第35話 聖人様無双 【近衛騎士side】

【とある近衛騎士の視点】


 執事長のセバスさんからの指示で、国王陛下が聖人様を連れて入室した応接室から少し離れた場所で警備をしていた。聞かれては不味い話でも有るのだろう。


「なあカルロス、中でどんな話をしてるんだろうな」


「そりゃ、聖人様に命を救って貰ったお礼とかだろ」


 お礼ね。それも有るだろうけど、レスティーア王女殿下が聖人様にベタベタだったのが気になる。

 

 噂で聞いたが、レスティーア王女殿下があの軍務大臣のバカ息子と婚約したって話だ。議会での決定事項だから、今さら王家が口を出してもひっくり返る事はない。


 しかし、聖人様がお相手なら話は別だ。聖人様の活躍っぷりは、我らがアイドルのアイシャちゃんの活躍とタメをはるぐらいに騎士仲間達の間で盛り上がっている。


 王都内も聖人様の話で賑わっているらしい。聖人様に助けられた人の数は百や二百じゃきかないって話だ。そりゃあ、盛り上がるわな。


 議会は軍務派、財務派、法務派、政務派、聖教派、そして国王派に分かれている。


 世論が騒げは、法務派と政務派は気にかけない訳にはいかないし、聖教派は聖人様との関係は良くわからないが、ないがしろにする訳はない。


 国王派は今まさに応接間で何らかの進展が有りそうな雰囲気だ。



◆◆◆



 応接間からガラスが割れる音が廊下に響いた。急いで駆けつけるが、扉が中から何かに押されているようで、なかなか開かない。中からはバサッバサッという音と一緒に調度品が割れる音がする。


 二人でめいいっぱい押すと僅かに隙間ができたが、その隙間から物凄い風が吹き出すと、強風に押されて扉はまた閉まってしまった。


「何だ、今の風は!?」


「クソ、部屋ん中で何が起きてるんだ!?」


 分かっている事は、国王陛下達がヤバいって事だ。風を操る魔法使いの襲撃でも受けているのか?


「壊してでも扉を開けるぞ!」


「おうさッ!」


 何度も体当たりをしてみるも、頑丈に作られている扉は壊れる気配さえしない。


 そうこうしていると、中から扉が開いた。出てきたのは黒い髪の少年。聖人様だ。


「せ、聖人様。国王陛下は!?」


「大丈夫です。先ずはここから離れましょう」


 俺達は聖人様の言葉を信じて、廊下を走りだした。すると、すぐ後ろから黒い翼を持ち、小鬼の様な角を持つ魔鳥オーガーアウルが応接間の扉を抜けて廊下へと飛び出てきた。


 廊下いっぱいに翼を広げて追いかけてくるオーガーアウル。更に一匹、二匹と扉から出てきた。


 廊下の角を曲がった所で、聖人様が走る足を緩めた。


「ここで迎え撃ちます」


 俺達も足を止めて、腰に下げた剣を抜く。


「ディメンションルーム」


 はい? 聖人様が魔法を唱えると、廊下の真ん中に突然扉が現れた。


「レスティーア様、今のうちに出てきて下さい」


 聖人様が謎の扉を開け、中に手を伸ばすと、王女殿下がその手を取り中から出てきた。何で扉から? 訳わかんねえぞ。


 続いて、王妃殿下、国王陛下、王太子殿下、最後にセバスさんが出てきた。


「ディメンションランスッ! 騎士さん、陛下達を連れて逃げて下さい」


 曲がり角からオーガーアウルが飛び出てきた。オーガーアウルはゴブリンやオークさえも捕食するヤバい魔物で、森の中では会いたくない魔物だ。


 しかし、聖人様が魔法を唱えると、オーガーアウルの頭から胴体が消えて無くなり、血を撒き散らしながら廊下に落下した。


「レスティーア様」


 聖人様の声に王女殿下が頷くと、王妃殿下の手を取り廊下の奥へと走り始める。


「お父様も早く」


 王女殿下の声に合わせ、カルロスが国王陛下、王太子殿下の背中に手を回し、避難を促した。セバスさんもそれにならい避難を始める。


「俺は聖人様とここに残る。カルロス、陛下を頼んだぞ」


「おう!」


 流石に聖人様を一人で残す訳にはいかない。聖人様が戦う姿勢を崩していないって事は、オーガーアウルはまだいるんだろう。


「ディメンションランス!」


 次のオーガーアウルが廊下の曲がり角から頭を出した瞬間に、聖人様が魔法を唱え、オーガーアウルの頭を消失させた。いったい何の魔法なんだ? あんな魔法は初めて見る。


「アイテムボックス。収納」


 続けて使った魔法で、一匹目のオーガーアウルが突然消えた。今アイテムボックスって言ったよな? それってロストマジックだよな?


「少し下がります」

 

 聖人様と一緒に5メートル程後ろに下がる。


「聖人様、オーガーアウルはまだいるんですか?」


「はい。応接間に四羽、外には三十羽ぐらいはいました。まだ来ると思います」


 王都に魔物が現れる事がレアな事なのに、王城にまで魔物が入り込まれたなどと、俺は一度もそんな話を聞いた事がない。


「騎士さん、僕の前には絶対に出ないで下さい。僕の魔法は空間消失魔法ですので、間違って当たったりしたら、命の保証は出来ません」


「わ、分かりました」


 何だよ、空間消失魔法って!! そんなヤバい魔法、見た事も聞いた事もないぞ! ……いや、見たな、今見たよな。マジ凄え聖人様!


 それからは、廊下に出てくるオーガーアウルを空間消失魔法で倒し、邪魔な死骸をマジックボックスに収納するという流れ作業を繰り返して、戦闘は終わった。


 俺は感動で体が震えていた。


 聖人様、ぱねぇ!!

 

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