第21話 完敗ルルエル様

「すみません。何故エルクスタ王国の王女様が常闇のダンジョンにいらっしゃるのですか?」


 北にあるエルクスタ王国と我がザートブルク王国とでは、間にカヌマーン王国を挟み、距離にして千キロメートル以上は離れている。


「そ、それは……神物を探しに……」


「神物? その為にザートブルク王国まで来たのですか?」


「ザートブルク王国? ここはエルクスタ王国ですよ?」


「へっ?」


 あれあれ? どういう事? 


「ここはザートブルク王国ではないのですか?」


「はい。ここはエルクスタ王国ですが……?」


 ん〜。常闇のダンジョンがザートブルクからエルクスタ迄の地下に広がるダンジョンなのか? いやいや、僕が地下迷宮でそこまで移動しているとは思えない。となれば……空間がねじ曲がっている……のか?


「僕はザートブルク王国にある入り口から入ってきたのですが、まさかエルクスタ王国と繋がっているとは思いませんでした」


「ザ、ザートブルク王国と繋がっているのですか!?」


 レスティーア様も知らない事のようだ。つまりはエルクスタの王室も知らないって事だろう。まあ、常闇のダンジョンの百階層なんて人が行ける様な場所じゃないからね。


「どうやらその様ですね」


「レスティーア様!」


 ちゃぶ台をバンッと叩いて、メッシーナさんが青い顔で立ち上がった。


「それが真実であれば一大事です! 近年ザートブルク王国は軍備増強をしていると聞き及んでいます。地下から我が国に攻め入る事が可能とのなれば、王都が戦場になってしまいます!」


 僕の国って危険国家なの?


「その件は戻りしだい軍務大臣にお伝えしましょう」


 レスティーア様も青い顔でメッシーナさんに相づちを打つ。


「あ、あの〜」


 僕はそっと手を上げた。


「アルスタさん? 何でしょうか?」


「多分、それは有り得ません。僕の家はダルタニアス王朝が滅んだ後から、常闇のダンジョンの入り口を守護してきた一族です。しかし、常闇のダンジョンにはダルタニアス王朝を滅びに導いた悪魔が棲んでいると言い伝えられてきました。つまり、ザートブルク王国はエルクスタ王国に地下で通じている事を知らないのだと思います」


 と僕が説明したが、二人は少し納得していないようだった。


「例えそうだとしましても、アルスタさんがこちらに来られたのです。いずれ知られる事となるのではないでしょうか?」


 レスティーア様は僕が来たルートを知らないから、不安を払拭できないのだろう。


「ザートブルク側の常闇のダンジョンは出口側なんです。深層にある大扉はザートブルク側からは開ける事が出来ないみたいですよ」


 僕の説明に、おや?みたいな顔をするレスティーア様とメッシーナさん。


「それでは、アルスタさんはどの様な方法でこちらに来られたのですか?」


「僕の場合は、運の要素がかなり大きいですね。仮に深層の大扉を抜けられても、百階層のあの守護竜トライヘッドドラゴンがいます。初見では絶対に勝てませんし、戦力を投入しても決め手がなければ、聖剣があったとしても勝てる相手ではないから、やっぱり大丈夫だと思います」


「百階層とか、トライヘッドドラゴンとか、面白そうな話をしてるな」


 後ろから声がして、振り向けば赤い髪の騎士さんがうっッすい下着姿で立っていた。


 …………デカい。


 胸にある巨大なメロン。その圧倒的な存在感はトライヘッドドラゴンと肩を並べるほど凄まじい。


 この件に関してだけ言えば、トライヘッドドラゴンをも上回る力を持つルルエル様でも超完敗だった。


 ………あれ?


 何だか寒けが?


 おやおや何だろう?


「どうかしたか、少年?」


 一瞬、ルルエル様の気配がしたのは気のせいだろう。絶対に気のせいだ!


「い、いえ、何でもありません」


 座っている僕はアイシャさんを見上げてそう言った。……しかしデカい。ゴクリと生唾を飲む。


「ア、アイシャさんッ、服を着てくださいッ!」


 ツッコミを入れたのは、清楚系美少女のレスティーア様だった。


「服? あ、ああ、風呂上がりは騎士団にいた時もこんなんだったんだけどな」


 騎士団、天国かよ!


「だ、駄目ですッ! 早く服を着てくださいッ!」


「大丈夫だよな、少年」


 満面の笑みで僕に同意を求めないでください。もちろん回答はイエスですけどね。


 ……レスティーア様が僕をギロリと睨んでいるよ。もちろん紳士な僕の回答は――。


「ノーですよ。早く服を着てください」


「やれやれ、仕方ないな。所で少年、あたしからも質問があるんだけどいいかい?」


「あ、はい、どうぞ」


 下から見上げる巨大なメロンの向こう側で、アイシャさんは真面目な顔をして僕に言った。


「君は人間か?」


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