜まっていた。うん。もうそれで十分な気がする。
話しを聞けば呪毒に侵された家族の為に使いたいとか、どこかのクソ
「分かりました。喜んでお分けしますよ」
「「ありがとうございます!!」」
美少女のお姉さん二人に感謝されると、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「あ、も……申し訳ありません!」
また金色の髪のお姉さんが頭を下げた。今度は何ですか?
「先ほど助けて頂いた御礼も、自己紹介もまだでした。私はエルクスタ王国、第一王女のレスティーア・ダルタニウスです。宜しくお願い致します。隣にいるのは私の従者でメッシーナといいます」
「えっ! 王女様!?」
エルクスタ王国って、ザートブルク王国からかなり離れた所にある国だよね。そして、この美少女がエルクスタ王国の王女様!??
この国の貴族の子供の多くは十三歳の覚醒の儀が終わる迄は、表に出る事は殆どない。覚醒の儀で有能な能力を授かった子供だけが、社交会デビューを許される。
当然アルスタはその資格を得る事なく常闇のダンジョン送りになった訳で、他国の王女様のご尊顔を拝見する機会などは全く無かった。
「メッシーナ・モートンです」
レスティーア王女様の従者として紹介された、紫色の髪のお姉さんが頭を下げる。
「先ほどは、私達を助けて頂きありがとうございました」
「い、いえ、皆さんが無事でよかったです」
レスティーア様とメッシーナさんは、見た目てきには僕より少し年上ぐらいに見える。今お風呂に行っている騎士のお姉さんは二十歳ぐらいだろうか。何しろ胸元のメロンが凄い!
「僕はアルスタ・ファーラング。ファーラング伯爵家の八男になります」
僕は名前を名のったが、二人はあれ?って顔をしている。
「ファーラング伯爵……ですか? メッシーナは知っていますか?」
「いえ、私も存じ上げていません」
ん?
他国の王女様がファーラング家を知らなくても仕方がない事だと思うけど、何故そんなに不思議がっているのだろうか?
そして、僕も疑問に思う事があった。
なぜエルクスタ王国の王女様がザートブルク王国にある常闇のダンジョンに来ているのだろうか?
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