第31話 一日も百日も関係ない思い
城内に通された僕は、レスティーア様、メッシーナさんと共に国王様の寝室に向かう事になった。アイシャさんは騎士団に状況確認のため別行動をしている。
しかし、僕の身分って他国の伯爵家の勘当された子供って感じで、何なら市民権さえ持ち合わせていない下民とさえ言える。
そんな僕が病中とはいえ、国王様の部屋に入ってしまって大丈夫なのだろか? しかもだよ――。
「レスティーア様、腕組み止めませんか?」
何故か馬車の中からずっと腕を組まれていると言うか、抱きつかれているのだ。
「……駄目ですか?」
うぐっ、美少女の上目遣い、めちゃヤバ可愛い! しかしだよ――。
「王女様のお立場が悪くなりませんか?」
一国の王女が、貴族でもない男と、しかも城内で腕組みなどしていたら、レスティーア様の沽券に関わる問題だ。
しかし、レスティーア様は小さな声で囁く様に言った。
「……申し訳ございません。実のところ、この方が都合が良いのです。このままでお願いします」
「…………」
そう言われてしまっては告げる言葉が出てこない。でも、すれ違う偉そうな人や執事さん、メイドさんがめっちゃ僕を見て来るんですけど!
◆◆◆
「レスティーア王女殿下、お戻りになられたのですか?」
綺麗な装飾品や絵画で飾られた廊下を歩いていると、レスティーア様に声をかけてきた偉そうなおじさん。
八の字の形をしたチョビ髭が偉そうっぷり感を
「はい。軍務大臣はお機嫌が悪そうですね」
「下等な魔物が王都を荒らしたのです。不機嫌にもなります」
そして僕をギロっと睨んだ。
「その者は何者ですかな? まさか常闇のダンジョンに行って、男を連れて帰ってきたとは仰りますまい」
皮肉たっぷりに言う軍務大臣。
「いいえ、運命の方を連れて帰って参りました」
それを皮肉で返すレスティーア様。この二人は仲が悪いのか?
「それは困りますな。殿下には婚約者、我が息子ザコイールがいる事をお忘れなきようお願いしますぞ」
「その婚約は貴方がたが勝手に決めた事。私は認めていません」
「フン、何を仰りますか。我々が勝手に決めたのでは有りません。議会が決めたのです。お考え違いをなされては困りますな」
嫌らしい笑みを称えた軍務大臣を、レスティーア様がキッと睨んだ。
「行きましょう、アルスタ様」
レスティーア様に腕を引かれその場を立ち去る。
「……なんか、お困り事のようですね」
「フフフ、でももう大丈夫です。聖人様が婚約者ともなれば議会も口を出せませんから」
レスティーア様の婚約者は聖人様かぁ。こんな美少女と結婚出来るなんて、僕も聖人様にあやかりたいね。
………………聖人様?
「あ、あの聖人様って、まさか……」
「はい。アルスタ様です!」
僕の腕に抱きついていたレスティーア様が、更にギュッと抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと待ってください。僕とレスティーア様は出会ってまだ一日程度ですよ!?」
「一日も百日も関係ありません。今日、アルスタ様に出会えた事を、私は生涯忘れたりはしません」
「で、でもですよ、僕はこの国では市民権もない、言わば下民です。そんな訳の分からない輩と婚約とか不味いですよ」
「そんな些細な事は問題有りません。そうですよねメッシーナ」
「はい。アルスタ様の事は多くの王都民が聖人様として知れ渡っていると思います。その聖人様と我が国の王女殿下がご婚約となれば、軍務派と財務派を除く多くの国民が歓迎する事間違いありません」
軍務派と財務派? さっきのチョビ髭のおっちゃんが軍務派で、財務派ってのもいるのか。
「アルスタ様」
真剣な顔で僕を見るレスティーア様。
「今、我が国は軍務派と財務派が手を取り、議会を手中に収めています。国王派は年々力を弱めており、私の婚約さえも議会で決められてしまう始末です」
ギュッと唇を噛み、僕の腕を取る手に力が入るのが分かった。
「…………腹黒い……腹黒い女と思って構いません。どうか私に力を貸してください」
美しい翡翠の瞳に涙が溜まる。
「先ほど、城外で聞いた話ですが、今回のゴブリン襲撃も、力及ばない国王派のせいだと言う意見が多いそうです。これ以上国王派の力が弱まれば、我が国は軍事国家への道を辿りかねません」
僕がいたザートブルク王国が軍事国家だと言う事を聞いた時に、貴族がなぜ能力至上主義なのか少しだけ納得できた。だからといって、多くの子供達の命を軽んじて良い理由にはならない。
もしかしたら、この国の未来もそんな悲しい国になってしまうかもしれない。
「レスティーア様、僕は――」
「レスティーア様、それだけの理由で宜しいのですか?」
僕の言葉に被せて、メッシーナさんがレスティーア様に何かを問いている。
「な、何の事ですか」
「一日も百日も関係ないと仰った答えです。レスティーア様は腹黒い女のままで、ご婚約されるのですか?」
いつも穏やかなメッシーナさんの目は真剣で、それでいてその言葉にはレスティーア様を気遣う優しさを感じる。
「答え……。そうでしたね。大切な事をお伝えしていませんでしたね」
そう言ったレスティーア様は、僕に抱きついていた腕を解き、そして少しモジモジし始めた。
「ア、アルスタ様……」
「はい?」
「常闇のダンジョンでアルスタ様が現れた時……、そ、その……、は、白馬の王子様が現れたかの様な、む、胸のトキメキを感じました」
僕が白馬の王子様?
「そ、それからダンジョンを出るまでの間……、アルスタ様の両腕に抱かれて……、ドキドキが止まらなくて……、そ、その、アルスタ様が凄くカッコイイなと……」
僕がカッコイイ?
「だ、だから……わ、私はアルスタ様と、け、け、結婚……したいですぅぅぅ」
レスティーア様の顔が真っ赤になって、頭からは湯気の様なオーラが出ている。
それだけ真剣に僕への気持ちを伝えてくれたんだ。ならば、下民だ、パシリだなど関係ない。答えは一つだ。
「僕もレスティーア様は素敵な女性だと思っていました。よ、宜しくお願いしますッ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます