第22話 女傑極まれリ!

「君は人間か?」


 長身にして巨大なメロンを持つ赤い髪のアイシャさんが、思いもよらない質問をしてきた。


「えっ、人間ですよ?」


 僕は人間だからそう答える。


 死にかけた僕をルルエル様が命を分けてくれた。魔力も分けてくれた。魔法の叡智えいちも授けてくれた。


 ……僕、人間だよね?


「し、失礼ですよ、アイシャさん」


 レスティーア様がすかさずフォローに入った。


「少年の歳はいくつだい?」


「……十三です」


「レスティーア様とメッシーナが十五歳、あたしが十七だ」


「え、十七?」


「どうかしたか?」


 二十歳ぐらいだと思っていた。背が高いし、メロンは大きいし。ヤバいヤバい、失礼を働く前に正しい情報が入ってよかった。


「あ、いえ、それで僕の歳がなにか?」


 アイシャさんは顎に右手を添えて言った。


「若い」


「み、皆さんから見れば僕はまだ子供ですから」


「さっきの少年の会話が、お風呂を出た時に聞こえてきたんだ。少年は百階層の話しをしていたよな」


「はい?」


「我が国の記録として、常闇のダンジョンの最高到達階は四十八階となっている。四十九階に臨んだ者はいたが、帰ってきた者はいないからだ」


「…………」


「しかし少年は百階層にトライヘッドドラゴンなる魔物がいる事を知っていた。しかも『初見では勝てない』とも言っていたな。つまり再戦すれば勝てるという意味にも取れる」


「…………」


「信じられない事だが、まだ十三歳の少年がその魔物に勝ち、更には一人でこの階まで上がってきた。違うか?」


 アイシャさん、がさつな雰囲気が有りながら、洞察力が凄いかも。


「はい。だいたいそんな感じです」


 僕は、特に隠し立てする必要もないので素直に答えた。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇッ! 本当ですかぁッ!」


 今まで控えめに会話を聞いていたメッシーナさんが、びっくりするぐらい大きな声で驚いている。


「メッシーナは少年の戦闘を見ていないからな。あたしは意識が途切れる寸前に、少年がオークジェネラルの頭を吹き飛ばすところを見ていたから、只者じゃないと思ったよ」


 吹き飛ばしてはいませんけどね。


 そして、ちゃぶ台の対面に座るメッシーナさんが僕をまじまじと見つめている。


「アルスタさんは本当に十三歳なんですか?」


「はい! 十三歳です!」


 流石に、『おう姉ちゃん、わし十三やけどなんか文句あるぅ?』とかは言えないから、満面の笑みで十三歳を強調した。


 そして、ドカっとアイシャさんが床に座った。


「まあ、少年が人間でも、人間じゃなくても、命の恩人には変わりない。ありがとう、少年」


 そう言って右手が前に出された。僕はその手を握り固く握手を交わす。


「アルスタです」 


「アイシャだ」


 しっかし……アイシャさんのうっっすい下着姿は目のやり場に困るし、鼻下は全力で伸びている気がする。


 アイシャさんが着替えるって話が、なんか有耶無耶になっているのは気のせいかな? まあ、僕は敢えて言わないけどね!


「姫様、例の物は貰えたのかい?」


「はい! 分けて貰える約束をしました。これでお父様達は助かります!」


「ならよかった。メッシーナも死にかけたかいがあったってもんだ。それじゃメッシーナはお風呂に入ってきな。そんなガビガビじゃ、せっかくの美人が台無しだ」


 メッシーナさんの腹部は自分の血とブラッド・ブルのせいで真っ赤になって固まっている。顔は拭いて綺麗になっているけど、髪や首元などには赤い血の跡が残っていた。


「行きましょう、メッシーナ」


 レスティーア様が立ち上がって、メッシーナさんの手を取った。王女様が従者の手を取るとか、二人の仲の良さが伺えた。


「は、はい、レスティーア様」


 二人がお風呂に行くと、アイシャさんが大の字になって寝始めた。


「ア、アイシャさん?」


「ん、どうした?」


 アイシャさんは片目を開けて僕を見た。


「ふ、服は着なくていいんですか?」


 うっっすい下着姿が余りにも刺激的過ぎる。大の字になった事で、少し濡れた肌に下着が張り付き、巨大なメロンが際立っている。そりゃあもう際ど過ぎるッ!


「いいよ、面倒くさいし」


 女傑ここに極まれり! もう僕にかける言葉は無かった。満喫させて頂きますッ!


 と思った矢先に、ぐぅ〜と僕のお腹が鳴った。ヨシッ! ご飯にしよう! それがいい!


 僕はアイシャさんから目をそらして、排気用のアイテムボックスがある部屋の角へと行った。


 アイテムボックスからトライヘッドドラゴンのお肉を皆さんの分も含むて取り出す。ドラゴンの牙でお肉の塊を分けていく。その分けたお肉を生活魔法の発火で炙り焼きにする。中まで火は通りにくいけど、表面はパリッと焼ける。


「なんだ、矢鱈と良い匂いがするな」


 ちゃぶ台の方で寝ていたアイシャさんが焼けるお肉の匂いに引き寄せられて、四つ脚になって近付いてきた。


 む、胸元が全開に見えている。ぶら下がった巨大メロンが、右に左に揺れ動く。


「アチっ!」


 メロンまじガン見で、視線が釘付けになっていた為に、手元がおろそかになっていた。発火魔法の火で炙っていたお肉に手が触れてしまい、思わず声がでた。そのお陰で我に返れた。ヤバいヤバい、セクハラ小僧になりかけていたよ。


「すっげえ、良い匂いだなッ! これ、もう食えるのか? 食べてもいいか? 食べていいよな!」


 涎をダラダラと流して、炙り終わった一枚のお肉が乗っているお皿を見るアイシャさん。


「はい、こっちも焼けたので一緒に食べましょう」


 いま炙っているお肉もお皿に乗せて、ちゃぶ台に移動する。ちゃぶ台の上にお肉が乗るお皿が二枚と二人分のナイフとフォーク。


 お皿やカラトリーもアイテムボックスを造形して作ってある。フォークはともかくとして、ナイフの切れ味はめちゃめちゃ悪いので使い勝手はいまいちだ。


「んじゃ、頂きますッ!」


 アイシャさんは満面の笑みを浮かべてお肉を口に放り込む。


「☆★☆★☆★ッッ!!」


 そしてアイシャさんが吠えた!


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁッ! 激うっまベッリーデリシャスじゃねえかッ!!」


 トライヘッドドラゴンのお肉は、やはり最高に美味いよね!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る