第34話 狙われた王室
「ブエノス帝国は海路が欲しかった。それで白羽の矢が刺さったのがラトリアだ」
王太子様は、紅茶の入ったティーカップを優雅に持ち、軽く口を付ける。
ブエノス帝国と言えば近隣の国にちょっかいを出して、国土を広げている軍事大国だ。そして、ラトリア王国は帝国の南に位置する小国だった筈。
「ラトリア王国は滅び、帝国は海路を手に入れた」
常勝無敗の帝国と小国の戦争。戦火を交えれば小国に勝ち目はない。しかし、帝国もラトリアも、ここエルクスタ王国からは数千キロ離れた遠方の国だ。それが何故、この国まで飛び火してくるんだ?
「でも遠く離れた地での戦争ですよね?」
「戦争はね。問題が起きたのは大陸公路の要衝でもあるナルニア王国が、帝国への公路を封鎖してしまった事なんだ」
「公路を封鎖? 何でそんな事になったんですか?」
ナルニア王国は帝国の北西に位置する商業国家で、大陸の北と西と中央を繋ぐ大陸公路の要衝を抑える経済の要と言っていい国だ。ナルニアと敵対する事は経済的にリスクが高い。
「ラトリアに表敬訪問中だったナルニアの第二妃と第三王女が、その戦争で命を落としたんだ。それを知ったナルニア国王は帝国に対する報復とも言える制裁措置として、帝国へ通じる街道を全て封鎖したんだよ。そうなると帝国は北からの物流が止まってしまう。北からの品には魔物の素材が多いから、各地で戦火を広げている帝国にとっては大打撃になる。帝国は魔の森に隣接していないから、魔物の素材を集めるのも一苦労な筈だ」
あ、何か嫌な予感がする。
「もしかして、軍務派が帝国に手を差し伸べたとかですか?」
エルクスタ王国の北には魔の森が広がっている。小国のエルクスタが外貨を稼ぐには魔物の素材を輸出するのは至極当然の事だけど……。
「軍務派からなのか、帝国がコンタクトを取ってきたのかは分からないけど、軍務派と財務派は帝国と繋がろうとしているのは間違いないかな」
「……つまり、帝国と繋がる為に勢力を伸ばしているって事ですか? 軍務省と財務省が絡んでいるなら、騎士団が討伐した魔物の素材を帝国に横流しするのは難しくないと思います。だから勢力拡大とは関係ないと思うんですけど」
「そこにもう一人絡んでるっぽいんだよね」
王太子殿下が左目を瞑って片目でレスティーア様を見た。いちいち動作がカッコイイのは王子補正のせいなのか!?
「……伯父様ですか?」
「レスティが城に戻ってから伯父上の姿が見当たらないってメッシーナが言っていた。レスティに神物の話しをして常闇のダンジョンに向かわせたのも伯父上って話しだし、色々と考えだすと、僕らに毒を盛ったのも伯父上なのかなってぐらいに怪しいんだよね」
「……シオン、憶測で語る事ではないぞ」
「父上、ならば普段は城に顔を出さない伯父上が、何故このタイミングで城に来たとお思いですか?」
「…………」
王太子様の言葉に、国王様が返答に困っている。
「伯父上は――」
王太子様が話を続けようとした時、ガシャンという音ともに窓ガラスが割れ、四散したガラスの破片と共に黒い影が僕達の方へと飛んできた。
「空間障壁!」
ガラスの破片と黒い翼を持った魔物が不可視の壁に弾かれる。それを見て、王太子様は僕の顔を見た。
「シールド魔法か?」
「はい。暫くは大丈夫だと思います」
その言葉に少し安堵の顔をした王太子様だが、お妃様は顔を真っ青にして震えながら国王様にしがみついていた。
「オーガーアウルがなぜ王都に!?」
驚きの声を上げたのは国王様だった。窓を割り乱入してきたのは、黒色をした大きな
更に三羽の鬼梟が応接室の割れた窓から入ってくる。翼開長で3メートル近くある魔鳥が四羽、応接室内を飛び回り、空間障壁に向かっては弾かれている。
魔鳥四羽の羽ばたきによって室内は暴風状態だ。高級そうな調度品が破壊され、絵画が切り裂かれていく。豪華なシャンデリアは床に落ちて無惨な姿となり、それらの残骸が風に舞い、壁も天井も傷だらけだ。
「一先ず逃げましょう」
僕一人なら鬼梟を撃退する事も出来そうだけど、この室内暴風の中で国王様、お妃様、王太子様とレスティーア様、セバスさんの五人を守れるか自信がない。
「しかし、どうやって……」
「アルスタ様に任せておけば大丈夫です、お兄様」
座っているソファーから出入口の扉までは近い距離にあるが、鬼梟が飛び回っているため、この場を動くのは危険に感じるが、短転移なら飛べそうだ。
「ディメンションルーム」
応接室のテーブルの上に扉が現れる。
「皆さん、この中に入って下さい。さあ、お妃様」
お妃様に手を伸ばすと、お妃様が震えながら手を取ってくれた。ディメンションルームは僕を介さないと中に入れないので、お妃様を中に入れた後に、国王様、王太子様、セバスさんと、続けて中へ入ってもらう。
「レスティーア様、中での事はお願いします」
「はい。アルスタ様もどうかご無事で」
最後にレスティーア様を中に入れ扉を閉める。
鬼梟は相変わらず空間障壁への体当たりや、ホバリングからのくちばしや爪での攻撃を繰り出していた。
「さて――」
鬼梟四羽が飛び交う応接室。その出入口の扉に飛ぼうかという時に、また一匹部屋の中に入ってきた。
「って、まだいるの?」
短転移前に索敵魔法を使う。お城の上空を二、三十羽の鬼梟が旋回しながら飛んでいる。
「多いな……」
翼開長3メートル近い黒い魔鳥が三十羽も飛んでいたら、お城の空は真っ暗になっていそうだ。それらがお城を襲う訳ではなく、旋回し、四羽が応接室を襲撃した。
「……狙われてるのは国王様?」
鳥の中でもカラスなどは頭が良く、特定の人物を覚える事も出来るらしい。鬼梟の頭がどの程度かは分からないけど、ここをピンポイントに狙っている可能性が高い。
「今は、逃げ……だよな」
この応接室で迎撃も可能だけど、万が一、僕が倒れたらレスティーア様達は異空間のディメンションルームから出られなくなってしまう。
「短転移」
出入口の扉まで瞬間移動をした。
「あれ、開かない!?」
両開き扉は、強風に押されている為か引いてもピクリとも動かない。
「空間障壁」
風を遮る障壁を作る事で扉を開ける事ができた。廊下に出ると二人の近衛騎士がいた。騒ぎに気付き駆けつけて来たのだろう。
「せ、聖人様。国王陛下は!?」
扉から一人で出てきた僕を見て国王陛下の安否を気にかける。
「大丈夫です。先ずはここから離れましょう」
二人の騎士は少し戸惑った顔をしたが、一つ頷くと、僕と一緒に廊下を走り始めた。
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