無能と呼ばれた伯爵子息 常闇のダンジョンに追放された少年は異国の地で聖人様として崇められるようです。いやいや、僕は聖人様じゃなくて、小悪魔っ子の使いパシリですッ!
第38話 何者なの? 【受付嬢side】
第38話 何者なの? 【受付嬢side】
【受付嬢アンジェリカ視点】
「え?」
隣にいた筈の男の子の姿が消えたかと思った瞬間、ギルドマスターであるグレンさんの懐に入り、金と青で装飾された白い鞘が、グレンさんの割れた腹筋を殴打していました。
あのグレンさんも、何が起きたか分からずに青い顔をしています。
「元A級冒険者のグレンさんが一歩も動けずに一本とられた……。あの子はいったい」
私が呆然としていると、隣から「フフフん」と小さな笑い声が聞こえてきました。そちらには、あの男の子と一緒にいたメイドさんがいます。
「聖人様と戦おうなんて、百万年早いのですよ」
聖人様ッ!? あの子が!?
昨日のゴブリン襲撃事件で数百にのぼるゴブリンを討伐し、数多くの人の命を救ったという聖人様。さほど強くは見えない少年が申し訳なさそうにグレンさんの顔を伺っています。
「こんなんでいいですか?」
「……お、おう、合格だ。しかし、今のは何だ?」
グレンさんは一本取られた事よりも、一瞬で間合いを詰められた事に驚いています。
「短転移の魔法です。短い距離ですが、瞬間移動出来るんです」
「「瞬間移動ォッ!?」」
瞬間移動は伝説級の魔法。古代魔法の書物に名前は出てくるも、その術式は解明されておらず、手広く情報を持つ冒険者ギルド連合でもそれを使える人間を聞いた事がありません。
◆◆◆
「アンジェリカぁ、坊主があの聖人様って事は最初に言っといてくれよ。死ぬかと思ったぞ」
入会試験を終えて、フロアーに移動した私は、カウンターの向かいにアルスタさんを待たせ、後ろに立つグレンさんから小さな声で小声を言われました。
「そんな事より、アルスタさんのランクはどうしますか。流石にEランクって訳にはいかないですよね」
「そんな事って……。まあ、そうだな、Cランクあたりでいいんじゃないか」
「……そうですね」
冒険者は初心者のEランクからエキスパートのAランクまでが有ります。噂話と先ほどの試験から見て、アルスタさんの戦闘力はAランクは有りそうですが、冒険者は戦闘力だけではなく、探索力や踏破力、人脈や信頼信用なども加味してランクが決まります。
Bランク以上ともなると、実力に加えて信頼信用の要素が強くなり、聖人様と噂されるアルスタさんでも、Bランク以上にする事は出来ません。
と思っていた時もありました……。
◆◆◆
「アルスタさんの試験は合格です。本来であればEランクなのですが、特別にCランクへの飛び級とします」
異例の2階級特進。私が受付嬢になってからは初めての特例措置です。案の定、アルスタさんは驚いた顔をしています。……が、彼の後ろに控えているメイドは、不服そうな顔をして私を睨み、口を開きました。
「差し出がましいですが、宜しいでしょうか」
「何でしょうか?」
「アルスタ様が聖人様である事を先ほど私は伝えました。それを踏まえてのCランクであれば、あなた達の目は節穴と言わざるを得ませんね」
「なっ! あなたねぇ、2階級特進は特例中の特例なのよ!」
「そうだぜ、メイドのお嬢ちゃん。ここ十年は無かった特例措置だ。確かに坊主の力はAランク並みかもしれないが、Bランク以上にするには信用と信頼が足りない」
ギルドマスターの言葉にもメイドは怯む事もなく、薄い笑みを浮かべました。
「アルスタ様の実力がAランク? 本当にあなた達の目は節穴だった様ですね。Aランク冒険者が百人いても、アルスタ様には敵わないというのに」
流石にそれは盛り過ぎですね。アルスタさんもメイドの言葉にあたふたとしています。
「おいおい、そんだけAランク冒険者が集まったら、ドラゴンだって倒せるぜ。嬢ちゃんの話を信じたら、坊主はドラゴンより強い事になっちまう」
「だから、あなた達の目は節穴だと言うのですよ」
メイドはそう言うと、フッと不敵な笑みを浮かべました。
「アルスタ様はあの常闇のダンジョンを単独で最下層まで踏破したお方ですよ。最下層に棲む三ツ首の魔竜さえも倒したアルスタ様がCランク?」
はい? 常闇のダンジョンの最下層まで踏破?
「おいッ、マジか!? 冗談だよな?」
また不敵な笑みを浮かべるメイド。本当なの?
「信頼の話をするなら、昨日アルスタ様に助けられた王都の人達に聞いてみては? 皆さん、口を揃えて聖人様と讃える事でしょう」
昨日、街で戦闘をした冒険者達が聖人様に助けられたという報告は、幾つも上がっています。
「信用と言うならば、ロイヤルファミリーの命をお救いになったアルスタ様は、本日の夕方、王城にて栄典の授与式があります。そこで国王様から直接、最大級の褒章が賜われる事、間違いありません」
Aランクの冒険者でも国王様から直接褒章を貰う事などそうそうありません。国王一家が聖人様により一命を取り止めたと言う話は冒険者ギルドにも届いています。
そこまでの話を聞いて、私の思考回路はオーバーフロー状態です。
「……ますたぁぁぁぁぁ」
私はマスターに泣きつきます。
「……Sランク。常闇のダンジョンを踏破したってんなら、Sランクしかねえだろ……」
冒険者の枠を超えた規格外の冒険者に与えられるランクがSランクです。大陸でも数人しかいなく、この国では現在は一人もいない最強ランク。カウンター向こうで、オロオロとした顔の少年が、本当にSランク……。
「それじゃあ坊主、Sランク認定前に常闇のダンジョンを完全踏破した証拠は見せられるか?」
メイドの言葉だけを鵜呑みにする事は出来ません。しかし、マスターの言葉にアルスタさんは「はい」と言っちゃいました。
……本当に常闇のダンジョンを踏破したって事ですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます